23.ルヴェーナ
ルヴェーナと二人の供は応接室で待たされた。従者が内務大臣の推薦状をリメリオに渡し、中身を確認させた。
秘書官二人は、推薦状を吟味し、判断する。
「あの女、内務大臣の遠縁だ」
ラウネンが言った。
リメリオが訊く。
「するとどうなるのですか?」
「家の格は問題ない。後は、陛下が良しとするかどうかだ」
絹のローブ姿で、居間のソファに沈み込むようにして、くつろいでいたヴァリスマリスは、秘書官が持って来た内務大臣の推薦状を読み、苦笑を浮かべた。
「これで退屈を紛らわせろという事なら、あの男、陰で俺をずっと見ていたかの様に手回しが良いな」
「どうされますか」
ヴァリスマリスは少し考えて、
「会おう」
と、言った。
居間に、ルヴェーナだけが通された。
ヴァリスマリスは、ルヴェーナを見た。黒い長い髪が美しい。小柄で、若く、品が良い。皇帝を前に緊張しているせいか、黒目がひと際、大きく見える。
「座れ」
ヴァリスマリスが、自分の横に手を置いて言った。
ルヴェーナは、小さく、はい、と応えて、しずしずと皇帝に歩み寄り、皇帝の横に座った。
ヴァリスマリスは、少し、不思議な感覚だった。普段、自分は、女どもを呼びつけておいて、会いもしない。かと言って、女たちは、怒りもしない。困りもしない。どこか政治慣れしているのだ。なのに、この女はどうだ。まるで生まれたてのヤギのように怯えている。
ルヴェーナは、実際、緊張が少しも解けていない。顔は耳まで紅く、体はカチコチに固い。
ヴァリスマリスは、にやりとした。もっと困らせてやりたい。
「お前、齢はいくつだ」
「14です」
「充分だな」
ヴァリスマリスは、ソファテーブルに置いてあった、脚付きの器の上に載っている、うっすら赤い小さな果実をひとつ摘まむと、ルヴェーナの口に運んだ。
ルヴェーナは、されるがままに口を開け、果実を口に含んだ。柔らかく、微かに甘みもあるが、酸味の方が強い。皮の剝いてある状態で器に載っているものの、果実の中心には種がある。これを出さないと、腹の中で芽が出てしまう(と、言われている)。
ルヴェーナは、皇帝の前で種を吐き出すことが出来ず、困った挙句、飲み込んでしまった。
ヴァリスマリスは、笑った。
「今度は、私に食べさせてくれ」
ルヴェーナは、困惑しながらも、言う通りに果実を摘まみ、皇帝の口へ運んだ。皇帝は、はくっと果実を口に入れつつ、ルヴェーナの指先も口に含んだ。彼女の手を取り、含んだ指先を舌でゆっくりと舐めた。
ルヴェーナは、どうしていいか分からず、顔を真っ赤にする。
ヴァリスマリスは、それを見て、満足気に微笑む。口からルヴェーナの指先を出し、ごく自然な仕草で果実の種を吐き飛ばすと、彼女の手を持ったまま、もう片方の手を伸ばし、彼女の前髪をかき上げた。そしてその手で彼女の顔に触れて、見つめた。
それが当たり前の様に、ヴァリスマリスは、ルヴェーナの唇に自分の唇を近づけ、重ねた。