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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

赤傘おじさん


 僕が子どものころの話です。


 夏休みには毎年、親戚のおじいさんの家に行っていたんです。山ばかりで人も少ないところでしたけど、自然豊かなその土地を僕は気にいっていました。


 その土地を気にいっていたのですが、ひとつだけ、いや、ひとりだけ怖い存在がありました。


 雨が降るとその土地には赤傘おじさんと呼ばれる人が出現する。というよりは、そのおじさんは雨が降る日以外は家の中にこもっているのだと聞いていました。雨の日だけそのおじさんは派手な色の傘をさしてその土地を歩き回るのです。


 ただ、傘をさしてるだけのおじさんの何が怖いのかと思われるかもしれません。しかし、なんといいますか、赤傘おじさんは雰囲気を持っていました。人に危害を与えたり、叫んだりするわけでなくとも、雨の日に歩き回るだけのおじさんが恐ろしい雰囲気をまとっていた。恐ろしい、というよりは不気味と言った方が良いのかもしれませんが。とにかく、子供の僕には苦手な雰囲気でした。


 おじさんはいつも赤い傘で顔を隠していて、その土地の大人たちは彼の顔を見ないように子どもたちに言っていました。だから、と言いますか、逆に、と言いますか。おじさんの顔を見てやろうという子どもたちも居たんです。


 僕はその土地の同年代の子たちとは遊ぶことも多かったですから、あれは小学四年生の頃だったはず。僕は友人の男の子に誘われたんです。赤傘おじさんの顔を覗かないかってね。


 僕は、その話には乗りませんでした。こういう話だと皆でおじさんにちょっかいをかけに行くというのが定番の流れかもしれませんけど、そのときの僕には進んでおじさんの顔を覗く勇気はありませんでした。


 何日かして、再び雨が降りました。その日は風も強かったはずです。あんなことが起こりましたから。ええ、話します。


 その日、僕は友人の家から帰るところだったと覚えています。雨も風も強くなってきていましたから、その子のお父さんかお母さんに帰るように言われたのです。友人は僕に、家まで送ろうと言ってくれました。僕のことが心配というよりは、雨の日に現れる赤傘おじさんを探しに行きたいという感じでしたね。そうして僕の家へ帰る途中、僕たちは遭遇したんです。


 赤傘おじさんでした。そこは一本道で、僕たちとおじさんは、どうしても通りすがらないと行けませんでした。嫌だなあと思いながら、僕たちとおじさんの距離は近づいていきます。その時でした。強い風が吹いたんです。


 風によっておじさんの傘が、傘を持つ手が上にあがりました。おじさんの顔を隠していた傘が上にあがったんです。僕がおじさんの顔を見てしまったのは完全な事故でした。


 その顔は、何かの薬品によって溶かされたかのように中心部分に穴が空いていました。まるで空想世界の怪物のように感じたんです。悪い冗談みたいに、おじさんの顔には穴が空いていたんです。


 おじさんはすぐに傘で顔を隠し、僕たちには何もせず、ただ通りすぎていきました。


 僕と友人は顔を見合わせました。その日以降、その男の子が僕に前までのような提案をすることはなくなって、あの日見たものについて二人で話すこともありません。


 赤傘おじさんは、あの顔を人に見せたくなくて雨の日にだけ出歩いていたんですね。ここ数年はあの土地へ行くことはなくなってしまいましたから、今もおじさんが雨の日に出歩いているかはわかりません。


 すいません。オチとかはないんです。これはただ、僕が子どもの頃不気味に感じていたものの話ですから。

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