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ある騎士の2度目の恋  作者: ダイフク
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4.ガルロフとアーロン



15年前の反乱の時、国を捨てたガルロフだが、その5年後にコルニエ王国に戻っていた。


今では裏ギルドのマスターでもある。


熊の怪我も動ける程度には治まり、コルニエに戻ってきたのは、ほんの一週間前。まだ医者に包帯をグルグル巻にされて、安静にしろと言われ、ベッドの中だ。


医者からは軟膏の効き目が素晴らしい。どうして持ち帰ってくれなかったのかと叱られた。

いくらガルロフでも、そんな図々しい真似はできないと反論したら、泣くほど残念がられてしまった。


考えてみれば、あの怪我で、こんなに早く動けるのはありえない事だ。確かに金を払ってでも製法を聞いておくのだった。


─辺境伯の娘。アイーダ。会いに行ってみようか。


あの紫の瞳がもう一度みたい。



「ガルロフ、入ってもいいか?」

「どうぞ。王子様。」


ガルロフが国に戻ったのは、この王子の為だ。

彼が国に戻る前、この王子が拐かされる事件があった。ちょうど、その現場を目撃し、跡を追って、王子を助けたのはガルロフだった。


その後、すぐにそっと王宮に王子を戻したので、誘拐が起きた事すら誰にも知られていない。

彼女が可愛いと大切に思っていた王子が、また悪意に晒されてはならないと、この国に居場所を作ることにした。それが今の情報ギルドの始まりだ。


その後も王子との付き合いは続いている。


「酷い怪我をしたと聞いた。」

「大したことは無い。熊とやりあったが、ちゃんと生き残った。」


ガルロフが強い事は知っているが、アーロンは渋い顔をした。


「何故ユラニアへ?」

「少し気になってな。他のやつではなく、自分の目で確かめたかった。」

「何を?」

「知っているか?今年の秋もユラニアは豊作だったと言うことを。」

「知っている。流石に南にあるユラニアは気候に恵まれたのだろう。羨ましい限りだ。」

「俺もそう思った。だが、そうも思いきれない。」

「どういう事だ?」


ガルロフは、ユラニアの隣国の作付け状況も調べてきていた。それから考えるとユラニアの豊作は有り得ないほどだ。それも領内全てにおいて同じ状態だという。


「ありえない。どんなに豊作の年でも、どこか良くない土地はあるはずだ。」

「他の国ならそうだろうな。しかし、ユラニアでは、年々作付け状態が良くなり、作物の出来が良くなっている。年々だ。」

「改良されていっていると言うことか?」


ガルロフは黙って頷いた。アーロンは片手で顔を覆って椅子に崩れ落ちた。

彼も改良には興味がある。北の大地だ。土地は広い。もし改良できればと子どもの頃から夢見た事はある。

だが、そんなに簡単な事では無いのだ。

それをあの国は、国規模でしていると言うのか?


「その上、医療も進んでいる。」

「医療?どういう事だ。」

「熊にやられた傷が、5日で傷口が閉じるような軟膏を使って治療してもらった。」

「5日?ありえない!」

「医者のコリンにも怒られてしまった。」


こうなると、ユラニアとの繋がりを真剣に考える必要があると、アーロンは思った。



「ガルロフ、ひとつ聞いてもいいだろうか?」

「改まって、なんだ?」

「紫の髪に、紫の瞳の女性騎士を知っているか?」


思わぬ問いにガルロフは、返事ができなかった。彼女が王子と会ったのは、彼がまだ幼い頃の1度か2度。記憶にあるはずがない。


「なぜ、その人物を知りたい。」

「……ユラニアに婚儀の申し入れをしようと思う。その前に彼女にもう一度会いたい。」

「どうして?」

「ずっと心に残っている人だ。」

「そうか。」


ガルロフは躊躇した。真実を告げるべきか。知らないと嘘をつくべきか。


「俺には言えない。お前の父親に聞け。」

「陛下に?」

「そうだ。ただひとつだけ言っておく。彼女には二度と会えない。もし会えるものなら会いたいと、一番そう思っているのは、俺だ。」

「え……。」

「悪い。帰ってくれ。」

「分かった。」


アーロンが出ていった扉をガルロフはじっと見つめていた。あの王は、息子になんと答えるのだろうか?

少しでも、ほんの少しでいいから、彼女の事を思い出し、彼女の死を悔いて欲しい。


ガルロフは暗くなるのも気づくことなく、物思いに耽った。



*****



二度と会えないという言葉だけが、アーロンの頭の中に繰り返されている。


会えないのは、死んだと言うことか?

彼女が?


彼女の主となる事だけを目標に頑張ってきたのに……。


夜が更けるまで、アーロンは自分の部屋で呆然としていた。


父王は、夕食も食べずに部屋にこもる息子の様子を見に来た。先に来た王妃は何ともないと言われて、追い返されたと、泣きながら彼に訴えたからだ。


ユラニアの事を思い悩んでいるのかもしれないと、話を聞こうと来たのだが、息子の自分に向ける瞳が、いつになく暗いのに気がついた。


「あの人は、どうして亡くなったのですか?」


似顔絵を差し出して、咎める口調の息子に、ローエン王は、顔色を変えてその場に固まった。


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