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ある騎士の2度目の恋  作者: ダイフク
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14.取り締まりの強化



月も星も出ない暗い夜、執務室には巨大なパネルが空中に浮かんでいる。

ある落ち人によって残された物体把握の不思議なパネル。カインがこれを見つけたのは、偶然だった。


図書室で必要な資料を探していたところ、珍しくつまづいて棚を揺らしてしまったのだ。

その棚の上から落ちてきたのが、このパネルだった。


使い方も使い道も分からないパネルだが、子どもの頃、あらゆる本を読んでいた彼には記憶に引っかかる物があった。


落ち人は、彼の憧れの存在でもある。ハザードもその可能性がないとは言えないと、内心憧れている。

その落ち人の日記が、コールウェル伯爵家に残されていた。

その人の実績は特に残されていないが、僅かな光を媒体にして永年使えるパネルを作ったと書かれていた。

しかし、屋敷の中にはそれらしいものは無く、利用価値が無く、処分されたのかと考えていたのに。


偶然見つけたパネルは、持ち上げて見れば、今目の前に広がる港と完全に地形が重なり、海の上を動く船は、パネルに光の点として表示されていた。


─船の出入りが確認できるのか?もしかして、小舟も?


光の点はまちまちの大きさで、どうやらそれが船の大きさを表すらしい事がわかった。



「凄いわね。船の出入りを管理するようにすれば、違法な船は簡単に調べられそうね。」


パネルを見る隣で、ラリエットがカインに顔を寄せるように覗き込んだ。平静を装ってはいるが、カインの耳が赤くなっていることを見逃したりはしていない。


「そうですね。ただ、これだけのものです。秘匿する必要はあるでしょう。誰にパネルを管理させるかが問題です。この点がどの船かの紐付けは難しいですね。」

「そうね。離れた所と話せれば良いのに。」

「辺境伯とやり取りしているあの水晶ですか?」

「そう。あれがもう少し余分にあればねぇ。」


「研究棟に期待しましょう。サンプルとして、あの水晶を渡してはどうでしょうか?」

「うーん。不便になるけど、それしかないかもね。」


不便になると言うが、カインは知っている。

あれは、ラリエットとアイーダのお喋り道具にしか過ぎないことを。


そして、王宮の奥深くにある転送装置。それもラリエットとアイーダが行き来するだけの便利道具である事も。


「さほど大きな影響は無いと思いますので、よろしくお願いします。」

「何か、今、棘があった気がする。」

「気の所為です。とりあえずは、船主達に港の利用方法の変更と、積み荷の申請。入港出港日の確認。どこの船かの船籍確認と乗組員の人数確認。それらの徹底ですね。」

「今までして来なかった方が可笑しいんだけど、うちの王家はのんびりしているから仕方ないわね。」

「それは、私も思います。だからこそ、この国は暮らしやすいですね。」

「そうね。」


だからこそ、王家の人間は、自国を守る高い意識が必要だ。この国には、他国に無いものが多すぎる。

今回の研究棟は、そのいい意味での隠れ蓑となってくれるだろう。


「明日にも兄上に話をするわ。」

「はい。」

「さぁ、もう遅いわ。ね?」


カインの頬が見る見る赤くなる。


「ひ、姫、女王様……。」

「違うわ。二人の時はなんて呼ぶの?」

「ラ、ラリィ。」

「そうよ。」


ラリエットは、カインの頬に手を添えて、そっと唇に口付ける。そして、躊躇いがちにカインの手が自分の背に回されたのを感じ、口付けを深くした。



******



ユラニアに繋がる山道の公道には柵が立てられ、思った通り通る事はできなかった。

あの国は山も川も平野もあり、海もある。小国ながら、いや、小国だからこそなのだろうが、半年間の交流停止は、あの国にとっては、さほど大きな弊害にはならないのかもしれない。


いや、アーロンも、ガルロフの報告書を見るまでは、あの国を軽視していた。

ラリエット女王についても、妖精のような美女という評判しか知らなかった。だが、美貌だけで、女王は務まらない。それだけではなかったと言う事だ。



仕方がないと、アーロンは、馬を森の中に進めた。

大凡の方向をめざし、注意深く馬を進める。もしかしたら、森の中にも監視が潜んでいるかもしれない。


暫く進むと、森に霧が立ち込めてきた。


「馬で進むのは危険だな。時間はかかるが、歩いて進もう。」


馬を下り、手網を引きながら前を進む。


前方がいよいよ見にくくなってきた。

このまま進むか、霧がおさまるのを待つか。

悩みながら、歩いたそこに地面がなかった。細い亀裂のような崖。


ザザッと、転げ落ちながら、アーロンは、意識を失った。


崖の上には、主を心配する愛馬の鳴き声が遠く聞こえていた。



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