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4.執務室にて

 シドウェルとクレイが国王の執務室に近づくと、中から食糧大臣のニクロスの声が聞こえてきた。出兵に反対している様子だった。

 先に外務大臣が中に入り、シドウェルが挨拶をして中に入った。

 国王アレクゼスは、正面奥の窓際の執務机にいたが、椅子には座らず、食糧大臣の抗議に耳を傾けていた。シドウェルの姿を認めると、「お早う」と挨拶を返した。


 大臣の中で最年少の食糧大臣の隣には、最年長の内務大臣、ジェンキンズがいた。二人は入って来たシドウェルの方へ顔を向けた。内務大臣はいつもと変わらない冷静な様子だったが、食糧大臣は不安げな表情をしていた。


 エランドルクは昨年に続き、今年も麦が不作だった。不足分は他国から買い入れるものの、出兵する兵士には兵糧が必要で、冬の降雪で人馬が入れなくなる都にも食料の備えが必要である。出兵数と買い入れられる量によっては都に回す量が不足する可能性が高かった。民のことを考えれば、不安になるのも当然だった。

 

 シドウェルは、どれだけ兵を出せばよいのかをはっきりさせる為、国王に質問する。

「総督府の状況はどうなっていますか?」

 国王の表情は穏やかだった。どこか諦めている様にも見える。

「総督府は既に落ちている。本国は兵を出さず、出るのはエランドルクだけだ」

「は?」

シドウェルは思わず足を止めた。

 クレイは、ニクロスの隣に陣取ると、シドウェルを振り返った。軍務大臣は、足を止めたその場から動けずにいた。


「総督府は、もう反乱軍に奪われているのですか?」

「そうだ」

「本国は一人も出さない?」

「そうだ。こちらに全て任せると言って来た」


 シドウェルは無感情な顔で黙り込むと、傍にあったソファを回り込み、ドカッと腰を下ろして肩を広げ、長い両脚をテーブルに投げ出した。低い声で「やってらんね」と、呟く。クレイは苦笑を浮かべたが、無理もないと思った。国王はシドウェルの無作法に対し、やはり何も言わなかった。


 ジェンキンズは、流石に気を遣い、皺の多い痩せた顔をしかめた。

「何だお前、その態度は。陛下の前だぞ」


 シドウェルは首だけを動かし、力の抜けた顔を内務大臣に向け、更にその後方にいる国王を見た。国王は極めて落ち着いていた。

「本気で仰っているのですか?」

シドウェルが言った。

 国王は静かに微笑んだ。


「あの、すみません」

と、ニクロスが口を挟んだ。国王に向き直り、

「やはり、こんな道理の通らない話はありません。兵士たちが可哀そうです」

と、言った。

 内務大臣が面倒臭そうに食糧大臣を見る。

「まだ言うか」

「しかし、こちらの負担が大き過ぎます」

「ニクロス」

と、ふいにシドウェルが声を掛けてきた。ニクロスがシドウェルに顔を向けると、シドウェルは顎を上げて「もっと言ってやれ」と煽った。

「お前、煽るなよ!」

と、内務大臣が苦情を訴えるもシドウェルは平然とニクロスに声援を送る。

「出兵要請なんざ、無視だ、無視」

「出兵要請なんか、無視です」


「それは出来ない」

国王は、落ち着いた声で答えた。




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