15.父の背中
ドカァッ!!
城門が破られて、勢い良く、兵士が突入していく。先頭は傭兵たち。危険を承知で、簡易な鎧と剣だけで稼ぎに行く。
迎え撃つ敵兵とぶつかり合い、辺りは大混乱となる。
その中で、若い一人の傭兵は、前方にいた筈の頭目の姿を探すが、もう何処にいるのかも分からない。人の心配をしていられる状況ではない。だが何故か、嫌な予感がする。
「何処だ、頭!」
若い傭兵は叫ぶが、兵士たちの雄叫びに搔き消される。
向かってくる敵の剣を受け止めて、倒す。ふいに、目の端で頭の姿を捉える。遠くに見える頭は、何故か動きを止めている。この状況で、防御姿勢すらとっていない。そこへ、敵の兵が、頭に襲いかかる――!
若い傭兵は、頭の名前を叫んだ。
「旦那!」
御者の呼び掛けに、シドウェルは、目を覚ました。気分は最悪だ。
「大丈夫ですか、旦那。顔が真っ青ですよ」
シドウェルは、苦虫を嚙み潰したような顔をした。お前が、無茶な操縦するからだろが。
皇帝の宮殿を出る頃には、日が傾きかけていた。シドウェルは、一旦、宮殿を出ると、御者に、宿に泊まる金を出すから無理に帰らなくてもよいと言った。首都を離れた夜道を見栄えの良い馬車で走れば、夜盗に襲われるに決まっている。しかし、御者は自信があったのか、この時間なら、行きより少し飛ばせば夜までに宿場町まで辿り着けるから、と言った。シドウェルは、そんなもんか、と御者に任せた。
ところが、実際には少しどころではない飛ばしようで、車体の中にいて、激しく揺さぶられたシドウェルは、無事(?)に宿場町まで帰って来れたものの、すっかり消耗してしまった。
やっとの思いで宿に戻ってくると、部屋では、留守番のグインが、口をぱっくりと開けて、気持ち良さそうに寝ていた。一瞬、苦虫を放り込んでやろうかと思うが、苦虫を探す気力も残っていなかった為、とりあえず、目の前の鼻をつまんだ。
「ふごがあっ!」
息苦しさに耐えかねて、グインが勢いよく上半身を起こした。シドウェルはもう、どうでもよくなり、傍らのベッドに倒れ込んだ。
グインは、ベッドのシドウェルに気付くと、四つん這いになって近づく。
「なあなあ、遊びに行こうぜ!」
グインが言っているのは、女と遊べる店のことである。昼の間、寝ていたグインは元気一杯だ。
シドウェルは、暫く無視していたが、グインがいつまでも諦めないので、止む無く金を渡した。グインは喜んで部屋を飛び出していった。
シドウェルは、ぼんやりと傭兵団の頭目の事を思い起こした。よく俺なんかの面倒を見てくれたもんだよな。
頭目は、いつも髪はボサボサで、目つきは悪く、愛想も無かった。およそ人が寄り付かない様な見た目の男だったのに、彼の周りは、不思議と人が集まり、頼りにされていた。子供のシドウェルにはそれが不思議だったが、今なら少し、分かる気がする。
いつまでたっても、俺は頭の足元にも及ばない。
うっすらと苦笑を浮かべて、いつも何処か、寂し気だった頭の後姿を思い浮かべて、シドウェルは、あっさりと、眠りに落ちた。