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ある騎士の2度目の恋  作者: ダイフク
21/28

21.届いた想い



「ク、ククッ、なんでそんな誤解をするんだ。」

「良く知っていると言うから。」


顔を赤らめ、頬を膨らませてそっぽを向くアイーダには、レイラと重なる部分を感じない。

それなのに、アイーダと居るのは楽しい。そして、今心惹かれるのは彼女だと言うのに、全くそれを分かって貰えないことにもどかしさも感じている。


─まあ、年齢差を考えれば、ただのおじさんだろうな。


「では、その、思い出の女性は、もう忘れられそうなのか?」

「いや、それは無理だな。」

「どうして?」

「俺は彼女が好きだった。いや、愛していた。でも彼女は俺の事をどう思っていたのだろうか?ただの弟?最期の時、少しでも俺の事を思ってくれただろうか?

そんな、どうにもならない気持ちが捨てられないんだ。彼女を忘れたくないとも思う。」

「……それが、聞ければ、良いのか?」

「どうだろうな。人の気持ちは難しいんだよ。」


拳を握りしめ、アイーダは、ガルロフを見つめた。


「もうレイラを忘れて、マクスの人生を生きてくれ。」

「どうしてその名前を?あぁ、マクロスに聞いたのか。」


「あの日、蛍が飛ぶのを見ながら、手に入れた証拠をコウモリに託した。」


何を言っているんだ?そんな事までマクロスは知らなかったはず。ガルロフは、食い入るようにアイーダを見つめた。ここに居るのは誰だ?まさか……。


「自分がそこで死ぬのはわかっていた。ただ、最後に命じられた仕事を全うできて良かった。安堵した私が最期に思い浮かべたのは、マクスの泣き顔だった。お前は、とても怒って泣いてた。泣かせてすまない。」

「レイラ?」

「レイラは死んだ。知っているだろう?」

「俺か荼毘にふした。」

「レイラの気持ちはレイラの死と共に終わったんだ。」


「ひとつだけ教えて欲しい。俺の気持ちはレイラに届いていたか?」

「届いていたよ。弟のように可愛がっていたが、もし生きていたら、その想いに応えたかった。」

「そうか。うん。そうだったんだな。」

「マクス。」

「……ありがとう。先に一人で戻って貰えないか?」

「わかった。」

「お嬢様、ありがとうございます。」


駆け去る音を聞きながら、ガルロフは、静かに涙を流した。自分の想いはレイラに届いていた。レイラの心はローエンのものではなく、自分のものだった。

ずっとアーロンを見守りながら、心のどこかでローエンに対する憎しみを消しきれなかった。


レイラ、レイラ!レイラ!!


今、やっとレイラを思い出にする事ができる。いい思い出に。


15の年の差がなんだ。自分はガルロフとして、アイーダに惹かれている。いや、あの舞のような剣を見た時、彼女の半身になりたいと思った。


思うなら動けばいい。アーロンも彼女に惹かれたのはわかった。強い男なら、誰でも彼女に特別な男と思われたい。だから……



今度こそ誰にも彼女を渡さない。



ガルロフは、ゆっくりと体を起こした。その顔には、とても楽しげな微笑を浮かべて。



******



ふらっと遊びに来たラリエットは、一人で戻ってきたガルロフとちょうど屋敷の入口で出会った。


少し驚きに目を見張り、次に楽しげに微笑んだ。


「ガルロフさん。」

「陛下。いつこちらへ?お嬢様をお呼びしましょうか?」

「構わないで。あなた、いい顔になったわね。これなら楽しい勝負になりそうよ。」

「勝負?……そうですね。負けるつもりはありません。」

「ふふっ。良いわね。私としては、まだ物足りない彼より、今のあなたなら、あなたを推したいところよ。」

「是非お願いします。」

「大人の男の色気。期待してるわね。じゃあ、頑張って。」


ヒラヒラと手を振りながら、立ち去るラリエットを見送り、ガルロフはため息を吐いた。

お嬢様が彼女に影響されていなくて良かったと思う。18とは思えない。これだけ年齢差があるのに、子供扱いされるとは……。


─期待に応えない訳には行かないな。


さて、もう一度体を鍛え直そう。アーロンに負けるつもりは無いが、アイーダに勝てるかと言われれば微妙だ。

練習ならば負ける。真剣勝負なら、相打ちか?


負けられないな。俺をそばに置きたいと思わせなくてはな。

ラリエットが来たのなら、アイーダは彼女の相手で忙しいだろう。


─騎士団で鍛錬に混ぜてもらおうか。


ガルロフは、部屋に戻るのをやめて、練習場に足を向けた。



******



アイーダは、ラリエットが近づくのにも気づかずに、中庭で木刀を降っていた。


悩んだが、言って良かったと思う。だが、ガルロフは、今後自分の事をどう見るのだろうか?

レイラの身代わり?

記憶はあるが、今の自分はアイーダだと思っている。剣だって、レイラの剣の弱点を考え、独自の型を編み出した。今のアイーダは、レイラよりも強くなったつもりだ。


─でも、最後はお嬢様って言ってた。



「何を悩んでいるの?」

「ラリエット!」

「珍しいわね。気づかないなんて。」

「うん。ちょっとね。」

「ガルロフと何かあった?」

「どうしてガルロフの名前が出るの?」


千里眼なの?思わず慌てて、握っていた木刀が地面に落ちた。


「あら、ふふ。ガルロフもいい顔になってたけど、アイーダも……。」

「な、何よ!」

「女はね、恋をして一皮剥けるのよ。」

「恋って、そんなんじゃないから!」

「ふふふ。楽しいわね。王太子様は、どう出るのからね。」

「もう!それで今日は何の相談?」


「結構、真面目な相談。」


そういうラリエットの顔には、もう笑顔はなかった。


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