右の散歩道
昨日はえらい目に遭った。まだ昨日の声が左耳にこびりついている。
だが散歩はやめられない。これは生きがいのようなものだからだ。
今日は右に行こう。左はろくなことがなかったがそうなると右はどうだろうと思ってしまう。
深夜になったら出発するかと思い暇を潰す。
そろそろ出る時間だ、昨日の十字路を目指し歩く。
今日の月は満月だ、いいことがあるのかもしれない。
右の道へと足を運ぶ、するとすぐに声をかけられた。
右を向くと、コンクリートが崩れて隙間が出来ている塀があった。隙間から
「そこの兄さんや」
そう声をかけられた。夜中にしかもこんな時間に起きている人がいるもよかと、しかも声的に考えると老人のようだった。
「いるんじゃろ?いるんじゃろぅ?」
返答しようとするが少しおかしい。
隙間を除いても声の主が見えない。
無視しようとも思うがこれがもし助けを求めて話しかけているのだったら自分には無視はできない。
「おーい、おーいぃ、いるんじゃあろぉぉ」
「どうしましたか?何か困ったことでも?」
「そうなんじゃぁ、とにかくこちらに顔を出してくれんかぁ?」
なぜだ?塀からではなく何も塀があるなら入り口があるはずだ。しかしいくら探っても入り口らしきものはない。
少し背伸びをし塀の向こうの家を見ようとするが見えない。平屋か?それもおかしい辺りは真新しい家ばかりなのにここに着て平屋?ここだけが時の流れに取り残されているようになってしまう。
「助けてくれんのかぁ、?」
言われるがまま、穴に顔を覗き込む。
すると
いない、声はするのだが主がいないのだ。
「くくく、ありがとう」
そう聞こえた瞬間、ブンッ!
と鎌が顔をかすめた。驚き穴から顔を出す。
「ちえっ、手が震えてしまっただけなんじゃぁぁ、だから今度はしっかりと切ってるから顔、よこせぇぇ」
理解が出来ぬまま立ち上がり後ろを見ながら十字路に戻る。
この先に行くことは自分の身の安全が保証されない気がした。
また昨日のようになってしまったと思いながら帰路につく。
出勤する時ふと思い遠回り気味にはなるが十字路を見ていくことにした。
不思議なことに十字路だと思っていた所はT字路だった。
つまり右には道はなかったと言うことだ。
自分が昨日通った道、見た物者、風景は何だったんだと自分に問う。
わけも分からず時計を見ると、出勤時間ぎりぎりだった。
焦りながら小走りで会社に向かう。