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4話「旧友」

 

「取り敢えず、今日は何か重要な話があるらしい。話は俺とヴァルヴァラで聞いてくるから、お前らは学校に行っとけ。もし何かあったり、出撃命令が出たら連絡する」


「あぁ分かったよ、玲夜。でも地区の本部からの招集なんて…何があったんだろうかな?」


「何か…大変な、事あった?分からないけど…」


 椿とSは現在起こっている事に頭を悩ませながら、疑問の表情を見せる。玲夜は表向きこそ冷静な表情を保っていたものの、実際心の中では疑問の念が渦巻いていた。玲夜は昨日突然自分に入った緊急の招集命令に対して、大きな疑問を覚えていた。

 大抵この地区は事前に何かしらの通告をしてから集会や招集を行うのがこの地区のやり方だ。この地区に住んで、私設組織としての活動してもうそこそこの時間が経過している為、地区の大まかなやり方ぐらいは私設組織の上位に君臨する玲夜は把握していた。

 しかし今回の場合はその地区のやり方に反しない行為だった。ヴァルヴァラからの連絡によると招集の連絡が入ったのは昨日の夜だったと言うのだ。普通なら三日か四日前ぐらいには通達が行くはずなのだが、このいつもと違うやり方に玲夜は強い違和感を覚える。

 まさかとは思うが、あの時の様な事が再び起ころうとしているのか、と玲夜は怒りと焦りと悲しみが混ざる様な形で心の中で呟き、軽くではあるが歯噛みする。


「玲夜、私とSはもう準備出来てるから、早く送ってくれ」


「もう、行ける……」


 玲夜も手持ちのバックに荷物や武器等を詰める等して自分の準備を進めていたが、椿とSの声を聞き玲夜は椿とSの方向を向く。


「もう制服は着たみたいだな」


 玲夜の前には規定の制服を身に付けた椿とSの姿があった。椿は動きにくいと言う理由でスカートに足を通す事を嫌っている為、ズボンであるが。Sは普通にスカートに足を通していた。両者共に制服の姿も素晴らしいの一言であった。私服も良い物であるが、制服姿も尚良と言った所であろう。


 言わせてもらうと、椿とSは表向きは普通の高校生として学校に通う学生の身であった。裏では玲夜達と共に私設組織の傭兵として活動している身ではあるが、表向きはただの高校生であったのだ。第二区の中にある教育を受ける為の施設や学校は、国土の大量消滅や人口の大量減少によりあまりその数が増える事はなかったが、この第二区は出来る限り教育には力を注いでいる地区でもあるので、多くの子供達は昔と変わらず教育を受ける権利がある。

 しかし椿とSは裏向きでは私設組織の傭兵として戦う身である為、リジェネレイトとの戦いを知らず、日々偽りの平和の中で生きている大衆にはこの事実を知らせていなかった。

 私設組織は確かに戦う術を持たない弱き人間達をリジェネレイトから日々守り、死力を尽くして戦い続けているが、守られているにも関わらず一部の人間は私設組織の廃止を求めていた。理由は完璧に把握している訳ではないがどうも何か気に食わない様な理由があるらしい。その為椿やSが私設組織の傭兵であると知れれば周囲の人間からの迫害を受ける可能性も否定出来なかった。その為椿とSは普通の学生と言う身分を偽装して学校に通っていた。因みにではあるが保護者はヴァルヴァラと言う事になっており、玲夜は同居人に近い様な立ち位置にある。その為、学校の面々には傭兵である事は知られてはいなかった。

 迫害される理由も気になる所ではあったのだが、玲夜達は数多く在籍する傭兵のほんの一角に過ぎない存在である為、気にし過ぎるのも毒だと感じていた。深入りは毒、目の前の事にのみ尽力する方が重要かもしれないと玲夜は感じ、今は気にしない事にした。

 最近は嫌な事ばかり考えてしまい、頭が痛くなりそうだった。表情にもその形は現れ、ただでさえ元から暗い玲夜の表情は更に雲行きが怪しくなっていたのだった。


「玲夜?どうした、顔が暗いぞ?」


 椿は観察眼を鋭い人物だった。基本的に暇になれば、いつも他人を深く観察している事が多い人物である為、他人の表情を読むのも苦手な事ではなかった。しかも今回の相手はそれなりの時間を共に過ごした人物である玲夜だった。表情が読めない訳がなかった。

 彼女は暗めの表情を浮かべている玲夜に慰めが混じる様な形で声をかける。


「いや、これ元からだよ」


「そ、そうかな?」


「元からだっての。代々引き継がれる暗い顔さ(嘘)」


 玲夜は内心を悟られない様にする為に適当に笑えなさそうな嘘を呟いて、その場を誤魔化した。椿は若干不自然気で多少不審な表情を見せながらも仕方なく彼の答えを飲む事にした。


