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18.グラブス

 シドウェルの最初の報告書が、エランドルク城に届いた。

 

 アレクゼスは、すぐに一読すると、いつもの様に内務大臣と外務大臣を執務室に呼んで、二人に見せた。


「どう思う?」

国王の問いかけに、外務大臣は肩をすくめる。

「”心配するな”と、本人も言っていますし、問題ないでしょう」

彼はそう読み取った。国王もそう読んだ。

 内務大臣は、いつもに増して冷めた様子だ。

「陛下は心配し過ぎです。シドウェルを気に入っておいでなのは分かりますが」

 アレクゼスは、どきりとした。確かにシドウェルの事を頼りにしているし、尊敬もしている。しかし、それは内務大臣や外務大臣に対してもそうだ。贔屓(ひいき)は、していないつもりだった。

「気に入っている、というのは、言い過ぎではないかな?」

「別にどうでもいいでしょう」

 アレクゼスは、言い返さなかった。代わりに、懸念を伝える。

「問題は、冬の間、報告書を受け取れなくなる事だ。状況が変わって、助けが必要になるかも。そこで、この冬は居を移したいと思っている」

「どちらに?」

と、外務大臣が訊いた。

「グラブスだ」

と、アレクゼスが答えた。国境の町・グラブスは、雪の量が少ない為、報告書を受け取れる。国境警備の為の砦もある。

「宜しいかと思います。ですが、陛下、まさか、砦に入るつもりではないでしょうね?」

「ダメかな」

「シドウェルが一緒ならまだしも、戦時下でもないのに陛下がずっと砦にいたら、兵士たちもやりづらいと思いますよ。せめて町の方にして下さい。町長に住む所を世話してもらいましょう」

「宜しいのでは。皆、国王の顔を知りませんし、陛下には威厳が無いので、ああ、失礼、国王に見えないので、物々しい警備も、むしろ無い方が安全かと」

 アレクゼスは、一瞬固まった後、

「そうだね」

と、控えめに応えた。

「陛下、私もご一緒して宜しいですか?」外務大臣が言って来た。「今年の冬は、キンレイに遊びに行こうかと思います」

 エランドルクの都に通じる道は、冬場、雪で往来が途絶える。都の中では雪かきの仕事をする人もいるが、多くの人々の外出が減る為、必然的に、役人や大臣たちの仕事量も減る。この為、冬の過ごし方は、各自で自由に決めることが出来た。城内に留まり、ゆったりと仕事をする者、都ではないがグラブスの様な雪の積もらない国内で過ごす者、キンレイの温暖な地域に旅行に行く者、逆に、雪山に籠り、狩りを楽しむ者など、過ごし方は様々だ。


 アレクゼスは、意味ありげに微笑んだ。

「いいんじゃないか。冬の過ごし方は自由だ」

「はい。ジェンキンズはどうする?」外務大臣が、内務大臣に訊いて来た。

 内務大臣は、肩をすくめる。

「私はさほど、仕事量が減りませんので、残ります」

「いつも、ありがとう。宜しく頼むよ」微笑んで、国王が言った。

「いつもの事です。ゆっくりやりますよ」

ジェンキンズは、穏やかに答えた。

 

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