内なるものたちの『声』
その声は、先ほどの老いた声とは明らかに異なっていた。
《お手並み拝見、と黙って見守ってはいたが――
さすがにそろそろ、頃合いだろう。
その『身体』が使えなくなってしまっては、『我々』も困る》
声の主は、まだ若い――それでいて、どこか威厳と自信を感じさせる男のものだ。
こんな状況でさえなければ、思わず聴き惚れてしまいそうなほどの、
美声、と呼ぶにふさわしい声だった。
そして、驚くべきことに――
きこえてくる声の主は、一人だけではなかった。
《『我々』の声が聴こえているかね?
予断を許さぬ状況だ、のんびり話している暇はないが――
逃げ回るだけでは、手詰まりじゃ》
続けて聴こえてきたのは、老人の声。
これも、先ほどの得体のしれない老いた声とはまた別のものだ。
こちらは、穏やかさと人の良さ、そして深い知性を感じさせる。
そしてさらに、もう一つの声が。
《――こんな無茶苦茶な状況で、よく頑張りましたね!
すごいです、『四人目』さん!》
驚いたことに、今度はまだ若い女性の声だ。
こちらは明るく張りがあり、大人のようにも、子供のようにも聴こえる。
それらの声は、周囲の空間に響くこともなく、直接頭の中に響いた。
これは――
いわゆる、念話というやつなのか?
というか、そもそも『四人目』って、何のことだ?
「なんだかよくわからないが、助けてくれるつもりならどうにかしてくれ!」
あまりにも不可解なことが多すぎて、『ぼく』は思わず叫んだ。
背にした柱越しに、赤竜の咆哮と、巨体を身じろぎさせる音が聴こえる。
「この状況で、アレをどうにかできるのか?
どうしたらいい!」
《『交代』する手もあるのだが――
まあいい、最後までキミに任せよう》
最初の、若い男の声が告げた。
《シャーロットの額に触れたまえ》
言われるがままに、おそるおそる、額に手を触れる。
さらりとした心地よい感触の前髪の、その奥に――
固く冷たい、異様な感触があった。
なんだこれは!?
何かが――額に埋め込まれている!?
この目で直接視ることはできないが――
少女の額の中央に、明らかに人の肌とは異なる、滑らかで固い――
鉱物、いや、石のようなものがそこに埋め込まれていた。
《それは『聖魂石』――
『その身体』と、『我々』を繋ぐ『魔道器』じゃ》
《それに指先で触れたまま、念じてください――
かつての『あなた』の手に、もっとも馴染んでいた武器を》
老人の声と女性の声が、続けてそう語る。
かつての『ぼく』の武器?
自分のことすら思い出せないというのに、か?
だが反論している余裕はない。
言われるがまま、僕は人差し指と中指を、額にある固い感触に触れて、目を閉じた。
かつての……自分。
やはり、何も思い出せない。
しかし、指先の冷たさは――
指に残る、慣れ親しんだ感触を呼び起こす……ような気がした。
《はっきり思い出せなくていいんです。
イメージしてください、その感触の武器を!》
その背を押してくれるように、女性の声が力強く言った。
指先に生まれるその感触の記憶。
あやふやで不確かなそれが、頭の中に浮かぶ形とともに、徐々に確かなものになっていく。
それは――
優美に湾曲した、艶やかにきらめく刃を有した、長剣。
いや、『刀』だ。
それが『そう』であると確信した瞬間。
目を開けると、いつのまにかその手には、光り輝く『それ』が握られていた。
『ぼく』は、その刀のことを知っていた。
目覚めるまで、その刀は間違いなく、『ぼく』と共にあったことを、思い出したのだ。
そして、その愛刀の名をも。
「闇爪伐折羅――
また『ぼく』と共に、戦ってくれるのか」




