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27.皇帝の決断

 皇帝一行は、間もなく首都へ帰還した。



 内務大臣の取り調べは首都の司法庁が行った。

 アヌログは、犯行についてはあまり語らず、皇帝とオルグストス家に対する批判を繰り返した。


 通常、大臣が犯罪を犯した場合、刑が確定するまで役を解かれることはないが、内務大臣は取り調べの最中に罷免が決まった。アヌログは、留置所の中で、狙っていた程の流れが、自分に来なかった事を悟った。


 反逆を未然に防いだ皇帝に対する宮殿内外の評判は、以前より高くなった。宮殿内には、抜け目がないという印象が、民の中には堂々として強い皇帝という印象が広まった。これに貢献していたのが、皇帝補佐官のヴァイオスだったことは、言うまでもない。


 ギルヴァイスとその部下は、アヌログ以下反乱兵士たちを首都に送ると、速やかにオリビスへ帰還した。

 オリビス総督は、アヌログとの関係が疑われている為、謹慎処分となっている。皇帝の命により、オリビス総督代理はギルヴァイスが務めることとなった。

 

 大して日を置かず、エランドルクのシドウェルから報告書が届き、ヴァイオスは皇帝へ提出した。

 皇帝は報告書を読み、ようやくオリビスと内務大臣の起こした反乱の実態を把握した。


 皇帝は執務机に報告書を置くと、無表情にヴァイオスを見た。

「お前は、いつから、どこまで気付いていたのだ?」

 ヴァイオスは、微笑む。

「気付くも何も、ただ気になったのです。内務大臣がエランドルクをと、言って来た時に。彼がそうしたいように見えたので」

 皇帝は無言だった。

「本国の者に、近づいて欲しくないのか、と。それで警戒していただけです。オリビス総督がどういうつもりだったかは分かりませんが、聴取の報告書が上がってくれば、分かるでしょう。シドウェルからの報告書には、詳しくは調査中だが警戒が必要である旨ありましたので、直後に、居を移すという話を陛下から聞き、敢えてそうして頂きました」

 皇帝は、面白そうに目を見開いた。

「俺を餌にしたか」

「平たく言えば、そういうことです」

 皇帝は感心したように、背もたれに、もたれた。

「お前、案外そう言う事も出来るのだな」

「エランドルクが、これに関わっていなければ、どうなっていたか分かりません」

 皇帝は、黙り込んだ。結果としては、エランドルクを行かせて正解だった。内務大臣は、兵を出して欲しかったのだろうが。本国に真実を知られない内に、ギルヴァイスを潰したかったのだ。

「俺の判断は、正しかった」

「はい。陛下が話し合いを了承されたことで、シドウェルがオリビスに行き、実態が見えて来たので、手を打てたのです」

 ヴァリスマリスは、ヴァイオスに説得されている様な気がした。エランドルクは重要な国で、関係を保つ方が善であると。こちらの気持ちが分かっているからこそだろう。

「子供の頃からの付き合いだからな」

ぽつりと、皇帝が呟いた。ヴァイオスには聞こえず、

「今、何と仰いましたか?」

と、訊いて来た。

 皇帝は「何でもない」と言って、立ち上がった。

 窓際に歩み寄り、外を見つめる。寒々しい薄い青空の下に、いつもと変わらない街がある。

「帝国全体をこの目に同時に映すことは不可能だ。私は一人しかいない。他は他の者に任せるしかない」

「はい」

「私は、皇帝として最低限の職務は行っていたつもりだったが、それでは足りなかった。キンレイ帝国皇帝という座に、向き合っていなかったのだろうな」

 ヴァイオスは、何も言わなかった。

 皇帝の目の前には、エランドルクの国王がいた。自分が何故、彼に対して激しい怒りを感じるのか。憎しみを感じるのか。今なら、分かる気がする。


 もっと、強くならねばならない。反乱を起こされない様に。起こそうと思われない様に。本当に強くなれなくとも、そう演じなければならない。自分の民を自分で守れるように。


 皇帝は、決断した。

 振り返って、宣言する。

「エランドルクとの軍事同盟を解消する」

 


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