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6話「戦う意味」

 

「ふぅ~散々な目に遭ったぜ……」


 玲夜は死んだ魚の様な虚ろな目をしながら、溜め息を着きながらも、ヴァルヴァラをバイクの後ろに乗せて帰路に着いていた。作戦会議中に起こった、あのTEAM5の一件が片付いた後、玲夜達はバイクに跨り自分の戻るべき場所へと、彼は戻っていた。

 TEAM5の一件で、あの作戦会議に使われた場所は突如として一時的に閉鎖されてしまい、あの場は現場検証の為、玲夜達私設組織の面々は入れなくなってしまった為、玲夜とヴァルヴァラは足早に現場を去っていた。詳しい事は何も聞かされなかった。恐らく近頃になれば、TEAM5のメンバー達も行動を開始する可能性が大いに有り得たので、動きがない今は何も模索しない方が良いらしい。

 動きがあるまで、私設組織の面々は民間の依頼や不特定多数発生するリジェネレイトの排除に徹底していれば良いと言う事らしい。言ってまえば、結局私設組織の面々はまた、死戦に駆り出される事になると言う事であった。

 しかし玲夜達私設組織の面々は戦いを生業として生きる者達である為、戦いを行う事を否定してしまえば、私設組織存在意義その物を否定する事になってしまうので、玲夜は口頭では何も言う事は出来なかった。


「これからはまたデカい戦争が起こるかもしれないな。今回の変革を齎す事を目的とするTEAM5、更には不特定多数発生するリジェネレイト。どっちも相手してたら、第二区の私設組織のメンツじゃ処理出来ないな…」


 ヴァルヴァラは今の戦力差に対して、皮肉を込めた様な話し方で玲夜に話した。彼女の言う通り、としか言い様がなかった。

 この第二区に所属している私設殲滅武装組織の人の数は多いかと聞かれれば、素直に首を縦に振るのは難しいと捉えられる事であった。

 まず、現在この第二区には外部からの敵やリジェネレイトの侵入を阻止する為に全天を組まなく防御する事が可能な防御装置である「全周囲隔壁式防御壁‐天の御柱(アメノミハシラ)」の発生装置が設置されている。この発生装置は実態のない言わば、バリアやビームシールドの様な物を第二区を包み込む様にして、全域に発生させる事が出来る為、多くの民間人達はそもそも私設組織等廃止するべきだと言う者も存在する。

 そのせいで、最近は私設組織を結成しようとする者は少なく、世論は、何れ私設組織は衰退していくのではないか、と思っていた。身勝手だと玲夜は強く感じていた。歯噛みしながらも怒りの表情が僅かに滲み出た。

 しかし考えてもみろ、と玲夜は心の中で呟く。もし「全周囲隔壁式防御壁‐天の御柱(アメノミハシラ)」が破壊されて、リジェネレイト達の侵入を許してしまい、いざリジェネレイト共に対して対抗手段を少なからずとも持っている私設組織の面々の数が少なくては、全員仲良く永遠におやすみしてしまう事になってしまう。そうなってしまえば、何もかもが終わりだ。第二区に残存している兵の数や兵器だって有限だ。

 リジェネレイトは現在もその恐れを知らぬ勢いで、勢力を衰えさせる事なく、今も尚世界各地で発生している。恐らく近い未来にはあの時の様な、リジェネレイトの大量発生は容易に予想が出来た。その時に私設組織の様に戦う者がいなくては、この第二区はどうなるのだろうか、血に染まり肉塊が散乱し、女はリジェネレイト共の苗床にされる。

 BADENDの一言が似合う惨状であった。玲夜は思わず、その惨状は想像してしまう。想像しただけで、玲夜は思わず吐き気に催されそうになった。今の僅かながらも守り続けられている日常は全てが崩壊し、大切な仲間である椿、S、ヴァルヴァラは憎悪の対象であるリジェネレイト共に凌辱される結果となり、自らは骸となって地面に転がっている。

