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ある騎士の2度目の恋  作者: ダイフク
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16.研究棟のスタート



ハザードは、この国に、これ程の人材が眠っていた事に驚いた。さすが、落ち人の国と言うべきか。

まぁ、自分も落ち人なのだが、正直、この国は、どこか非常識が常識としてまかり通る国なので、とても暮らしやすいのだ。

これが隣国なら、メンタルの弱い自分では、あっという間に暮らしていけなかった。


人と違うと言うことは、他人だけでなく、自分が最も怖い事に違いない。


この国は、人と違うことにおおらかで、懐が深い。

何をやっても、ある意味、迷惑をかけてもちゃんと後始末をするならば好きにさせてくれる。

前世では、色々あって、いつも神経性の胃炎に悩んでいたのに……。



研究棟には、実に様々な人達がやって来た。

中でも落ち人の子孫で、先祖返りしたという2人は面白い。その才能自体が異世界だ。いや、ここも異世界なんだが……。


でも、魔法と錬金術だなんて……。


「それで、何ができるの?」

「それを研究したいんです。過去の落ち人が残した魔道具を研究したら、何かできることが見えてくるかもしれないと思うんです。」


両手を握りしめて力説するのは肩までの赤髪と、ルビーの瞳の魔法少女、ミルシャ。魔法の適性はあるとの話だが、魔法は使えないらしい。


「ぼ、僕も、魔道具を見たら、真似して何かできるかもしれないと、いや、何もできないかもしれないけど……でも、見てみたいと、言うか、あ、その……。」


この自信が無い少年、ボイスは、見た目だけなら、騎士にも負けない巨漢なのに。全身を覆う筋肉は鎧のようなのに、どうやら心は綿あめらしい。尖った黒い短髪と黒い瞳が前世を思い出させる。

彼も適性はあるらしいのだが、何か作り出せた事は無いそうだ。


そして、この2人は、こんなに見た目が違うのに、兄弟だという。驚きだ。


ちょうどラリエットから頼まれた水晶球の件、彼らに頼んでみよう。



「君達2人に頼みたい事がある。これの複製を作れないかな?」


差し出した水晶球をボイスが恐る恐る受け取って、途端に顔が崩れた。なんと言えば良いか、蕩ける?球を舐め回したい?


「こ、これって……。」

「通信の魔道具なんだ。」

「通信具……。」


いきなりミルシャが片方の水晶球を抱きしめて、部屋の隅に走って行く。


─ちょっと待って!割れたら大変なんだけど……。


「もしもし、ボイス?」

「ミルシャ、聞こえるよ!」


水晶球に張り付くボイスが嬉しげに答えるけれど、同じ部屋の中だ。ハザードにも2人の声は聞こえている。

だが、僅かにズレて同じ声も重なるように聞こえている。


「説明していないのに、よく使い方が分かったね。」

「はい。なんだか、ビビビって感じたんです。」

「君達兄妹に任せるよ。それの複製をつくって欲しい。」

「「はい!」」


嬉々として水晶球を抱えて出ていく2人を見送り、ハザードは微笑んだ。まだまだ面白い人材がいっぱいいる。

この楽しい国は、更に楽しくなりそうだ。


─ラリエット、よろしく頼むね。



******



アイーダは、怪我人が気がついたと言うので、トレー一杯に食べ物を載せて、彼の居る部屋に向かった。


「入ってもいいか?」


中からガルロフの声がする。知り合いのようだが、どういう関係なんだろう。


「どうぞ。」

「悪い。手が一杯なんだ。開けて貰えないかな?」


ガルロフが開けて、山のような食べ物に目を丸くしている。


「お嬢様、その量は……。」

「病人じゃなくて、怪我人なら、お腹が空いてると思ったんだが、違った?」


「あ……。」


アーロンは、一目見て、ガルロフの言うお嬢様が、彼女だと分かった。あの似顔絵に似た濃い紫の瞳。

そして、ガルロフが姿を消したのは、きっと彼女に会うため。それは確信だった。


無言でガルロフと目を合わせる。ガルロフはスっと目を外すと、親しげにアイーダに近寄り、そのトレーを受け取った。


「お嬢様、一体何人分ですか?」

「一人分だが?若い男なら、これぐらい食べるのではないか?うちの騎士団の連中は、みんな食べるぞ?」


いや無理だろうと、アーロンは思った。一人で何回に分けて食べたら食べ切れるのだろう。

だが、一人がこれだけ食べても問題ない、収穫の多さが羨ましい。


「無理ならガルロフと分けて食べて。じゃあ。」


閉まった後の扉を未練がましく見ていると、無言でガルロフが食べ物を差し出してきた。


「どうぞ。王国よりも美味しいですよ。」

「そうなのか?頂こう。」


左手が骨折しているので、自由な右手だけで、パンに肉や野菜を挟んだものを取り上げる。一口噛み付くと、肉とソースの旨みがじわっと口に広がった。

肉も美味いが、少し香りの強いソースが美味しい。

いくらでも食べれてしまいそうだ。


「美味しい。」

「でしょ?」


2人で料理を食べながら、アーロンはガルロフに、自分が考え無しに行動してしまった理由を話し始めた。



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