3章 記された手掛かり
翌日。僕はまた、エルンストの屋敷がある町に来ていた。理由は、寝ぼけたロッタさんが薬の調合に失敗し、貴重な薬品をだめにしてしまったから、その薬の調達に来たのだ。その途中、昨日のお店の店員さんが話しかけてきた。
「やあ、君。昨日ぶりだね」
その言葉から始まったおしゃべりは、風船のように膨れ上がった。
「おっと、自己紹介が遅れたね。俺はシルト・コンパ―ニョ。君は?」
驚いた。昨日の本の署名にコンパ―ニョの文字があったからだ。
「僕は、ジェラール・エルンスト」
「え!?君、あのエルンストの生き残りなの?!!」
「そう、みたいです」
「ん、みたい?」
昨日初めて聞いたということを話し、隠された本の署名の事も伝えた。
「…そうだったのか。あ~。俺も、一回見てみたいけどなぁ~」
そう言うと、しばらく悩んだ。
「どうしたの?」
「いや…」
言葉を濁すようにして彼はジェラールから目を逸らす。隠したい事があるのだろうかと思い、ジェラールの森より深い瞳と鮮やかな青い瞳が彼を探るように見つめる。
すると、彼が気まずそうに口を開いた。
「実はあの晩、変な男を目撃したんだ。エルンスト家をジロジロと横目で見たりして、変なヤツと思って…彼が店を後にしてからすぐ、俺たちに招集がかかった。それで…その…」
「聞こえない、もう少しはっきり言って」