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ある騎士の2度目の恋  作者: ダイフク
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5.ハザールの秘密



今日もハザールは研究室にこもっていた。エンドウ豆の品種改良が大詰めなのだ。2年の歳月をかけた研究で、やっと満足のいくスナップエンドウができあがった。


日本で農業試験場で働いていた彼にとって、この世界の植物は随分遅れていた。

土地の土壌改良もされていないし、水路も整備されていない。


彼がハザールとして目覚めたのは12歳の時だった。


天候に左右される収穫。連作で衰えた土地。

このままでは国が貧しくなる一方だ。それでなくてもこの国は小さい。鉱山などの資源がある訳でもない。

それならば、せめて農作物で潤わなければ、生き残れない。


前世の知識を総動員して必死に研究を続け、気づけば28になっていた。

両親もそれなりの年齢で、他国では、彼と同年代の人間が王位を継ぐものも多い。

彼もおそらく王位をと周りには思われているのだろうが、自分には向かないと分かっている。


「ハザール様。見てください。この薬、新しい反応を示しています。」

「凄い!ジェンナ、やったな!」


肥料開発の為に雇用した薬師のジェンナ。平民と言うよりも、貧民と言うのが正しいが、飢え死に仕掛けた彼女を助けたのが、彼の研究に拍車をかけた。


そして、彼同様、彼女も異世界転生した人間で、薬学研究所の研究員だった。


同じように研究に携わるものとして、寝食を忘れるのもお互い様。相手の事を我が事のように理解できる。

彼女が現れるまで、彼の事を理解できる人間は周りにいなかった。


唯一妹だけが、彼が好きな事をできるように周りを説得してくれた。生活態度には同意できないようだが、妹とその友人の辺境伯令嬢だけが彼の理解者であり、支援者だった。


研究にすぐに結果が出ないばかりに、妹を望まない結婚に追いやってしまった不甲斐ない兄を、責めるでもなく、あっさり離婚をもぎ取ってきた。


本当によくできた妹だ。



「兄上、久しぶり。」

「やぁよく来たね。座れる所に座って。」

「ジェンナさんも久しぶり。」

「姫様、お久しぶりです。アイーダ様もお久しぶりです。」

「うん。久しぶり。」


茹でたてのスナップエンドウを、おやつのように2人に出すと、早速2人は食べ始めた。


「美味しい!」

「凄く美味しい!」


その言葉で、ハザールの相好が崩れる。


「はぁ、良かった。やっと製品化できるよ。」

「そうなの?凄く美味しい。」

「あぁ、それから、こちらも食べてみて。」


2人に差し出したのは焼き芋だ。


「従来のものより、甘くて蜜が多いんだ。砂糖無しで砂糖のような甘みがあるんだよ。」

「おいもで?」

「そう。蜜芋と名づける予定なんだ。」

「ふぅん。」


2人は大きく口を開けて、ガブッと齧り付いた。


「甘い!」

「何これ!ハザール最高!!」


「どうだろう?サツマイモは育てやすい作物なんだ。穀物で主食の代わりにもなる上、糖度が高いので、嗜好品としても楽しめる。」

「良いわね。」

「うん。ケーキみたいに甘い。」


2人の賛辞が凄く嬉しいハザールは、ヘラりと笑いながら、ジェンナの肩を抱いた。



「忘れる前に渡しておくね。これ。」


そう言ってアイーダから差し出されたものは、中々手に入らない薬草や動物の肝等の素材だ。

普通の人間では、立ち入る事のできない場所でしか入手できない貴重な物を、アイーダは手に入れては届けてくれる。それこそ金には変えられないほどのものが多い。


「助かるわ。これ次の合成に使いたかったの。」


ジェンナが笑顔で、包みを受け取って自分の研究室に走っていった。


「いつも助かるよ。」

「どうってこと無いから。気にしないで。」


下げた頭をあげれば、アイーダの横にラリエットの真剣な顔があった。


「どうした?ラリエット。」

「うん。あのね、多分、また結婚する事になりそうなの。」

「もうなのか?今度はどこだ。」

「コルニエ王国。多分今度は離婚は無理ね。この間のバカのようにはいかないわ。あそこの王太子は頭が良さそうだから。」

「話が来たのか?」

「まだだけど、父上が申し込みを送ったと言ってたわ。」

「返事が無いなら可能性は低いんじゃないか?あそこの国は恋愛結婚を優先するのだろう?」

「そう思ってたんだけど、状況が悪いの。」


ラリエットは調べた内容を説明した。

コルニエ王国が財政的に厳しい事。食糧事情がかなり逼迫しそうな事。

その上で、この国の作物改良に目をつけた事。



「不味いな。」

「そうなの。それで、兄上にお願いがあって、反対せずに聞いて欲しい。」

「お前の願いならなんでも聞こう。言ってごらん。」


「明日にも王位を継いで下さい。」


その言葉に、ハザールとアイーダは言葉を失った。


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