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ある騎士の2度目の恋  作者: ダイフク
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19.温泉事業は癒し



ラリエットは、にこやかに話し続ける。


「温泉事業です。」


「温泉、ですか?それは一体……。」


「初めて聞く言葉だと思います。私もそうでした。

この国には、落ち人が多く現れます。その彼らの中には温泉について懐かしむ者がかなりいたそうです。」


ラリエットに調査報告をした者の話では、心と体を癒す最適なものと日記に書かれていたそうだ。

彼は幼い頃その日記を読み、ずっと憧れていた。そして、関連する書物を調べ、土地を調べ、ユラニアには温泉は無いと知った時、絶望に押し潰された。


しかし、彼は諦めなかった。この大陸のどこかには、彼の求める温泉があるに違いないと。そして見つけたのが、コルニエのガース鉱山。最初は諦めたこの鉱山が間もなく廃鉱山になると分かった時、彼の野望に火がついた。


温泉街が作りたい!


「いかがでしょうか?貴国のように寒い冬、息が白くなる時に、凍える体を温かいたっぷりの湯に浸す快感。傷を癒し、体調を整える。そんな湯が、何の加熱処理もなく湧いてくるのです。」


アーロンは、驚いた。そんな夢のような財産が自国に眠っていたとは。知らなければ、ただの宝の持ち腐れだったはずだ。


「我国の商団が実際には所有する形を取ります。共同開発ならば、費用も利益も折半。我国単独の場合でも、利益の2割を税金として納めましょう。最初は経費が嵩むので金額も少ないですが、順調に初期投資額を回収した暁には、かなりの金額をお支払いできます。

また、人々の雇用にも貢献できるでしょう。」


「そ、相当な金額が必要ではありませんか?その商団にそれが可能ですか?商団の責任者もこの場に居ないではありませんか。」

「大丈夫です。最高責任者の2人は、私とここにいるアイーダですから。」


─この少女2人が?あぁ、敵わないな。


「わかりました。その契約を交わさせて下さい。温泉については、利益がとても魅力的なので、共同開発にさせて頂きます。」


ラリエットは、満足そうに頷くと、肩にかけた小型の鞄から、小さな瓶を取り出した。

アイーダと山に入ると何を口にするか分からないと、両親に持たされている【万能毒消し】だ。


「これが毒消しです。これを持ってまず国にお戻りください。」


両手で慎重に瓶を受け取り、胸の前で握りしめた。


「ありがとうございます。父の病状を見てまた戻ってきます。その時は、どのように入国すれば良いでしょうか?」

「そうですね。あまり大掛かりは困りますので、数人でお越し下さい。街道警備のものには申し伝えますから。」

「お気遣いありがとうございます。」


その後の話で、ガルロフが、アーロンをコルニエ王国まで護衛して戻る事になった。


一日でも早く戻りたいと言うアーロンの希望で、馬車を用意し、ガルロフはアーロンの馬に乗って付き添う事になり、翌朝、旅立って行った。



******



「何だか慌ただしかったねぇ。」

「原因はラリエットでしょ。」

「まあ、そうだけど。」


ラリエットは、アイーダをチラリと横目で見た。


「それで、どっち?」

「どっちって、何が?」

「美青年とイケおじ。なかなか捨て難いじゃない?」

「ちょっと!」

「どうなの?」

「どうって……。」


急に表情が柔らかくなったマクスに、心の中のレイラがときめいている。

国の代表として話をするアーロンと、涙を浮かべていたアーロンのギャップに惹かれるものを感じた。


─男の泣き顔って狡い。それをあんな強そうな人が……。何だかグッときちゃうじゃないの。


ラリエットは、友の顔を見ながら、クスッと笑いを漏らした。まだそういう意味では、子供子供してると思ったのに、どうやら、そろそろそんな年頃のようだ。


この2人が結婚すれば、2国の繋がりは強くなるが、他国からの牽制も強くなるだろう。

ラリエットは政治家の顔に戻って、その対策を練り始めた。

彼女の頭の中には、中間2国を引きずり込む考えが幾らでもある。難しかったのは、コルニエ王国だけだった。

この4国がまとまれば、大陸の中央は抑えられる。



******



この大陸に欲を見せている、別の大陸の国々から守るには纏まる必要があるのだが、それを意識している国は残念ながら無い。

ラリエットは、この国を領民を好きだからこそ守りたい。

それを分かって、力を貸してくれているアイーダもカインも大好きだからこそ、アイーダにも自分にとってのカインのような存在を早く見つけて欲しいと思っている。


「あの子は、いつまでたっても奥手なのよ。せっかくいい相手が2人も見つかったのに。私としては、王太子推しなんだけど、どう思う?」

「ラリィの気持ちは分かるけど、それは本人達の気持ち次第じゃないのか?」

「でもね、愛する人とこうして過ごすだけで、次の日また頑張ろうって気力が湧くでしょ。」

「こら、耳元で喋らないの!くすぐったいよ。」

「ふふっ、カインは耳が弱いのよね。」

「もう、いたずらっ子はお仕置が必要かな?」

「素敵。ぜひお願い。」


ラリエットは、カインの首に両手を回して体を寄せた。


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