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ある騎士の2度目の恋  作者: ダイフク
15/28

15.主の面影



アイーダが馬の嘶きを聞いたのは、山に茸を取りに来た時だった。相変わらず霧の多いこの山は、今日も霧に覆われている。だから、今日も深く入り込まずに帰るつもりだった。


「ガルロフ、聞こえた?」

「馬の声ですか?」

「そう。霧で誰か足を滑らせたかもしれない。」

「この霧では、里人も山には入らないのでは?」


あれ以来、すっかり辺境伯領民のように暮らしているガルロフは、アイーダの世話係となっている。


「余所者が入って来たのかも。」

「それならありえますね。どうしますか?」

「怪我をしているだろうから、助けないと。ガルロフは道が分かっていないから、どうするかな?」

「でもお一人では駄目です。」

「仕方がないなぁ。ジェス、私にきっちりついて来るんだよ。ガルロフは、ジェスの走りを邪魔しないように。良いね?」


こういう時、ガルロフは、この馬以下なんだな…と、少し悲しい気分になる。仕方がないので、手網を緩く持ち、ただ馬の走るままに、振り落とされないように乗っているだけ。


霧が有ろうとアイーダには、山の全貌が頭に入っているのだろう。悩むでもなく馬を走らせている。


悩みもせず軽く岩場を超え、崖下の方に降りて行く。


「居た。」


アイーダに言われ、近づくと、男性が一人倒れていた。狭い崖だ。この霧では崖であることに気づかなかったのだろう。

主人を気にかけるのか馬の嘶きが頭上からする。


「大丈夫。骨折はあるようだが、生きている。斜面を上手く使って滑り落ち、衝撃を和らげたのだろう。その代わり擦り傷が酷いな。」


そう言われ近づいたガルロフは、衝撃で言葉を失った。


なぜアーロン王子がここに?護衛もなくとは、どういう……。


「知り合いか?」


感がいい、とガルロフは思った。表情も見えない霧の中で、息遣いだけで気がつくとは。


「そうだ。助けて欲しい。」

「屋敷に連れて行け。そうだ。私の馬も頼む。私は、崖の上の彼の馬を連れて戻る。」

「待てよ。そこまではどうするんだ?」

「崖を登る。得意なんだ。任せておけ。」


そういうなり、アイーダは、さっさと崖を登り始めた。


「猿か?」


とにかく、アーロンを屋敷に運んで治療しないと。


「あーそうだ。ルーとチェス。屋敷に先に戻ってて。」


馬二頭が返事をするように鳴く。

ガルロフは、自分の信用の無さにやはり残念な気持ちになった。多分、多分だが、迷わず帰れると思ったのに……。



******



アイーダは言葉に出さなかったが、あの怪我人を見て驚いた。あまりにも記憶にあるローエンにそっくりだったからだ。

レイラが覚えていたローエンに。


少しそれよりも若いだろうか。王妃と結婚する前の、出会った頃のような……。


結婚前、レイラはほのかな想いを抱いていた。

2人の結婚でその気持ちは、いつしか大切な主君を仰ぐ気持ちに変わっていった。


彼の顔を見て、昔のほろ苦い想いを思い出した。


「てっきり忘れたと思ってたのに、自分でも意外だな。死ぬ時に思ったのは、マクスだったのに。」


年が離れすぎたからなのか、今マクス本人を目の前にしているのに、昔のような気持ちは湧いてこない。

今は、ただ懐かしいだけ。


自分の見た目も随分違うからかもしれない。

今の自分は、レイラではなくアイーダだから。

マクスに、レイラの最後の気持ちを、いつかは伝えられたら嬉しいと思うだけだ。



******



目が覚めたアーロンは、全身の痛みに呻いた。


「気が付きましたか?」


問われる声に目を向ければ、


「ガルロフ?ガルロフなのか?」


会いたかった男だった。彼と話がしたかった。彼がいなくて、気持ちが抑えられなくてユラニアに向かってしまったのに。

自分はユラニアに着くこともできず、一体どこにいるのだろうか?


「崖から落ちたのは、覚えてるか?」

「崖?あ、ああそうだ。すぐそこに道があったので、崖とは思わず進んで……。」

「近くにいて良かった。」

「お前がまた助けてくれたのか?」

「手助けしただけだ。助けて、馬もここまで運んでくれたのは、お嬢様だ。」

「お嬢様?」

「ここは、ユラニア王国、辺境伯の屋敷だ。」


様子を伺うつもりが、突然ど真ん中に突っ込んでしまったらしい。コルニエ王国の王族の身で、とんでもない事をしてしまった。

アーロンは、痛み以外の嫌な汗が流れるのを、感じた。



******



なぜ一人でこんな真似をしたのかは分からないが、ガルロフが国を離れた途端、何かが起こったらしい。


─タイミングが悪かったな。いや、これが運命かもしれない。


アーロンが何をするつもりか分からないが、できる限り、手伝ってやりたいと思う。


目を覚ましたアーロンは、まだ混乱状態だが、よく話をしてみよう。もしかしたら、アイーダに助けを願う手助けが出来るかもしれない。


つまらない独占欲だが、ガルロフは、レイラに似た瞳のアイーダに、アーロンを会わせたくはなかったと、胸に込み上げる苦い気持ちを飲み込んだ。


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