「早く……行こう。遅刻…しちゃう」


 Sはそう棒読みに近い声で呟くと玲夜はすぐさま玄関へと素早く赴く。どうやらそろそろ学校に行く時間らしいので玲夜はポケットから鍵を取り出し、三人は部屋の外に出る。


「バイク出してくるから、下で待っててくれ」


「りょ~」


「うん、分かった」


 因みにではあるが、玲夜は現在十九歳ではあるものの過去にバイクを運転していた時期があるので、バイクの運転はかなり得意であった。それに免許も持っているので問題は何もない。

 使用しているのは過去の時にカスタムを加えた中型バイク、それもサイドカー付き仕様の物だ。バイクに三人乗りは出来ないので、椿とSを乗せる為にもサイドカーも取り付けてある。玲夜は二人よりも先走って、下の共用のガレージに保管されているバイクの元へと急いだ。


 ◇◇


「よし、掴まってろよ」


 頭に頭部を保護する為のヘルメットを被った玲夜はそう二人に話した。いつもの事ではあるが安全第一で運転しているので、スピードは少し落として走行している。

 椿もSもヘルメットは被っているので何かしらの襲撃に遭ったとしても多少は防御は期待出来る。と言うか普通に考えて乗ってるのなら装着しなければ駄目だろ、普通。


「いつもなら、そろそろ着くぞ」


「うん、いつもありがとうな!」


「風……気持ちぃ…」


 毎度毎度変わらない景色、地区外とは異なって舗装された綺麗で整えられた道、玲夜はその道の上をバイクに乗って駆ける。風が体を斬る様な形で吹く。その中で玲夜達は道を駆けていった。


 ◇◇


「じゃ、行ってくるね。また時間になったら連絡するし」


「頑張って……くる。それじゃ…」


「あぁ、行ってらっしゃい」


 無事、学校まで辿り着いた玲夜は跨っていたバイクから一度降り、頭部に被っていたヘルメットを脱ぎ、片手で抱き抱えると、正面の門を通り抜けてヘルメットを脱いで、学校の中へと進んで行く椿とSの事を見送った。

 門を潜るなり、椿とSは自分は名前は知らないが友達と呼べる様な人達と仲睦まじけに話しながら、校舎の中へと向かっていった。女性生徒数名と仲良く話す椿とS、自分はこんな風に同年代の誰かと仲良く話す機会なんてなかったので、大切な人間である椿とSがあの様に仲良く話している姿を見ているだけでも玲夜は幸せであった。

 そして、最後に後ろを振り返り軽く自分に対して手を振ってくれた椿に自分も手を振り返すと、玲夜はその場から離れようとした。いつもの事ではあるが、何故かは分からないが、玲夜はこの学校の男子生徒に対して反感を買っている様であったので既にこの場に立っているだけで周囲の一部男子生徒や一部女子生徒から睨まれている様な気がしてきたので、足早にヘルメットを被り、バイクに跨るとその場を素早く去っていったのだった。


 ◇◇


「おーい、ヴァルヴァラ!僕だよ玲夜だ、開けてくれ!」


「私設武装殲滅組織TEAM13」それが玲夜達私設組織の名前であった。別にTEAM13に特別な意味は無い。13と言う数字に何か特別な思い入れがある訳でもないし、偶然的と言うか因縁と言うかその程度のものでしかない存在である為あんま数の事については気にしない事にしている。

 そして今彼が立っているのは、「私設武装殲滅組織TEAM13」の事務所の前だ。しかし豪勢と事務所とは謳っているものの、実際は雑居ビルの中で一階にある一つの少し広めの部屋を借りて使っているだけに過ぎないが。

 一応玲夜達は私設組織に所属していると言う事もあり、国からある程度の資金援助もされているし、あまり苦悩は感じていないのだが如何せん仕事が舞い込む事があまり多いかと聞かれればあまりそうとは言えてこない。実績を積んでいけばそれなりに仕事は貰えるはずなのだが、最近は月に数回程度しか回ってこなくなってしまった。

 私設組織も現在はそれなりに数がある。その中でも玲夜達が所属している五人組のチームである「TEAM13」私設組織の中でも、トップとまではいかないものの、上位にくい込んでいるチームである。そろそろデカい仕事とか舞い込んできても良いのだが、現実はそう優しくはなく、風当たりは無慈悲にも強いものであった。

 そして玲夜はバイクを使用して、事務所の前に辿り着くと同時にバイクから降りると、一階にある事務所の扉をノックする。しかしノックをしても何も反応がなかった。本来なら誰かが出てくれるはずであった。

 時間帯的に考えると、出てくるのはここを根城にしている女性であり「TEAM13」の総指揮、更には電話対応、他にも技術者であり医者でもありその他諸々の事等も担当する「ヴァルヴァラ・ロキュートス」が出て来てくれるはずなのだが、何故か彼女は扉をノックしても扉から出てくる事はなかった。

