4章 解かれた扉
耳を疑いたくなるような言葉だった。
「だって、え、ロッタ…さん……?」
頭で反芻しているのは、シルトの言葉だけで、それ以外の言葉は全て耳から耳へ抜けていった。
「昨日、君と一緒にいた男がその時の変な男だよ…」
開いてはいけないモノが心の何処かで開いたような感覚に陥った。何も聞こえない中、少女…ソーンの笑う声がした。
「あ、ジェラール!?ジェラール!ジェラー…」
ここは?
“君の記憶の扉が開いたの”
彼女は笑う。
“シルトさん、心配してたね。覚えてる?”
うん…はっきり…。
“それじゃあ、一緒に行こう?”
何処に?
“記憶を見に…”
俺は急いで、馬を走らせた。
背中に抱っこ紐で結んだジェラールを乗せて、ロッタの診療所へ急いだ。古めかしい扉を早く叩いて待つ。
「はい、どちら様で…ジェラール?!」
扉を開けて出てきたのは白髪混じりの眼鏡をかけた3〜40代の医者だった。
「あんたが、ロッタさん?」
息が上がりながらも確認する。
「ええ、そうですが…」
「ジェラールは、よくこうなるんですか?」
「ええ、養子としてとってから、ずっとこんな感じですね」
「いつもはどうしてるんです?」
「2階の寝室に寝かせています」
10代の子供をこの医者が担いで階段を登れると思わず、咄嗟に、俺も手伝いますと言ってしまった。
夜になり星が街を照らし始める頃、ジェラールの意識が戻った。
泣き疲れた後のように重い体を起こすと、シルトさんがそこにはいた。
「ジェラール?!横になってていい、今…」
「ロッタさんを呼ばないで」
動きが止まり振り返るシルトに、僕を憲兵の駐屯所まで連れて行ってとお願いした。