 世間は身勝手で無知なモノだと感じた。自分達は守られているから大丈夫、今まで何も起こらなかったから、何も知らないからそうやって軽く口を叩いてそう言う事が言える。

 自分は何を守る為に戦っているのだろうか、玲夜は自問自答する。しかしこの質問を自分にしてしまえば、自分が第二区に仕えて戦う理由が分からなくなりそうな予感がした。

 仮にも我々私設組織は第二区を防衛する為に死力を尽くして終わりない戦いの中で無慈悲にも戦っている。それなのに、第二区を守る為に戦う事に疑問を持ってしまえば、一体自分は何の為に、何の大義があって戦っている事になってしまうのか。玲夜には分からなかった。自分は別に戦闘狂で殺したいが為に、戦いで性的興奮を得る為に戦っている訳でもない。玲夜の脳内は掻き乱される様であった。保留にすべきか、そう玲夜は考えた。今はじっくりと考えるべきではない。そう考えた玲夜は一時的に思考を放棄する。これ以上の深い思考の回転は自分の頭を痛くしてしまう様な気がしてきた。


「ヴァルヴァラ、着いたよ」


 気が付けば、ヴァルヴァラが根城の前に彼のバイクは着いていた。バイクを運転している時は無意識にも安全運転を心がけながら、事故なく運転出来ていた様であった。

 そして根城の前に辿り着くと、玲夜はバイクを一時停止させ、ヴァルヴァラをバイクから降ろした。ヴァルヴァラは、バイクから降りて、頭部に着用していたヘルメットを脱ぐと、去り際にいつもよりも暗い表情を浮かべ、俯く様にして下を見ている玲夜の肩に右手を置きながら声をかけた。


「まぁそう落ち込むな。苦しい時は頼ってくれても良いんだぞ?」


「ヴァルヴァラ……すまない。こんなリーダーで…」


「そう言うなよ、お前はよくやってるさ…」


 いつも姉御肌で、ガサツな面が目立つヴァルヴァラではあったが、今左肩を優しく擦るヴァルヴァラの右手は、今疑問に満ちて、疲労を募らせている玲夜にとってはとても落ち着く様な感覚になっていた。玲夜は精神的には脆かったのかもしれない。そしてヴァルヴァラの心の優しさにも、玲夜は感服するしかなかった。

 今まで何度も死戦をくぐってきたとは言っても、それが自分を強くしている理由にはならない予感がしていた。他人に甘えなければ心の安定を得られない。未だに心の傷は癒えず、常に自分の心を苦しめ続けている。玲夜はまだ螺旋を抜け出せていなかった。


「薬が出来たら届けてやるよ、じゃあな」


 そう言うと、ヴァルヴァラは玲夜に背を向けながら手を振ると、そのまま事務所の扉を開けてその中へと戻っていってしまった。玲夜は彼女の事を見送った事を確認すると、玲夜は一時的に停止させていたバイクを再び起動させ、その場を素早く去っていった……。


 ◇◇


 ヴァルヴァラを見送った玲夜はそのまま帰路に着き、家に帰ろうとしていた。これ以上やる事はなくなったし、他に寄る場所もなかった為、何処にも行く予定はなかったのだが、玲夜はその行動に反していた。

 まだ憂鬱と戦う理由に対して疑問が消えない中、玲夜は無意識のままに帰路とは別の道を進んでいた。進む先は第二区の果て、つまり端と言う事になる。玲夜の家は第二区の中心より少し外、場所的に言うと南の位置に建てられている為、第二区域内の端に行くにはそう時間はかからなかった。

 玲夜は無心にも端に行きたくなっていた。意味は分からない、別に何かが知りたくてとか、疑問を解決する為にとか、区域外に出たいが為に端へと行こうとした訳ではなかった。理由なんて分からないに等しかった。

 だが逆に理由が必要だとも思わなかった。ただ端に赴き、何がそこで自分を待っているのか、玲夜は別に特別な理由を持ってその場に赴こうとした訳ではなかった。


「………外は外区だってのに……」


「外区」第二区、第一区、第三区以外に残された整備が施されておらず、防衛システムや防壁等がなく、汚れて荒んでいる区域全般の事を多くの人はそう呼称していた。

 まず「外区」とは、五年前の「第一次国家防衛戦争」時にリジェネレイトは世界の国土の約八割を破壊し、多くの人間の命を奪った。中には国そのものが壊滅し、国そのものが消えてしまった事もあった。


