17.目指せ1位の展覧会
ラリエットは、交流停止に対する国内対策として、展覧会の開催を決めた。
小国とはいえ、全土に目が届いている訳では無い。
ここはひとつ、外国の目が無い所で、大っぴらに地域の特産品等の状況を確認したい。
「いや、それって、警備が大変!」
アイーダがわざわざ転送装置でやってきて文句を言う。
「何?出来ないの?」
「出来ないって言ってない!でも大変なの!!」
「でも、考えて。楽しそうじゃない?」
「そ、それは。でも、カインはいいの?費用がかかりすぎでしょ?」
「大丈夫です。急な事案対応用の貯金があります。」
シラっと答えるカインを睨んで、小さく舌打ちする。
─すっかり取り込まれてるわね。前なら、悩むぐらいはしてくれたのに……。
「夫婦は一心同体よ。」
「まだ結婚式もしてないのに。」
カインは、目を伏せ、顔の赤みを眼鏡をあげるポーズで誤魔化している。
─何?こんなに初心な人だったの?
アイーダの問いかける目に、ラリエットが余裕の笑顔で応えた。もう、ふふふーんって感じに。
3歳差を今日ほど感じたことの無いアイーダは、負けたと思った。いや、前世から考えても負けている。
これは、不味い。いや、ここで競争心を燃やしてどうなる。それは私の……。
そこまで考えて、気持ちを落ち着けた。今問題なのは、展覧会の警護の話だ。
「さすがにそんな大規模な展覧会をすれば、他国から入り込もうとする者が現れると思うわ。」
「そうね。まず、事前に各地に展覧会をするとしたら、何を出したいかを確認するつもりなの。会場の規模をどうするかもあるから。ただ、会場は、王都限定にして、配送には王都軍を同行させるつもりよ。」
「軍を使うの?」
戦争とは縁のない国だ。王都軍の人数もそれほど多くはない。ただ、武器は揃っている。これも落ち人の作ったものだが、実は性能は良くわかっていない。手入れは定期的にされているが、使用実績が無いからだ。
名前は、意味不明だが、ついている。
【ロケットランチャー】
肩に担いで使うらしい。王国軍は、これを楽に担げるだけの力は誰もがある。
他にも色々揃っているが、全て初お目見え。
ただ人数の少なさを補ってくれるだろう。
ラリエットの兄のハザードは、初めて見た時、ゲームみたい。やばいと言い続けていた。
軍を使うなら、この武器も持たせるのだろうと、アイーダは、考え込んだ。それならば会場の護衛は、物の到着と共に強化される。最初だけならば、辺境伯の騎士団だけでも何とかなるかもしれない。
申し訳ないが、マクロン達にも協力してもらおう。
「わかったわ。それで、どこまで進んでるの?」
現状、各大臣達は、ラリエットの暴走を孫を見るような目で見守っている。と、言うことは、大丈夫と言われているのと同じ。彼らは口は出さないが、目も耳も思いっきり働かせているはずだから。
ラリエットが差し出す書類をチェックして、辺境伯領の騎士団の配置を検討する。
「やっぱり騎士団だけでは足りないわ。領民に頼るしかないかも。最近、一人腕利きが領地に来たので、彼をリーダーにして人員配置するわ。」
「あら、どんな人?」
「30ぐらいの苦労人って感じの人。」
「会って話がしたいわね。アイーダ、辺境伯領に行くわよ。」
「待って。女王様が良いの?」
「良いわよね?カイン。」
「仕方ないですね。明後日には避けられない予定がありますから帰ってきて下さいね。……私も、寂しいですから。」
「私もよ。明日には戻るから。ね?」
「はい。」
この2人を見ていると、年齢差ってなんだろうとアイーダは、思う。確か5才、カインが上だったのに。
どう見ても……。
でも、今のガルロフは、アイーダから見れば、頼れるおじさんだ。あの名前も知らない怪我人の方が胸がときめいた。
もう少し大人になったら、とは、言うものの、アイーダの中身は、レイラの意識もある。
中身の年齢勝負ならば、ラリエットよりも歳上なのだ。
気楽にラリエットを連れて戻ったアイーダは、その後に起こる騒ぎなど、予想もしなかった。
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アーロンの話を聞いたガルロフは、眉間の皺を深くした。あの15年前の傷が未だに尾を引いていたとは……。
余命1年。レイラにあの任務を与え、レイラと働き盛りの里人全てを死に追いやったローエンをガルロフは憎んでいた。
しかし、納得して死んだ彼らの事を思うと、ローエンに復讐する気も起きず、原因となった前王達の死後は、捌け口を失ってしまった。
だが、あと1年と言われると、切なくなる。
レイラを良く知るものがいなくなってしまう。記憶から消えていってしまう。
それなら長生きして、憎らしい相手だが、いつかレイラの話をしながら、酒を飲みたい。レイラが好きだった蛍を見ながら……。
「それで、薬を手に入れに来たと言うのか?しかし、毒の種類も分からないんだろう?」
「症状の説明はできる。それから判断して毒消しを用意できないか聞きたいんだ。」
「……。」
「私の腕の骨折も信じられないぐらい早く回復してきている。この国なら、毒消しがあるかもしれないんだ。頼む。協力してくれ。」
縋り付くアーロンにガルロフは、自分にできる事など何も無いのにと、返す言葉を失っていた。




