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ある騎士の2度目の恋  作者: ダイフク
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12.隠れ里の人々



山間に隠れ住む、隠れ里の人々は、今は豊かになった辺境伯の領民とは思えない程、慎ましい暮らしをしていた。


山の中で狩猟を中心とした暮らしをしているのは、わかったが、畑は僅かで、水は山の湧き水だけ。

それがマクロスの子どもを崖下で見つけ、里まで運んできたアイーダの見た里の現状だった。



誰にも知られずこの地に隠れ住む彼らの中に、アイーダは何人も見知った顔を見つけて、彼らの素性を理解した。


「私は辺境伯の娘、アイーダだ。この里の責任者と話がしたい。」


責任者としてアイーダの前に姿を現したのが、マクロスだった。


「責任者のマクロスです。まず、息子をお助け頂き、ありがとうございました。」


彼はまだ13歳のアイーダに丁寧に腰を折って感謝を告げた。


─マクロス。確か、マクスの友達にそんな名の者がいたな。彼か?


「マクロスか。この里の事で話がしたい。」

「勝手に住み着き、申し訳ございません。ただ、我らはご覧の通り、税を払える程の収入もありません。出来ればお見逃し頂けませんか?あちこち彷徨い、やっとここに身を落ち着けました。お願い致します。」

「あぁ、誤解しないで欲しい。私はここを出て行けと言っている訳では無い。もう少しまともな暮らしをしないかと持ちかけているだけだ。」

「まともな、とは?」


そこで、アイーダは、辺境伯領の領民になるのと引き換えに土地の開墾を勧めた。


「最初の道具、生活必需品は辺境伯が貸与する。開墾面積の上限はあるが、幸いここには十分な人数がいるので、かなりの広さの土地の開墾が認められるだろう。」

「開墾した土地はどうなるのですか?」

「領民としての税金は払ってもらうが、土地は開墾したものの権利となる。」

「い、いいの、ですか?」

「良いも、悪いもない。それがこの領の決まりだ。」

「決まり……。」


アイーダは、周りを取り囲む里人に目を向ける。


「どうする?人目につかず、ここに住みたいなら、それは構わない。しかし、この先産まれてくる子どもにもこの暮らしをさせるのか?それとも、明るい未来を見せるのか?今、決めろ!」


マクロスは、体が震えた。昔、里を率いていたあの人に、感じたものと似た、その魂が惹かれるような気持ち。幼い少女のものとは思えない威圧感。


彼女に従いたいと心が叫んでいた。


里のものは誰からともなく膝を折って、彼女の前に平伏した。


「全て、あなたの言われる通りに致します。よろしくお願いします。」


アイーダは、輝くような笑顔を向けた。もう二度とこの人達を苦しめない。今度こそ守ってみせると心に誓った。


開墾地は登ってきた山の麓とした。既存の町は、少し離れているが、この土地は、井戸を掘れば水が出るはずと、かつての辺境伯のマニュアルにも記載のある土地だった。そして、ここならば、生活が安定するまで、狩猟もしやすい。


そして、2年。

一族総出で死に物狂いで、朝から晩まで開墾した。それは決して楽な事ではなかった。苦労もあったが、彼らは未来だけを見つめ続けた。


里は、今では、立派な町となり、町の周りには、主に小麦を栽培する豊かな畑が広がっている。


更に今年からは、ハザードに協力する為の大規模な試験場も作られ、その栽培と警護に当たることにもなっている。



******



「と、言うわけでな、俺達はお嬢様のおかげで元気に暮らしているんだ。マクス、お前も一緒に暮らさないか?」

「……少し、考えさせてくれ。」


里の者が幸せになっていた事は、本当に嬉しい。だが、自分がその暮らしをしても良いのかと考えると、躊躇いはある。

情報ギルドのマスターとして、この国の情報をコルニエ王国に売ってきた。

この里の事が情報に上がらなかったのは、里の者が何らかの対処をしたからだろう。それを思うと、正直に全て話す事もできない。


「すぐに決めなくていい。暫くこの国をゆっくり見てから決めてくれ。」

「わかった。」


「ところで、マクスはお嬢様とどこで知り合ったんだ?」

「熊と戦って、怪我をした俺を助けてくれた。」

「熊を1人でか?」

「ああ。」

「さすがだな。あぁ、でもお嬢様にはかなわないかもな。」

「護衛の騎士が、熊殺しとお嬢様の事を呼んでいたが、もしかして、本当なのか?」

「そう、あのお嬢様は、物凄く強いんだ。そう見えない所がまた良い。」

「す、好きなのか?」

「はぁ?年も身分も違うだろうが。俺には愛する家族がいるよ。でも尊敬している。一生ついて行きたいと思っている。俺の生涯の主だ。」


ガルロフは、過去の全てを告白して、彼女に仕えたいと思う自分に驚いた。

彼女に仕えていれば、レイラに抱いている、このどうしようもない恋情を過去のものに変えれるような気がした。


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