1章 いざ屋敷へ
馬車に揺られながら、目的地であるエルンスト家を目指す。一緒に行こう。とロッタさんが言った時は流石に止めたが、珍しくロッタさんが折れずに行くと言い張るため、一緒に来てもらうことにした。
ロッタさんの診療所兼家からエルンスト家は森を一個挟んだ場所にある為、すぐに着いた。
「ここが、我が家…」
それは、軽く蔦が張っていたものの立派なお屋敷だった。だが、変だ。
「そう言えば、初めてだね。この家に帰ってきたのは」
「ロッタさん、この屋敷に人は居るんですよね…?」
怖くなって聞いた。何故なら、僕はロッタさんから屋敷には沢山の人が居て、とても賑やかだったと、聞いていたからだ。ついさっきも聞いた。
「…」
ロッタさんは答えなかった。その沈黙が、答えになる事は子供の僕でも予想は着いた。
「…軽く、お昼にしよう」
そう言って、ロッタさんは僕の質問に答えることはなく、馬車に戻ってしまった。
しばらくの間沈黙が続いた。それは、お店に着いてからもそうだった。
だが、料理を待つ間にロッタが口を開いた。
「どこから話そうか…」
ロッタさんは重い口を慎重に、僕を気遣うように開けた。時々沈黙も混ざりながらだが、彼はジェラールにエルンスト家の過去を話し始めた。
「エルンスト家は、誰もが知ってる学者の家系だった」
だが、今から10年前エルンストに悲劇が襲う。誰もが寝静まった夜、突然屋敷を誰かが襲った。その誰かは、その屋敷に住む夫妻と寝ていた子供1人を殺害し逃走。夜が明けてきた頃、ロッタさんは研究の結果を持ってエルンスト家を訪れた時にこの惨状を発見し、憲兵に連絡。そして、駆け付けた憲兵に保護されたのがジェラールだった。
軽くも重い昼食を食べ終え、エルンストの屋敷に戻る為馬車に乗り込むとそこで意識は途絶えた。
また、ここだ。
知らないけど知っている風景を眺めながら意識を傾ける。いつもと同じように女の子が出てきて同じことを言う…と思った。
“エルンストの屋敷…絵、ひ、つの扉…しゅ…。タに気…けて”何を言っているのか解らないが伝えたいことは自然と分かった瞬間、意識は現実へと引っ張られた。
「ジェラール!」
「ロッタさん…」
「大丈夫か?馬車に入った瞬間寝たんだぞ」
「…そうだったんですね。ご迷惑をおかけしました」「いいや、迷惑でないよ。さ、そろそろ着くよ」
馬車を降りると、エルンストの屋敷へ入る。幸い、鍵は両親と仲の良かったロッタさんが管理していたため助かった。10年近く経って、帰ってきた屋敷はあまりにも静かで、ロッタさんから聞いていたかつての賑やかさはどこにもなかった。