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10.シドウェル

 シドウェルとグインは、キンレイ帝国の首都・オルエンを目指している。

 途中、商人の荷馬車に乗せてもらったりしながら、夕刻には首都の手前にある宿場町に辿り着いた。二人は、この日は宿で寝ることが出来た。

 

 先にエンドルを出たフィンとヨークは、オリビスへ向かった。

 オリビスの現在の状況と、反乱の首謀者は誰なのか、交渉をするなら誰を相手にすれば良いかを調べる為である。

 シドウェルが自ら集めた情報部の部下たちは、皆若いが、良く仕込んであった。皆、シドウェルと同じく、物心ついた頃には両親がいなかった。


 シドウェルは、過去に、ある傭兵団に身を寄せていた時期があった。傭兵団の頭目は、顔に火傷の跡がある、目つきの鋭い男だった。

 頭目はその見た目に反して、面倒見の良い男で、行き倒れていた、まだ子供だったシドウェルを助け、下働きとして傭兵団に入れた。傭兵団の男たちは、召集が掛かった時だけ集まって、集団で戦う。身を寄せる場所のない者は、ずっと集団で行動する。川縁などで、布を張った小屋をつくり、生活の拠点にする。子供のシドウェルは、そこで、非戦闘員の爺さんに教えてもらいながら、飯の用意や、馬の世話や、武具の繕いなどをして働いていた。

 傭兵の男たちは、暇潰しの様に、シドウェルに武器の使い方や、戦い方、逃げ方を教えた。面白がって、女の口説き方や、性交渉の方法まで教えた。

 シドウェルは、成長して体が大きくなると、傭兵として戦場に立った。頭目と共に戦えることが嬉しかったが、頭目は間も無く、戦場で死んだ。そして傭兵団は散り散りになって消えた。


 シドウェルにとって、父の様に慕っていた頭目を失った悲しみは、大きかったが、この頃に得たものは、それと同じ位、大きかった。


 朝、グインが目を覚ますと、上司は既に起きており、身支度を整えていた。

 白いシャツに、黒いベスト、首には絹の飾り布が巻かれ、前でふんわりと広げている。黒いスーツの上下に、足首より少しだけ丈の長い革靴を履いている。大臣の出で立ちである。

 シドウェルは、グインが目を覚ました事に気が付くと、微笑んで彼を見た。

「起きたか」

 グインは、まだ少し眠そうな目でシドウェルを見る。友達の様なシドウェルも面白くて好きだが、公爵としてのシドウェルにも憧れている。体格の良いシドウェルの体に、ぴったりと合ったスーツ。昨日までの彼と、まるで別人だ。

 シドウェルは、部下たちの荷袋より一回り大きな袋を担いでいた。仕事で使う道具類と、携行食、そして容量の大半を占めていたのが大臣としての衣服である。

 人手の限られた道中で、目立つ格好をすれば追い剥ぎに遭い易くなる。かと言って、旅人の格好で皇帝の前には出て行けない。それで持って来た。


 皇帝に会うには、身元がはっきりとしている事、つまり社会的信用の高い身分の者でなければならなかった。具体的に言えば、貴族、聖職者、商人等である。

 今回の場合、シドウェルは、軍事同盟国の主幹大臣であり、皇帝宛ての書簡を携えた使者である。当然、身元は、はっきりとしており、優先的に会う事が出来るだろう。残念ながら、グインはスーツを持っていない為、ここで留守番となる。


 この宿場町は、貸馬車屋がいくつもある。皇帝に会う為に、見栄えの良い馬車を仕立て、宮殿に入る。 例えば有力な人物の後ろ盾を持たない商人が、皇帝に会うには、何か月も待たされる。それでも自分の商売を広げたいと思っている商人は、自分の身なりを良くし、馬車で首都に入り、自分と皇帝を引き合わせてくれる様な有力者を探すのだ。

 

 シドウェルは、宿付近の貸馬車屋で、御者付きの、車体を黒く塗った、小型の馬車を借りると、まっすぐに首都オルエンを目指した。

 

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