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共依存  作者: ラリックマ
八代奏太の鬱憤
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出会い

 翌る日の放課後。

 今日は余り物でやらされた図書委員の仕事がある。

 でも、この余り物の仕事が僕は好きだ。


 そもそも本を借りに来る生徒なんかほとんどいないし、居たとしても、ピッとバーコードを読み取るだけ。

 ただそれだけの仕事なので、いつも暇を持て余すのだ。

 だから余った時間に、英単語帳を広げて覚えてない英単語を頭に叩き込む。


 十単語覚えたらノートにそれぞれ十語づつ書いて、忘れていたらもう一度書き込む。

 物覚えの悪い僕は、手が壊死するんじゃないかと思うほどノートに単語を書き込む。

 こうまでしても、帰ったら忘れているなんてこともザラだ。


 どうして物覚えが悪いんだ、この脳みそは……。

 人より時間を費やしているのに、人より出来ない。

 これほど惨めになる瞬間もない。


 だから僕は勉強が嫌いなんだ。

 嫌いなことをやらされるのは、この上なくストレスが溜まることだ。

 僕はイライラしながら英単語をノートに書き殴る。

 

 時間にして二時間ほど。部活動をやっている生徒も帰りの片ずけを始め、図書室も閉まる時間帯。

 もうそんな時間かと時計を見て、今日は屋上に行くのをやめようかなと思う。

 どうせ行ったところで三十分ぐらいしか入れないし……。


 でも、勉強で溜まったストレスを解消できるのは、あの場所で本を読むことだけ。

 例え数十分しかいられなくても、行く意味はある。

 図書館の司書さんに「もう帰っていいよ」の言葉を貰うと、僕は下駄箱とは反対にある、屋上に通ずる階段を登り始める。

 

 屋上の扉からは赤色の夕日が差し込んできて、階段を真っ赤に染めあげる。

 もうすぐ学校が閉まる時間になってしまう。それでも僕は、ガチャリと屋上の扉を開ける。


 勢いよく扉を開けると、ビューと風が吹き込んできて僕の髪を揺らす。

 風の勢いが強く、とっさに右手で目元を覆う。

 覆って、目を開けると、真っ赤に燃える夕焼けと、屋上のフェンスを越えて、今にも飛び降り自殺をしようとする女子生徒が目に映った。


 いつもと違う光景に驚き、流石の僕も一瞬だけ硬直する。

 風にゆらゆらと揺られる綺麗で長い黒髪が印象的な女子生徒は、屋上の扉がバタンと閉まる音に気がつくと、僕の方をジッと見つめきた。


 意外にも、顔は可愛い。

 そんな硬直が二秒ほど続くと、気まずい空気が流れる。

 どうしよう。止めた方がいいのかな?


 でも、僕が止める義理なんてなくないか? 

 話したことも、見たこともない男子にいきなり「死ぬなんて馬鹿なことやめてください」とか言われても、余計なお世話だと思われるだけだ。


 じゃあ帰る? 

 でも、それも納得がいかない。僕の貴重な一日の楽しみを、他人に気を使って潰すなんて勿体ないことこの上ない。

 そもそもなんでこの人に気を遣わなくちゃいけないんだ? 


 他人が死のうが何しようが、僕には関係ないじゃないか。

 冷淡な考えをすると、僕は自殺する女子生徒なんて目に見えてないと言わんばかりに、いつも通り本を読んでやる。


 壁に背中をくっつけ、好きな作者の新作をパラパラとめくる。この時間が何よりの至福だ。こうして少し時間が経つと、文字の羅列が脳に刻まれ、僕は小説の世界に没頭する。


 する……はずなのに、一向に集中できない。

 そりゃそうだ。目の前に自殺しようとする女子生徒がいるんだ。

 そんな状況下で本を読むなんて、よっぽど神経が図太くないと出来ない。


 あの人はどうなったんだろう。気にならないといえば嘘になる。

 飛び降りてしまったのか、それとも勇気が出なくてあの状態のままなのか。

 多分だけど、飛び降りてない。


 この高さの屋上から人が降ってきたら、今頃下は大騒ぎだ。

 だけど聞こえてくるのは、陸上部が吹くホイッスルの音や、サッカー部の掛け声などばかり。

 騒ぎ声は、一つも聞こえてこない。だけどやっぱり、気になるものは気になる。


 だから僕は、悟られないようチラッと本から顔を上げて、彼女の様子を確認してみる。

 すると目の前には先ほどの女子生徒がいて、僕の本を興味深そうに覗き込みながら。


「ねぇ、それってそんなに面白いの?」


 ニコッと明るい笑みで訪ねてきた。

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