 本来なら今すぐにでも出て来て、ヘルメットを被ってバイクに跨って緊急招集先に向かいたい所であった。時間だって刻一刻と過ぎている。時は金なりと言う言葉が最も似合う様な気がした。


「ヴァルヴァラ!出てこないなら、こっちから入るぞ?」


「うっさいわね、言われなくとも今開けるわよ!」


 扉の奥から聞き慣れた声が聞こえてきた。どうやら酒を飲み過ぎて酔い潰れていると言う訳ではなさそうであった。

 そして声が聞こえて十も数えない内に先程までは開く気配のなかった扉が開く。中からはかつての旧友であり、現在も自分の仲間の一人である「ヴァルヴァラ・ロキュートス」の姿があったのだった。


「どうも、また飲んでたのか?」


「缶数本だけよ。何にも問題ないわよ」


 目の前に立つ整えられた赤色の髪、自分よりも長身の身の丈、椿やSにも劣らない美貌。美しいかと聞かれれば美しいと玲夜は答えるであろう。しかし欠点と言う存在もある。

 個人的には寝起きで出てきたとしか思えないのだが既に彼女の服や髪も整えられていた。てっきり寝起きでバタバタしながら出てきたのかと思っていたのだが、そんな事はなかった様であった。


「で、昨日はどうしてたの?」


「Sとヤッてた」


「あ、もしかして……まだ溜まってるの?」


「今晩ヤれば良い話だろうが……」


 出来る限り短く、そして手早く話を済ませて招集場所に向かいたかったのだが、ヴァルヴァラは玲夜の目を逸らしながら話すやり方に対して、何か嫌な案を思い付いてしまったらしい。目を逸らしながら話す玲夜を見て、ヴァルヴァラは彼の耳元に口を近付けた。

 ぶっちゃけて言ってしまえば、慣れている様に感じられる行動であった。しかしまだ若いのかそれとも自分にはまだ完全に耐性がなかったのか、玲夜は一瞬だけビクッと体を震わせ、耳を赤くしてしまい、熱を発した。そしてヴァルヴァラは玲夜の耳元で小声で呟いた。


「溜まってんなら、しゃぶってやろうか?」


「な!……何故そうなる!?」


「はいはい、細かい事は気にしない。どうせ間に合わない時間じゃないんだ。少し入れよ」


「え、待てよ!」


 僅かに怒りの声が混じりながら話す玲夜ではあったが、最後まで言い切る前にヴァルヴァラによって右腕を掴まれてしまった玲夜は半場強引な形で事務所の中に引き込まれてしまった。残念な事にヴァルヴァラも中々の握力の持ち主である故に玲夜は抵抗虚しく事務所の中に引き込まれてしまった。


 ◇◇


 少し時間が流れた後……。


「ったく、やれやれだぜ」


「んだよ、冷たい顔しやがって!割と嬉しそうな顔してたじゃねぇかよ、ハハハ!」


 ヴァルヴァラは何故かやけに玲夜と少し気持ち良い事をして、何故に嬉しそうな表情であった。やれやれ、と情けない表情になりながらも首を横に数回振る玲夜とは打って変わっていた。

 玲夜は一度溜め息を着くとさっさと招集移動したい気分になってきたので、事務所の前に置いていたバイクの元に駆け寄ると、ヘルメットを右脇腹に抱え、ヴァルヴァラにも投げ付ける様にしてヘルメットを投げ渡したのだった。


「おいおい、そう怒んなよ?今度ぶち込ませてやるからさ?」


「椿かSの方が良い。ヴァルヴァラとはもう何回も交えただろ?」


「んっ~だよ!冷てぇじゃねぇか!」


 そう言うとヴァルヴァラは玲夜の傍に近寄ると、彼を可愛がる様にして、自らの腕を彼の肩に回した。そして可愛い生き物を撫でるかの様にして頬っぺたを軽く抓ったのだった。馬鹿にされている様な気がした。

 まるでいつまでも子供扱いされている様な気がする。一応今年で十九歳になる玲夜にとって、これは多少ではあるが屈辱的にも感じられる事であった。

 そして体にはヴァルヴァラの豊満な胸の感触が惜しみなく押し付けられている。押し退けたい気持ちも多少こそあったが、玲夜は押し退けるのではなく、彼女に言葉を返すのみにした。


「この、ドスケベボディめ」

 

「後輩が生意気言うんじゃねぇ!さっさと目的地に向かうぞ!」


「へいへい、逢瀬の通りに」

 

 そうやる気のない声で玲夜は言う。それと同時にヘルメットを被ると、二人はバイクに跨った。そして玲夜はバイクのエンジンをかけると、目的地へと向けてバイクを走らせた。


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