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16.オリビス

 翌、早朝。シドウェルとグインは、オリビスへ向けて出発した。


 キンレイの街道は、整備されているところが多く、歩き易い。それでも属州領に入るまでに二日かかった。


 1つの山を越えて、暫く歩けば、町へと繋がる道に出る。夕刻前に、この道に差し掛かった辺りで、向こうから走って来る人影が見えた。先に行かせたヨークだった。

 シドウェルとグインは、不審に思いながら、歩を進める。

 ヨークは、シドウェルの姿を見つけると、走りながら、思わず叫んだ。

「シドウェル!」

 二人は、いよいよ何事か、となる。

「どうした?!」

シドウェルも、思わず叫んだ。

 ヨークは必死に走って、二人のもとに駆け寄って来ると、

「フィンが、、」と、息が切れて話せなくなった。

「落ち着け。ゆっくりでいい」

 ヨークは、呼吸を整えると、言葉の続きを吐き出す。

「捕まった。治安部隊に」

「何?」

そう言った切り、シドウェルは黙り込んだ。

 治安部隊とは、属州の警察兼軍隊組織である。総督直属の組織で、以前に暴動が起きた際、それを鎮圧したのが、この治安部隊である。


 属州になるより以前に、この地域を治めていたオービエンス家は、キンレイと争うのを避け、半永久的に続く収入を約束させ、この地を譲った。最後の当主、ディクシスの名を受け継いで、治安部隊の隊長になったのが孫のギルヴァイスである。

 

 オリビスで乱、と聞けば、真っ先に頭に浮かぶのが、このギルヴァイスであった。立場を利用し、民を扇動したのではないか。実際、以前の暴動の時とは違い、この乱は、官邸を奪う所まで成功している。民だけでここまで上手くはいかないだろう。

 シドウェルは、恐らく交渉の相手はギルヴァイスになるだろうと、正直思っていた。しかし、色々、腑に落ちない点もある。思い込みも禁物だ。それで、部下には、はっきりとギルヴァイスの名を出さず、調べさせていた。それが、予想外の展開になった。


 ヨークが、報告を続ける。

「昨日、町で、見た人がいる。きっと、キンレイの手先と間違われたんだ」

「そんな」グインは、つい最悪の想像をする。「まさかもう」

「馬鹿言え」シドウェルが即座に否定した。「あいつがそんな簡単にやられるタマか?」

「そうだけど」

「じゃ、何で帰って来ないんだよ!」ヨークは、思わず、声を荒らげた。

 ヨークは、普段はどちらかと言えばおっとりとしていた。それがこんなに興奮している。きっと自分を責めているのだ。

「フィンが捕まっているのは官邸か?」シドウェルが訊いた。

「うん」と、ヨークが答えた。官邸は町外れにあるが、ここから駆け付けるとなると、日没に間に合わないだろう。


 シドウェルは考える。

 フィンは、状況が許せば、自分の正体と来た目的を明かしている筈だ。この場合、治安部隊にはフィンを殺す理由が無くなる。その上で、捕えたまま返さないのは何故か。

「シドウェル‥」

ヨークが不安げに呟いたのを見て、シドウェルは微笑んだ。

「ここまでよく知らせに来てくれたな」

シドウェルは、大きな手でヨークの肩を掴んだ。ヨークは赤い目で、歯を食いしばった。

「とにかく行くか」

皆、走り出した。



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