表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある騎士の2度目の恋  作者: ダイフク
8/28

8.思い出の女



アーロンから似顔絵を差し出されたローエン王は、無くなったと思った似顔絵が息子の手に握られている事に驚いた。


それでも吸い寄せられるように、その似顔絵を手にした。似顔絵を見ていると、ローエンは息子の自分を見つめる目も気にならなかった。



アーロンは、似顔絵を見つめ、泣きそうで、でも懐かしくて嬉しいような顔の父を不思議な思いで見つめた。

父上は、いや、父上も、この人に心惹かれていたのだろうか?

それならば、母上は父上にとってどんな人だったのだろう。



「お前が持っていたのだな。どこに無くしたのか、随分探したのだ。もう見る事ができないと諦めていたのに、また見れるとは……。」


父の目に浮かぶ涙に、アーロンに嫌悪感が広がる。


「答えて下さい。」

「彼女を知っていたのか?」

「名前も知りませんが、子どもの頃、あった事があります。」

「そうか。」


父の沈黙にアーロンは次第に苛立ってきた。なぜ彼女は死んだんだ。もしかして、その仲を隠蔽するために殺したのか?

そう考えたアーロンの、声にしない言葉が届いたのか、ローエンはゆっくりと言葉を紡いだ。


「彼女、レイラは私の影騎士だった。そして、幼なじみでもあったのだ。お前は私が庶子だったのは知っているだろうが、私の母がどのような人だったかは知るまい。」

「お祖母様……ですか?」

「彼女は隠れ里の出身で、里を飛び出し、王都で働いていた時、忍びで街に出られた陛下と出会われた。当時の王妃様は既に第一王子を出産されていて、浮気と言うしかない関係だった。」

「……」

「そのうち、王妃様に2人のことが知られ、陛下は母を避けようとしたが、その時に私の妊娠が発覚したのだ。面倒を避けたかった陛下は、子どもが息子であった事から、第一王子の予備として、私を庶子と認めることにされた。」

「なんて事を……。」

「母は寂れた離宮に閉じ込められるようにして暮らし、命の危機もあったそうだ。それを不憫と、捨てた里の者たちが母の為にその離宮に潜り込んできて、母と私を守ってくれた。隠れ里の者は武に優れた者たちだったのだ。」

「その一人が彼女だったと?」

「身辺警護の夫婦の子どもだった。」


「反乱の際、どうしても必要な物があった。レイラとその仲間は命懸けでそれを手に入れてくれたのだ。生き残った者は一人もいなかった。20人だ。その彼らに命を捨てさせたのは私だ。」


彼女は難しい任務を果たして死んでいたのか。そして、全員が……。


「なぜ彼女だったのですか?」

「彼女は一番の手練だった。20人の彼らの長が彼女だったんだ。そして、若手を全て失った隠れ里の者たちは、王都から姿を消した。元々その地に行ったことのない私には、里を訪れる事も叶わない。」


─では、あの男、ガルロフは、一族の生き残りか?


「愛していたのですか?」

「女性として愛しているのは、昔も今も、王妃だけだ。それは誤解して欲しくない。だが、人として、我が半身とも思ったのは彼女だった。」

「それは、愛とは違うと言うのですか。」

「そうだ。彼女の主として恥ずかしくない人間になりたいと、それだけを思って私は生きてきた。」


─私と、同じ。でも私は……。


「この似顔絵は、返して貰っても良いか?これしか彼女の似顔絵が無いのだ。」

「……は、い。」

「これを元に絵師にもう1枚描かせるから、そちらをお前にやろう。それで我慢してくれ。」

「わかりました。」


父が大切に胸ポケットに似顔絵を収めるのを見て、アーロンは頷いた。父にとってもとても大切なものなのだと理解できたから。


「王妃にも見せてやりたい。きっと喜ぶだろう。」


弾かれたように頭が上がる。


「母上も、ご存知なのですか?」

「そうだ。毎年反乱を起こした日の前日、王妃が山に行くのを知っているか?」


確かにその頃、数人の護衛だけを連れて、母は川遊びに出かける。


「その川で彼女の遺体が発見された。そこまで逃げ切って息絶えたようだった。王妃はその川に毎年彼女の好きだった花を供えに行くのだよ。二人はとても仲が良かった。」

「そう、だったのですね。聞かせて頂き、ありがとうございました。」

「いや。もう遅い。眠りなさい。」

「はい。」



頭を下げて、部屋を出る時、アーロンはローエンを振り返って一言だけ伝えた。


「父上、私は、彼女の主になりたいと、ずっとそう思ってきたのです。残念です。」


ローエンの息を飲む音は、閉じる扉の音に飲み込まれた。



******


ガルロフは、窓の外の暗い空を見上げながら、カップに入った琥珀色の酒をユルリと回した。


今頃、あの王子は、父である王に、彼女の話を聞いているだろうか。

あの男は息子に何と話をしているのだろう。


彼だけが悪かった訳では無いと、理性ではわかっている。あの当時、それ以外に方法は無かったのだ。

圧政に苦しむ領民を救いたいという、あの男の気持ちに里は協力した。そして、領民は救われ、里は……。


ほうとため息を吐き、ガルロフは、残った酒を飲み干すと、窓辺を離れた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