 勿論リジェネレイト達の影響はこの元は日本と呼ばれていた地域にも多大な影響を及ぼした。そして、結果的にリジェネレイト共の一時撤退により、戦争は一時的に終結したものの、多くの国土は失われた。その際この国は残された美しい土地を「第一区」

「第二区」「第三区」と呼び、生き残ったこの国の人間は地区の幹部達の手によって、防衛システムやこの第二区にも設置されている全周囲隔壁式防御壁‐天の御柱(アメノミハシラ)が設置された地区に移住させられた。

 しかしその移住はさせられたと言っても、簡単な事ではなかった。無論私設組織である玲夜達は、第二区の事を守る、と言う事を条件に無条件でこの第二区の中に住んでいるが、実際住むとなると必要になってくる資金の量だって多くなる。国は高い金を払って防衛システム等を開発している為、経済を回す為にも移住の為の金は必然的に高くなってしまっていた。

 リジェネレイトの襲撃により家を失い、家族を失った者だって多く存在している。経済的に難がある者だって多くいた。金が払えなければ移住は出来ず、安全な第二区に移り住む事は出来ず、その結果外区へと取り残される運命を辿る。移住が出来なかった者達は五年前から未だにこの地区の外で細々とスラム街で暮らすかの様な暮らしをしている。日々自分達を守ってくれている全周囲隔壁式防御壁‐天の御柱(アメノミハシラ)の様な防御装置も無く、リジェネレイトの発生も容易に想像出来ると言うのに、その中でも移住出来なかった者は今も外区にそれぞれの住処を建てて暮らしているらしい。詳しい事は自分達には分からないが、東雲冴霧が外区の人達どうにかすると最近テレビのニュースで見た気がした。良い方向に傾く事を期待するしかなかった。この外で暮らす人々だって一人の人間だ。ただ死ぬ為に生まれてきた訳ではないだろう。


 更にはリジェネレイトは多種が融合したウイルスを持つ生命体でもある為、攻撃されれば奴らが持つ固有のウイルスに感染されられてしまう可能性もあったのだ。

 言いたくはないが、リジェネレイトの持つウイルスは危険極まりない代物であり、感染してしまった時の効果は恐ろしいの一言に尽きる。そしてリジェネレイトに攻撃され、ウイルスにより汚染されればその者の末路はおぞましい結果となる。

 無論死に至るのは当然で、腕や足などの感染した部位を初めに、徐々に体全体の肉体を侵食するかの様にして蝕んでいくと言う楽に死なせてくれないと言うものだ。更には感染力も強く、周囲の人間に一人、また一人と感染させてしまう可能性もある為感染してしまえば最後、感染した者は迫害の対象となり、何れは誰かによって命を奪われるのが、容易に予想出来る結末だろう。更にはタチが悪い事にこのリジェネレイトのウイルスは治療方法は未だに確立されておらず、一度感染してしまえば最後、死ぬのがオチだと言う事だ。

 他にも、他人に感染させると言ったが、実際の所感染経路はハッキリとしておらず、飛沫感染なのか空気感染なのか経口感染等、不明な所が全体的に多い感じで解明されている点はまだ少ないと言う印象であった。

 しかし自分が何かリジェネレイトが持つウイルスについて解明出来る訳ではなかった為何も口出し出来る訳はなかった。


 玲夜は第二区の端へと立った。虚空には雲が流れ、太陽の光は鈍いながらも空から降り注いでいる。少し先には、第二区の舗装されていた綺麗な道を、意図も簡単に覆すかの様な程に荒んでしまい、ボロボロに朽ち果ててしまい、突然とプツンと途切れてしまった道。

 その先にはまるで行く事は禁じられているかの様にして、乱雑にスクラップや廃材等で作られた古びたバリケードの様な物が作られていた。別にこんな物を作らなくとも、この地区は、全周囲隔壁式防御壁‐天の御柱(アメノミハシラ)によって地区そのものは完璧に全周囲が防御されているので、発生装置が破壊されない限りは侵入される事はまずないのだが、どうも外区に住む人達を嫌う人間は少なからず存在している様で、外区に繋がろうとしている荒んだ道にはバリケードはまるで外区の人間が地区内に入る事を絶対的に拒む様に作られていた。


