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ある騎士の2度目の恋  作者: ダイフク
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6.王位の継承



「詳しく説明してくれないか?」


ハザールが王位を継ぐのをできるだけ引き延ばそうとしているのは、ラリエットもアイーダも理解している。

それなのにどうして突然、と、アイーダはラリエットの顔を見つめた。


「父上の書簡を無効化するには、それしかないの。それに、ちょっと狡い事を考えてしまったのよね。」

「狡い事?」

「そう。」


「そこから先は、私が説明しましょう。」


そう言いながら、入ってきたのは、宰相補佐のカインだった。

その彼をラリエットが笑顔で迎える。


「カイン、君が?」

「はい。」


「まず、この計画は、この国独自の伝統あっての事です。」


ユラニア国の王位継承の儀式は、近年華美になりがちだが、元々は現王と次代の王の2人が聖なる泉で王冠を譲り渡すだけのものだった。


「つまり、パーティー等、一切不要な為、今からでも十分に、明日執り行う事が可能なのです。」


そして、この国で、王の意思は何より強い。だからこそ、ラリエットは、父の意向に逆らえないのだ。


彼女を他国の王族と結婚させようとするのは、父なりの優しさだとは知っている。あのバカの時も、死ぬまで大切にするから等と言う言葉に騙されたのだから。


その上、兄王子の研究の支援をすると言われて、2人の為にと思ったようだ。


「そして、王位を継がれましたら、翌日、ラリエット様に王位を譲って下さい。」

「は?翌日?」

「そう。明日は兄上が、明後日は私が王になる。」

「王族なので、ラリエット様が継いでも問題ありません。」


アイーダは驚いた。問題ありありでは無いのか?女王など、この国の貴族達が認めないだろう。


「貴族達にお伺いを立てる必要はありません。ハザール王が認めた事です。それでも反対したら、私が黙らせるだけのネタを持っていますから、ご安心ください。」


ラリエットは笑っているが、アイーダはカインの腹黒そうな笑顔が気になって仕方がない。

もちろん、ラリエットが王となるのは賛成だ。でもこんなに急ぐ理由はなんだろう?


「父上は認められたのか?」

「説得に応じて頂きました。」


─うん。やっぱり黒い。


しかし、よく見れば、腹黒カインとラリエットの距離感が近い。ラリエットが良いならいいかなと、アイーダは思った。握っている訳では無いが、2人の手の甲が触れ合っている。

ハザールも先程からその手が気になって、見つめていた。


「コホン、そ、その……。」

「どうかされましたか?」

「その、だな、ラリエット、お前はカインの事を……。」

「好きよ。やっと告白させたの。カインったら身分が違うって、ずっと避けてきたから。」

「ラリエットが迫ったの?」


アイーダは驚いた。カインがラリエットを誑かしたのかと思ったのに。よく見れば、カインの耳が赤い。



カインはその優秀さから、宰相補佐を務めているが、家格は伯爵家。しかし、それは彼が養子に入ったからで、本当の家は子爵家だ。

王女であるラリエットとは婚姻できる立場にはない。

ただ、数字に関しては天才的で、既に無くてはならない人材として知られている。

顔立ちは平凡だが、メガネの奥に光る目が鋭い。それだけで、近寄り難くなるほどに雰囲気が変わってしまうのだ。


それだけに外交は不向きで、その面については、ラリエットが担っている。

ラリエットの精霊のような見るものの心を掴む美貌は、誰の心も解してしまい、相手の懐に入りやすくする。



「王になったら、私は王配にカインを指名するの。誰にも何も言わせないわ。」

「それも父上は了解しているのか?」

「話してないけど。大丈夫よ、兄上。」

「父上と母上が寝込まなければいいがな。」

「きっと喜んで下さるわよ。息子と娘がまとめて結婚するのだから。」

「待て、待て待て、待ってくれ。息子?私?誰と?」

「もちろん、ジェンナさんと。」


「えええーーーっ?」


戻ってきたジェンナが真っ青になって悲鳴をあげた。


「どうして?2人とも好きでしょ?」


可哀想なジェンナは、口をパクパクさせるばかりで、声も出ない。顔は赤くなったり、青くなったり、忙しい。


ハザールも、その様子を見て、どうしようと悩むあまり、手をばたつかせているので、鳥のようだ。


アイーダは、仕方が無いと、口を出すことにした。


「ラリエット、先に2人に話すべきだったでしょ。本当にあなたったら、大雑把なんだから。」


「それはアイーダ様も……。」


カインが小声で言うが、聞こえないふりをする。


「ハザール様、ジェンナさん、私達から見たら、お2人はとてもいい間柄だと思います。

ハザール様は、王位を退かれるので、今と生活は変わりません。いえ、いつか王にならなければならないという心配ももう無くなるのです。

それに、ラリエットが王命として結婚を決めれば、家柄などなんの問題にもなりません。」


2人が動きを止めて、アイーダの話をきいている。


「今以上に、研究に没頭できるのです。どうですか?」

「研究、今よりも?」

「そうです。」

「朝から晩まで。今の研究室ではなく、ラリエットならば、研究棟を用意してくれるでしょう。

そうすれば、国中から、同士が集まり、更に様々な研究にも取り掛れるはず。

そうよね、ラリエット!」


「その通りよ。お金の事は、カインが全て解決するわ。任せて兄上!」

「おお、ラリエット。本当に?」

「そうよ。」

「ジェンナ、結婚しよう。カイン、よろしく頼むね。」


カインはチラリとラリエットとアイーダを見やり、大きく息を吐くと、しっかり頷いた。


「はい。お任せ下さい。」


困った王女だとは思うのだが、惚れた弱みだ。

カインの幼い頃からの秘めた恋が叶うのだから。


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