〈剣士〉(フェンサー)・シャーロット
手の中で具現化した刀、『闇爪伐折羅』を惚れ惚れと見つめつつ――
『ぼく』は、その身体に同時に起きたもう一つの変化に、重ねて驚いた。
一糸まとわぬ姿だった『シャーロット』の身体を、気づくと薄紫色の装束が覆っている。
ゆったりと身体を包む着物と袴。
その上から、胸元を包む革製の胸当てと、左腕を覆う篭手。
裸足だった足にも、脛当てと足袋、その上から脚を包む貫の履きなれた感触。
それらの上から、ふわり、と全身を覆う、丈の長い陣羽織。
それこそ、まさに――
かつて戦場にあった『ぼく』が、身に着けていたものの姿。
「これは――」
《それが、おぬしの『魂の形』じゃ》
「魂の……形?」
《かつてのお前さんは、どうやら――
〈剣士〉であったらしいの。
何か思い出せたかね?》
老人の言葉に、『ぼく』はかぶりを振った。
この姿をしていたこと、手にした愛刀――
それらのことは確かに、思い出せた。
それらを手に、数多の死線を潜り抜けたことも。
しかし、それ以外のことは――
いや、それだけ思い出せれば、今は充分!
迫ってくる巨体の振動に、反射的に『ぼく』は柱の陰から飛び出した。
一瞬遅れて、巨大な尾の一撃が叩きつけられ、石柱がその真ん中部分を粉々にへし折り、粉砕する!
「あんたらが何者かは知らないが、とりあえず感謝しておくよ。
詳しい話は、あとで聞かせてもらう!」
そして赤竜に向かって身構え、愛刀・『闇爪伐折羅』の切っ先を向けた。
ぐおおおん――
その刀身が、呻くような重々しい響きとともにわななく。
握った柄を通じて、『ぼく』の気息から生まれた、研ぎ澄まされた『念』――
それが刃の切っ先にまで満たされる感触。
こちらに向き直った巨竜が咆哮し、その腕を振り上げてきた!
ちょこまかと、小虫ごときが。
その凶暴な眼が、そう告げている。
だが、その小虫ごときのちっぽけな毒針が、おまえに悲鳴を上げさせるのだ!
竜の鋭い爪が、赤い暴風の如く、頭上から『ぼく』目掛けて襲い掛かってくる――!
それを迎え撃つ絶妙のタイミングで、刃の切っ先が跳ね上がった。
「――閃ッ!」
気合とともに斜め上へと振るう一刀。
奔った刃は美しい光の帯の軌跡と共に――
赤竜の腕を、手首から断ち斬った。
紅い鱗と鋭い爪を青白い光にきらめかせて、斬り飛ばされた竜の腕が宙に舞い――
どしゃっ、という重々しい音と共に、少し離れた石床の上に転がると。
一瞬遅れて、切断された竜の手首から、赤い鮮血が吹き上がる。
赤竜がのけぞり、先ほどの咆哮よりもなお激しく、耳を裂くような苦鳴を上げる。
一方、『ぼく』の手にある闇爪の方には、竜の鱗ごとその腕を断ち斬ってもなお、その刀身が折れるどころか、刃こぼれ一つない。
いや、斬る前よりさらに、鋭さを増したかのようだ。
「『ぼく』の言葉が解るとは思えないが、一応訊こう」
『ぼく』は竜を眼前に見据えて、問いかけた。
「まだ続けるつもりか?
牙と爪を収めてくれるなら、これ以上おまえを傷つける気はないぞ」
それに対する、竜の返答は――
激昂の咆哮と、残る左腕での爪の一撃だった。
「やはり、伝わらないか。
すまないな、竜の言葉が解れば良かったんだが」
その攻撃を飛び退って躱すと、『ぼく』はひらりと跳んだ。
そして、その左腕から、竜の肩へ、と続けざまに跳び移り――
そして、その眼前へ。
「これは、返してもらうよ」
竜の角に巻き付くように引っかかっていた、赤い布を掴み、取り戻すと――
その眉間に、刃を突き立てた。




