図々しい人
いきなり声をかけられた僕は驚き、その場で本をポトっと落としてしまう。
一体なんなんだこの人は?
さっきまで飛び降り自殺をしようとしてたのに、どうして僕なんかに話しかけて来たんだ?
気でも変わったのか?
尽きない疑問を頭に思い浮かべつつも、僕はあたふたしながら返答する。
「べ、別に普通ですよ。どこにでもあるような、普通の文庫本です」
普段人と話さない僕は、急な会話イベントで動揺する。
なんの面白味もない返答。
だと言うのに、目の前の女子生徒はくすくすと微笑を浮かべる。
「そうなの? でも、私が死のうとしてたのに、それを無視してまで読み始めたじゃん。てことは相当面白いってことじゃないの?」
なんとも返答に困ることを言って来た。
確かに僕はこの人の自殺を無視して本を読み始めたけど、別にこの本がものすごく面白いから読んだわけではなく、僕のこれは放課後のルーティーンみたいな感じだし、そもそも自殺を試みようとする人には話しかけたくなかったから無視しただけだ。
気まずいし、あまり他人と話したことないから、こういう時どうすればいいのかわからない。
だから僕は、突き放すように割と酷いことを口走る。
「それより、さっきの続きしないんですか?」
まるで早く死んで欲しいと捉えられてもおかしくない発言。
聞く人によっては、これだけでメンタルが崩壊するかもしれない言葉を僕は放った。
だと言うのに、目の前の女子生徒はツーンといじけるようにそっぽを向き。
「しないよ。君のせいで冷めちゃったから」
自殺出来なかった責任を僕に押し付けてきた。
なんだよ冷めたって。仲間内で集まるパーティーに、一人だけあんまり仲良くない奴がきて冷めるとか、そう言った意味合いの冷めるか?
意味わからん。やっぱり自殺を考えるぐらいの人だから、ちょっとだけ変わってるんだろう。
なんだか自殺出来なかったのが僕のせいみたいな言い方をされ、ちょっとだけ腹を立て嫌味を言ってみる。
「良かったですね。僕のおかげで寿命が延びて」
いきなり皮肉を飛ばしてみると、目の前の女性は面白そうに笑う。
「はは、確かに! 君のせいで私の寿命が延びちゃった」
僕のせいで寿命が延びたとか、多分だけど金輪際聞かないセリフだろうな。
彼女は面白そうに笑うと、ジトっと僕の目を見て質問してくる。
「ね。きみ、名前は?」
見ず知らずの綺麗な女子生徒に名前を尋ねられた僕は、何がしたいんだろうと訝しみながらも、渋々名前を名乗る。
「八代奏太です」
「八代奏太君かぁ……。じゃあ奏くんだ!」
彼女は僕のフルネームを一度口に出すと、恥ずかしい呼び方をして来た。
なんだ奏くんって。子供じゃないんだから、そんな呼び方はやめてほしい。
「なんですかその呼び方。恥ずかしいんでやめてください」
「えーいいじゃん。奏くんってなんだか可愛いし。それに私ね、妹か弟が欲しかったんだよね」
彼女は残念そうにしながら、どうでもいい願望を語り始めた。
というか、可愛いとか弟とか、なんで僕が年下扱いされてるんだ?
僕はまだ自分の年齢も学年も打ち明けてないのに、どうして年下のように扱ってくるんだ。
初対面なのに随分と図々しい人だなってのが、この人に対する第一印象。
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