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7.国王の本音

 夕刻、シドウェルは国王の執務室に現れ、アレクゼスと最終の打ち合わせをした。全ての準備を整えているシドウェルを見て、相変わらず仕事が早い、とアレクゼスは思った。


 ふいにアレクゼスが

「君はオリビスで冬を越すことになるのかな」

と、言った。

 シドウェルが微笑む。

「そうですね。あちらは、ここの様に雪が積もらないので、冬の間も動けますよ」

「では、機会があれば、イザリア様と会って、話をしてもらえないだろうか」

 シドウェルは当然の様に微笑んだ。

「勿論。新年の挨拶にでも、伺わせて頂きます」


 イザリア・エヴァ・バーミリアン。彼女は、マグダミア王国の女王である。

 公王キーズの治めるマグダム公国とマグダミア王国は目的を一つにした連合国である。

 右翼のマグダムは陸で、左翼のマグダミアは海で、キンレイ帝国に対抗している。島国であるマグダミアは、高い海軍力と航海術によってキンレイの力の拡大を防いでいた。

 シドウェルは、公王キーズに爵位を頂いた縁で、イザリアとも面識があった。


 3か月前、エランドルクにイザリアから結婚式の招待状が届いた。

 結婚するのは彼女ではなく、海軍司令官を務めるオーゼン公爵である。オーゼン公は務めに励み過ぎる余り、齢40を迎えるまで未婚に甘んじていた愚か者であったが、めでたく結婚の運びとなった。仲人は勿論イザリアである。

 招待数は一名、資格のある者であれば誰でも良いとあった。

 国王アレクゼスは、縁のあるシドウェルが行くのが良いと言ったが、シドウェルは、アレクゼスに行くよう勧めた。アレクゼスが、マグダム・マグダミア連合国と同盟したいと考えていることを知っていたからである。

「イザリア様も同じ気持ちです。誰でも良いと言われているのは、その為です。ここは陛下が行くべきです」

シドウェルは、そう言って、アレクゼスを行かせた。


 念願が叶い、アレクゼスはマグダム・マグダミア両国の王と会う事が出来たが、この時は挨拶だけで終わってしまった。だがシドウェルは

「場所が場所ですから、それでいいのですよ。行動こそ言葉です。こちらの意思は確実に伝わっています」

 アレクゼスは苦笑を浮かべた。

「君は、いつも自信満々だな。国王に生まれるべきだった」

「御冗談を。陛下を見ていると、つくづく自分は幸運な場所に生まれたと思います」

 アレクゼスは、小さく微笑んで何も言わなかった。シドウェルが幼い頃に両親と死に別れ、住む家も無かったことを知っていた為、余計なことを言ったと反省した。

 

 現在、エランドルクはキンレイと軍事同盟を結んだままである。その上で、キンレイと対立しているマグダム・マグダミアに接近する動きをあからさまにするのは危険だった。だからこそイザリアは、エランドルクだけでなく、キンレイをはじめとして各国要人を招待した。キンレイは招待を受け、ヴァリスマリスの異母弟であり皇位継承順位一位のヴァリアスを出席させていた。

 アレクゼスにとってもヴァリアスは義弟だが、会った事が無く顔を知らなかった。傍にいた補佐官がこっそりとあれがヴァリアスである、と教えてくれた。

 ヴァリアスはヴァリスマリスより5歳年下で成人したばかりだった。体は彼に比べて一回り小柄だが、挨拶をしてみると、とても品が良く、教養の高さが滲み出ていた。しかし、周りにいた彼の側近たちは、気安くするなと言わんばかりの刺々しい空気を醸し出していた。

 

「イザリア様には、他に目的があったのかも知れない」

ふと、アレクゼスが言った。

 シドウェルが面白そうに微笑む。

「そりゃまた、何故そう思われるのですか?」

「なんとなく。イザリア様が素っ気なく見えたから」

「そりゃ、あまり仲良くも話せないでしょ。あの場にはキンレイも招待されていた訳ですから」

 一種、力の均衡が取れていた為か、キンレイは特に何も言って来なかった。この結婚式の一月後には、招待を受けていたアレクゼスが、無事にヴァリスマリスの戴冠式に出席した。


 ヴァリスマリスと初めて会ったのは5年前、自分の戴冠式の時だ。ヴァルコス皇帝と、二人の兄と共に、彼も出席した。皇帝と、その三人の息子からそれぞれに祝辞を受け、アレクゼスは微笑んで礼を返した。皇帝とはその時少しだけ話が出来たが、ヴァリスマリスとは特に話さなかった。どちらかと言えば、物静かな印象だった。その彼が、戴冠式では、堂々たる姿を見せていた。立派な皇帝になられた、と思った。


 アレクゼスは、日々、揺れていた。本当にマグダム・マグダミアと同盟を結び、キンレイとの同盟を解消しても良いものか。キンレイとの関係を改善できる余地はまだあるのではないか。そう思っていると、今回の出兵要請の様な雑な扱いを受ける。こういう事が度々あるようでは国を守る為の軍事同盟はむしろ、足枷となる。

 

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