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29.葬送

 城の一番高い見張り台に、味方の軍旗が立てられた。強い風に激しく揺れている。


 暫くして、雨が降り出した。燃えていたものが、湿り気を帯び、黒煙を上げ、煙幕の様に風に流れる。

 

 どこも死体ばかりだった。いつも死ぬのは、行き場のない下っ端と、真面目な指揮官だ。


 若い傭兵は、死体の山を越えながら、傭兵団の仲間と頭目を探していた。


 仲間が、声を上げた。死体の中から、頭目を掘り出した。

 若い傭兵は、横たわる頭目の傍に(ひざまず)いた。頭目の体は、とても正視できる状態ではなかったが、着ている鎧で判別出来た。念の為、鎧を剥がし、体も確認した。見覚えのある、古傷が沢山あった。間違えようがなかった。

「シドウェルは、死んだ」

仲間の一人が、冷静に言った。若い傭兵は、胸を刺されたような気分だった。

「これからどうする」

「どうするって・・・」

仲間が口々に言っている中で、若い傭兵は、感情のない顔で頭目の体を担ぎ上げる。

「ヴァル」

仲間が、若い傭兵に声を掛けた。ヴァルと呼ばれた若い傭兵は、振り返らず

「墓つくる」

と、呟いて、外へ向かった。何も言わず、仲間たちが葬送に加わった。


 時々死体を踏みながら、男たちは頭目の体を外へ運び出し、穴を掘って埋めた。普通、誰も、ここまでしない。風や、鳥や、この土地を奪いに来る者に任せる。


 男たちは、暫く、無言だった。


「解散でいいだろ」

最初に、死んだ、と言った仲間が言った。東の大陸から来たこの男、センは、いつも一歩引いた所から、物事を見ていた。とはいえ、一番熱いものは、胸の奥に秘めていた。

「シドウェル以外に、頭目が出来るか?」

出来ない、と、皆、心の中で思った。変わり者、野心家、荒くれ者、あぶれ者、子供、老人、、彼らを率いて行ける者など、他にいるだろうか。いない。

「金を貰って、皆、好きに生きよう」

「そうだな」

 皆、報酬を貰う為、責任者の所へ向かった。歩きながら、センがヴァルに訊いた。

「お前はどうする」

「俺は、、、」

ヴァルは、―――ヴァルキリアスは、何も考えられなかった。シドウェルの体を埋めたのに、死んだと信じられなかった。現実を受け入れられず、泣くことも出来なかった。心が凍るようだった。

 センは、ヴァルの背中に手を置いた。

「死は、誰にでも等しく訪れる。死を受け入れなければ、生きることも出来ない」

ヴァルキリアスは苦笑した。相変わらず、聖職者の様に説教臭い。

「でも、ずっと一緒にいたかった」

ヴァルキリアスが、そう言った瞬間、目に涙が溢れて来た。センは、安心したように仲間の背中をさすった。


 男たちは、報酬を貰い、散り散りに別れた。センは、まだ独りで傭兵を続けると言って去って行った。ヴァルキリアスも、出来ることと言えばそれしかないと、傭兵を続けることにした。まさか、この先十年以上傭兵を続け、公王になる前のキーズと出会い、部隊の指揮を執るように言われるなど、夢にも思わない。


 ヴァルキリアスは、侍女との約束を守り、本名を隠していた。ヴァルと言う名前は、人買いが付けた名前だった。

 頭目のシドウェルもそうだが、傭兵たちの多くが、本名など使っていなかった。誰も名前など気にしていない。食えれば良かった。ヴァルキリアスにとっては有難く、それ以上の居場所だった。

 ヴァルキリアスは、名前をシドウェルと改めた。


 アレクゼスと出会う、15年前の秋の事であった。




 第一部完

ここまで読んで頂いて、ありがとうございます。

本作は、ここで終了しますが、明日から第二シリーズを始めます。


ありがとうございます。

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