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ある騎士の2度目の恋  作者: ダイフク
28/28

28.どうしよう



屋敷の窓から、2人の人物が、アイーダ達を見ていた。1人は騎士団長。そしてもう1人は辺境伯夫人。


「奥様、少し暗くなって参りましたので、灯りをつけても宜しいですか?」

「ああ、そうね。ありがとう。」

「いえ。」


クリスが灯りをともし、紅茶の支度をするのをソファに座って眺めながら、夫人は娘に近づく男性達の事を考えていた。彼女の中では1人は既に失格だが、後の3人は、どうだろう、と。


「奥様、少しだけお話をさせて頂いても宜しいでしょうか。」

「良いわよ。どうしたの?改まって。」

「私はずっとお嬢様を見て参りました。いつかは幸せな結婚をなさり、結婚後もずっとお嬢様をお支えするのが私の本望と考えてきたのです。」

「そうね。あなたはずっとあの子を見守ってくれていたわ。」


俯きながら、話すクリスに、優しく笑顔を向けた。彼の娘への献身はよくわかっている。実の息子のようにも思っている青年だ。もう少し我儘を言っても良いと思っていた。


「しかし、実際に目の当たりにすると、駄目なのです。私も、いえ、私がお嬢様の手を取りたいと思ってしまいました。」

「私達夫婦は、娘の夫を身分や財産で選ぶつもりが無いことは知っているでしょう?」

「はい。存じております。その上でお願いがございます。」

「何?言ってみて。」

「今の私では、まだお嬢様の隣に立つには不足しております。成人までのあと一年。どなたにも相応しいと思える男に成長してみせますので、お嬢様のお相手決定は、それまで待って頂けませんか?」


真剣なクリスの顔を見て、夫人は頷いた。


「良いでしょう。夫にも娘にもその話をします。でも既に気持ちを伝えた方がお2人いらっしゃるので、黙ったままでは、娘の気持ちは動いてしまうかもしれませんよ。」

「気持ちを知ってもらうというスタート点には立たせて頂きます。」

「それまでに候補が増えるかもしれませんよ。それでも良いのね?」

「はい。それで負けるのならば、私がお仕えするべき方だと存じます。」

「そうね。一年後を楽しみにしているわ。」


一礼して出ていくクリスを見送りながら、隣の部屋から現れた夫に目を向ける。


「今の方が、有利だと思うがなぁ。」

「良いのですよ。昔のあなたを見るようで、私は楽しいですわ。」

「そうか?私は先手必勝だったと思うがな。」

「ふふふ。あなたが私の好きな花を毎朝山に4時起きで登って、1年間休まず届けて下さった事。お忘れですか?」

「そ、そうだったかな?」

「ええ。」


「お前のおすすめはクリスか?」

「まだ分かりませんわ。一年後ならば、あの王太子殿下も復活なさるかもしれませんわね。」

「ああ、そうかもな。国に戻り、陛下や王妃殿下に話をして、怒られて反省するだろうからな。」

「そうですね。」



******



窓から見ていたもう1人である騎士団長は、自分がどう動くべきか悩んでいた。


彼は幼い頃かは剣術の天才と言われ、辺境伯の豪快な剣術に魅せられて、辺境伯の騎士団に入ったが、かルナール侯爵の三男だった。


その彼がアイーダを見たのは、彼女が10歳の時。天才だと自負していた自信がガラガラと崩れた。

彼女の右腕になろうと思っていたのに。


いや、そうではない。

三男の彼には降るように縁談の話があったが、全て断ってきた。もしかしたら辺境伯が彼を娘の夫にと望んでくれるのではないかと思っていたのだ。


─これで2人。私も気持ちを打ち明けよう。いや、その前に辺境伯に話をして……。



夕飯の席で、辺境伯から話があると言われた。


「アイーダの結婚についてだ。」

「父上?」

「アイーダ、これは決定事項だ。お前の相手は、1年後の成人式に決定する。それまでは、何人にもお前の気持ちを伝えてはならない。そして、何人であっても、お前の心を得るための努力を妨げてもならない。

等しくお前を求めるもの達を、見て、1年後に相手を決めなさい。良いか?」


「どうしてですか?」

「1年待ってやれば、今スタートしてない者も、平等に頑張れるでは無いか。」

「平等って……私の事なのですよ?」

「その通り。我ら夫婦の可愛い一人娘の事だからな。」


アイーダは、考えた。1年の猶予。良いかもしれない。

自分の気持ちがまだ全く分からないのに、好意を向けられ、困惑しているのは確かなのだから。それまでに自分も成長すれば良い。


彼らに負けない人間になりたい。もっと強く。もっともっと強く。



夫人は娘の目指す方向が、少しおかしな方向に向いている気はしているが、それを正すのも、夫となる男性の勤めだと考えている。


それに、息子候補達が、希望を持って嬉しそうなので、それでいいと思った。


1年後に誰が娘の手をとるのだろうか?

さあ、1年などあっという間だ。結婚式の準備を整えよう。



息子候補達は、お互いに目を合わせるとニヤリと笑った。コルニエの王太子には辺境伯から便りを送るそうだ。

焦らず、じっくりとお嬢様を落としていこう。

そう、1年もあるのだから。コイツらには絶対に負けない。



日々は繰り返され、季節は移っていく。

そして、今日、アイーダは、1年かけて彼女に愛を告げた彼と結婚する。

父親に手を取られ、真っ白なレースのドレスに身を包み、彼から贈られた花束を抱いて、教会を進む。

教壇の前には、彼女を愛しげに見つめ、手を差し伸べる彼。

父親の手を離し、彼の手を掴む。この選択に後悔はない。


ふわりと参列者たちが撒く花びらが、青い空に舞い上がった。


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