 途切れてしまった道と外区の間にはまるで城の堀の様にして、汚染された海の水が広がっていた。今のご時世、海で泳ぐ事は御法度とされていた。

 現在の海には既に多くのリジェネレイトの腐敗した骸が散乱しており、中には陸ではなく、水中を住処としているリジェネレイトも存在する。その為海なんかに入ってしまえば体が完全に融合ウイルスによって汚染されてしまう可能性が大いに有り得た。残念だが海水浴なんて出来ない。綺麗な水は外区には存在していないのだ。


(…こんな偽りの平和が広がる世界を、僕は守っているのか……?)


 地区内に入る事が出来ず、外区で暮らしている人間は多く存在している。彼らだって、リジェネレイトの脅威に晒されず、平穏で平和な暮らしが出来る事を望んでいるだろう。弱き者を自らが持つ大きな力で守るのは玲夜達、私設組織の行動原理の一つでもある。それなのに、第二区を問わずとも第一区や第三区の偽りの平和の中で生きている人間は、外区に住む者は既に汚染されている、密かに地区を滅ぼす為の野望を企てている、などと根拠もなく非情で身勝手な事を言っている事を玲夜は何度も耳にした。

 何の為に戦うのか、本当に意味が分からなくなりそうになる。何の大義があって、何の意味があって自らは戦いに身を投じているのだろうか。


「……行くか…」


 これ以上この場に立ち続ける意味が分からなくなってしまった玲夜は虚無の様で、虚空の下に立ち尽くすのをやめると同時に玲夜は近くに一時停止させていたバイクに再び跨ると、ヘルメットを被ってその場を去る事にした。今ここで一人で延々と考え続けても、答えは導き出せないと感じ、今は見捨てると言う選択をする事にした。


 ◇◇


 第二区地下内部特殊基地


「さてと、Assassinも二区の皆さんに宣戦布告しちゃったし、これからは全面戦争になるかもしれないね」


「それを言うなら、Saberだって同じじゃねぇかよ。アイツも同じ様な事言ってたしさ?」


「私達五人に対して、相手は何百、いや何千もいるのに…Assassin、少し急ぎ過ぎじゃないかしら?」


「おい「Archer」言っておくが早とちりで俺は宣戦布告した訳ではないからな?他の地区からの増援が来る可能性やこれ以上情報が広まらない様にする事も踏まえてだ、決して急いだ訳ではない」


 密かに作戦を練ると言うのも大切な事であった。現在位置は第二区の地下深く辺りに存在している秘密基地の様な場所だ。近頃私設組織との交戦も踏まえて、彼らTEAM5そのリーダー格である「Assassin」を筆頭にその他のメンバーは戦いの支度を始めていた。


「ねぇAssassin、勝利の保証はあるの?言っとくけど私はまだ死にたくないからね?まだ私20なんだから」


「分かってるよ「Witch」お前とArcherは死なせたくないからな。死なせない為にも少なからずだが勝算はある。落ち着いていけば負ける事はないだろう」


「おいおい、それって僕と「Lancer」は野垂れ死んどけって事かいな?」


「違うよ、Saber。解釈の仕方は人それぞれだが、今のは決定的に違うと思う…多分だけど…」


「まぁ、今は何も言わんといたる。とにかく、襲撃はいつかけるんや?天の御柱の破壊もせなあかんのやし、近い内に実行に移しといた方が得策ちゃうんか?」


 Saberの言葉にAssassinは首を縦に振った。そしてこの場に集まる五人の者達にAssassinは告げる。その言葉に、全員は耳を傾ける。


「襲撃は二日後だ、天の御柱の発生装置を破壊した後、内部から破壊を行う。大まかな作戦はこれだけだ」


「その間にリジェネレイト共が侵入したらどうすんだよ、リーダーさん?」


 Lancerの疑問の投げかけに、Assassinは再び答える。Assassinはニヤリと笑いを見せる。その答えはその場にいる全員に悪い笑いを見せる事となる。そしてAssassinは一言呟いた。


「んなモン知らねぇよ。偽りの平和の中で生きる奴らに、本当の世界を思い知らせるまでよ……」


 襲撃まで後二日。



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