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覚醒すぐの絶体絶命

おいおいおいおい!

何の冗談だ、これは!?


耳を塞ぎたくなる凄まじい咆哮にびりびりと空気が震え、その口腔から漏れ出す熱気だけでも、間近で浴びればただでは済まないであろう熱さが伝わる。

首を下げた状態ですら、すでに今の『ぼく』の身長より頭二つ分は高い。


まぎれもなく、それは正真正銘の、赤竜(レッドドラゴン)だった。


「力を示せ、って何だよ!

 こんなバケモノ、どうしろっていうんだ!!」


声の主からの返答はない。

くそっ、詳しい説明すらなしか!


自分に関する過去の記憶の一切を持たない『ぼく』だが、

目の前にいる存在がどのようなものなのか、

こうして相対しているということがどれほど絶望的に危険なことなのか、

それはよく、『()っていた』。


そしてまぎれもなく――

こいつは幻影などの類ではなく、

そして、こちらを容赦する気もないと見た。


対するこちらは、どちらかといえば小柄で、非力な若い女。

少女、と言ってもいい歳だろう。


その細っこい身体を包むのは、先ほど祭壇からひっぺがした赤い布一枚。

当然、得物になりそうなものすらない。


ハッ、手詰まりだ。

こんな状況で、どうしろって?


状況が絶望すぎて、むしろ笑えてくる。

目が覚めてほんの数分たらずで、また覚めない眠りにつく羽目になるのか。


せめて楽に死なせてくれたらいいが――

安く見積もっても、火息(ブレス)で消し炭、ってところか。


などと考えて、ふと気づく。


確かに絶望的な状況なのに――

意外なほど、『ぼく』は冷静だ。


普通はこういう時って、死の恐怖に怯えて、

錯乱するか、諦めて運命に身を委ねるか――

こんな風に冷静では、いられないはずだ。


まるでこの状況すら、他人事のようだ。

この身体が、本来の自分のものではないと、理解しているからだろうか?


それとも――


目覚める前の『ぼく』にとって、

こんな状況が『()()』だったからだろうか?


などと考えていたら――


巨大な樹木の幹のようなものが、すぐ目の前を薙ぎ払った!


「――うおッ!」


それは赤竜の腕の一撃。

図らずもギリギリのところで届かなかったが、あと一、二歩手前にいたら、

その鋭い爪で胴をえぐられ、そのまま殴り飛ばされていただろう。

深手どころか、間違いなく即死だ。


(やっこ)さんの方は、殺る気マンマンってわけだ。

あれこれ考えてる余裕はないな!


『ぼく』は後ろに跳ねて竜から距離をとる。

目覚めたばかりだというのに、思ったよりも、この身体は軽快に動いてくれる。


周囲に得物になりそうなものはない。

素手(ステゴロ)で竜と喧嘩――なんてまあ無茶だ。

となれば、ここは逃げの一手しかないが――


と、竜が牙を向いて、鱗よりさらに赤黒い巨大な口腔を、こちらに向けた――

ヤバい、来る!


横に飛び退り、先ほどまで横たわっていた台座の裏に身を沈める。

一瞬遅れて、業火と呼ぶにふさわしい爆炎が吹き荒れ、すぐ奥に屹立していた祭壇を紅蓮に染めた。

祭壇に捧げられていた、何かよくわからない儀式道具やら、像のようなものやら――

それら全てが火に呑まれ、一瞬にして灰と化す。


動きは予想通りだ。

腕が届けば爪で薙ぎ、距離を取れば火息(ブレス)を放つ。

そして、障害物の裏に潜んだ時は――


屈んだ姿勢から、だん、と石床に右手をつくと、

その腕を発条(ばね)のようにして、『ぼく』は奥の祭壇のほうへと前転しながら跳んだ。

少し遅れて、丸太の如き腕よりも、さらに二回りは太い赤竜の尾が、台座を力任せに薙ぎ払った!


着地して辛うじてその一撃から逃れ、先ほどの炎を防いでくれた石造りの台座が

まるで砂でできた山のようにやすやすと粉砕されたことに、改めてぞっとする。


こんなのと真っ向勝負なんて、正気の沙汰じゃないぞ!

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