打開
舞い散る灰塵の中、巨大な赤竜と相対しながら。
『ぼく』はこの状況への打開策を考えていた。
周囲は、石造りの広大な空間。
おそらくは古い時代の神殿跡、というところだろう。
かつては荘厳な場所であったろうその空間はもはや荒れ果て、
四方の壁も、見上げるほどの高さにあるアーチ型の天井も、
空間の左右それぞれに距離を置いて並んだ三対の巨大な柱も、
それぞれ至るところに黒い筋のような亀裂が走っている。
天井近くの高見には青白い光が浮かび、それがこの広大な空間を照らす照明となっている。
だがおそらく、あれもただの照明というわけではあるまい。
脱出路と思しきは――
眼前に立ちふさがる赤竜の背後。
巨竜が出るには小さすぎるが、人が通るには充分な大きさの、
やはり石作りの門を思わせる、両開きの扉。
この場から逃げ出すには、そこを通るより他になさそうだが――
閉ざされた石の扉が、この少女の身体の腕力で、素直に開いてくれるかどうか。
――ま、とりあえず確かめてみるしかないか。
『ぼく』は、体勢を整え、身構える。
空間のほぼ中央に陣取る赤竜を突破し、その背後の扉にたどり着くには、
その左右どちらかを抜けるしかないが。
どちらを抜けるにしても、奴の攻撃は届く距離だ。
ならば、隙を突くしかない!
『ぼく』は全力で、向かって右手側に向かって走った。
予想通り、それに反応し、赤竜が身を乗り出し、襲い掛かってきた!
刹那――
だん、と床を踏み込み、身体をそらすと、『ぼく』は跳んだ。
あえて、牙を剥く竜の眼前へと。
そして、身を覆う赤い布を翻し、竜の目元にそれを被せる。
突如として視界を覆われ、予想通り竜は怯んだ。
放った腕の一撃は空振り、乗り出した身体の勢いも止められずに
そのまま竜の身体が石壁に激突する!
轟音と振動。
頭上からは衝撃に崩れ落ちた粉塵が舞い落ち、さらに視界を煙らせる。
『ぼく』は竜が起き上がるのを待たず、そのすぐ脇を通り抜けて、奥の扉の方へ駆けた。
そしてそのまま足を止めず、覆うもののなくなった身体ごと、閉ざされた石の扉に体当たりする。
が――
予想通り、石の扉はびくともしない。
したたかに肩を打ちつけるて、床に倒れ込む。
痛みに呻く暇もなく、『ぼく』が身を起こし、振り返ると。
赤竜はまだ目元を覆われたまま、もがいていた。
どうやら、竜族にしてはあまり知恵の回るやつではないらしいが――
やはり、やつを斃さないことには、ここからは出られないということか?
その時、布で目元を塞がれたままの竜が、こちらを向いて口を開いた。
その意図を察して、近くにある柱の陰に逃げ込むと。
再び火息による、猛烈な爆炎が襲いかかってきた!
「――くッ!」
こちとら身を覆うものすらなくなって素っ裸なんだぞ!
直接爆炎を浴びなくとも、その熱気だけで、『シャーロット』の白い肌が火傷しそうなほどに熱い。
ますます万事休すって感じか……!
その時。
《なかなか、悪くはない判断と動きだった。
だが、逃げ回るだけでは埒が明かんな》
脳内に、奇妙な声が響いた。




