表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

御身の名はシャーロット

「誰だ!?」


薄闇の中に響き渡った、姿なき声の主に『ぼく』は問いかけた。


「あんたは何者だ!

 ここは……何処なんだ!?」


《ひとまずは、成功、というところですな》


響き渡る声の主は、老人のものだった。

だがそれが、『老爺』なのか『老婆』なのか、そこまではわからない。


薄闇の空間の中、けたたましく響く残響が、声の主の声音を聞き取りづらくさせていた。


「成功?

 何に成功したと言うんだ!

 『ぼく』は、一体――


《何もお分かりになりませぬか。


 ――よろしい。

 ()()()()()()()()()()()、『成功』の証にございます》


声の主の意図がわからない。

それどころか、今のこの状況も、自分自身のことさえわからない。


にも関わらず満足げなその言葉に、『ぼく』は弄ばれているような気分になった。


「姿を現せ!

 そして説明しろ!

 一体、何が――」


その言葉が終わるより前に、突如として光が生まれた。


空間を覆う薄闇が駆逐されていく。


不思議な青白い光に照らされたその場所は、(ふる)い時代に築かれたと思しき、広大な石造りの空間だった。


そしてすぐ背後には、何らかの儀式に用いられたと思われる巨大な祭壇と、先ほどまで『ぼく』が横たわっていた、石造りの寝台のような台座がある。


その祭壇を覆うようにかけられた赤い布を掴んで、剥き出しの身体を外套(クローク)のように覆うと、周囲を見回した。


声の主と思しき存在の姿はない。

だが確かに、声は部屋の中に響いた。


《お目覚めを、お慶び申し上げます。皇女殿下》


「皇女?

 この『ぼく』が?」


《さよう。

 あなたさまは、不幸な出来事によって一度死に――

 そして、『新たな生』を受け、再び蘇ったのです》


死んで――

蘇った、だと!?


いや、バカな、そもそも、『ぼく』は――


頭の中を支配する、不可解な疑念。


違う。


この声の語る話は、事実ではない。

少なくとも、『ぼく』にとっては。


しかし、その根拠となる、目覚める以前の記憶を、

『ぼく』は全く、持っていなかった。


思い出したい。

大切なことが確かに、あったはずなのに。


それを思い出そうとしても――

何も、思い出すことができない。


目の前がくらくらして、頭の奥に疼くような痛みと、吐き気が襲ってくる。

『ぼく』は思わずその場に膝をついた。


《あなた様の名は、シャーロット――

 かつてこの大陸(アインファ)蹂躙(じゅうりん)した、

 ダセス帝国の最後の皇位継承者。

 シャーロット皇女殿下にございます》


「違う!」


『ぼく』はそれを拒否するように叫んだ。

シャーロット、という名の少女に相応しい声で。


その言葉を受け入れてはいけない、そんな気がした。

その言葉を認めたら、信じたら――


『ぼく』は『ぼく』ではない存在に――

『シャーロット』にされてしまう。


そんな恐ろしい予感がした。


《どうやら、混乱されておられるようですな。

 それも詮無(せんな)きこと。

 なにせ、殿下のお体には――》


その言葉が不意に途切れて。


《ひとまず、詳しいお話は改めていたしましょう。

 まずは、御身(おんみ)の『神化(しんか)』が無事なされたるか否か、

 確かめさせていただきますぞ》


何の感情も感じ取れぬその声が、

まるで死を宣告するがごとくにそう言い放つと。


突如として、眼前に巨大な姿が現れた。

こちらを見下ろしそびえ立つその姿は――


艶やかな紅蓮の鱗で全身を覆った、ドラゴンの姿だった。


《御身のお力を存分にお示し下さいませ。

 シャーロット皇女殿下》


その声を合図とするかのように、

紅い竜のすさまじい咆哮が、空間を震わせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