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3話「僅かな時が護られた日常」

 

 玲夜は自分の身の丈よりも上の位置から注がれる少しだけ熱く、体を全体的に温めていく湯を浴びていた。服は全て脱ぎ捨てており、身に付けている物は何も無い。

 絶え間なく自分の身には温かい湯水が全体を保養するかの様にして当たり、一日の疲れを癒すかの様にしてシャワーの湯水は自分の体を癒してくれていた。


「ふぅ……」


 現在玲夜は一人でアパートの部屋の一角であり、少しだけ使い古されたシャワールームにてシャワーを浴びていた。前までは故障して壊れていてしまっていたので、まともに動かなかったが最近修理したのでいつでも使える様になったのだった。最近は肌寒くなり始めたので、一々銭湯まで赴くのは面倒臭いし、労力の無駄だと感じたので、多少の出資はあったが今はいつでも自分達の部屋でシャワーではあるが浴びれる様になっていた。湯船には浸かれないが湯水を全身に浴びれるだけまだ良心的だと感じた。逆に浴びれないと考えるのは嫌な感じになりそうであった。

 そして心地良い湯水に全身を磨かれた事で、本来ならもう少し明るい表情になれると玲夜は思っていた。しかし彼の表情はどこか暗く陰湿で悲壮感漂う様な表情であり、お世辞にも気さくで明るい表情、とは言えなかったのだった。

 シャワーの湯水を出しっぱなしにしながら、湯水を絶え間なく全身に浴びる中、彼は壁に両手を付き、落ち込む様にして首を下に傾げながら、立ち尽くす様にして項垂れる。その心の中には葛藤と大きな悩みの種が植え付けられていた。


(いつまでこの平和な日常が続くのかな…?いずれあの時の様に奪われるかもしれないってのに…)


 この平和でありふれた日常がいつまで続くかは玲夜にも分かる事ではなかった。先程の様にして、椿と甘い口付けを交わし、椿やSと共にご飯を食べ楽しく話す事が出来る平和でごくごく普通の日々がいつの日まで送れるかどうかは分からなかった。

 もしかしたらかもしれないが、明日になれば世界は再び奪われる事となり、また多くの人間の命が慈悲もなく奪われる可能性だって有り得る。勿論、その失われる命の中には自分だけではなく椿やSも含まれるかもしれない。

 更に彼には二人だけではない仲間も存在している。大切な友人や親友だっていつの日に命を落としてしまうかどうかは分からない。今この瞬間にも命が脅かされているのではないか、と不安になる程だ。もう大切な人を失いたくない気持ちで玲夜の心は精一杯であった。日々傷付けられてゆく自らの心は迷走を始める。


「あぁ…クソ!考えれば考える程頭が痛くなるぜ…」


 立ち尽くし項垂れたまま玲夜は額を右手で抑えながら苦悶に悩める様な陰湿とした表情を浮かべる。この争い、戦争、支配と虐殺が絶え間なく起こる世界では誰がいつ死ぬか分からなかった。

 過去の様な平和で争いがなくなる世界なんて作れる訳がないだろうと玲夜はひしひしと感じていた。今更平和にしたい気持ちなんて持って意味があるかどうかが分からなくなる。考える度に平和を実現するなんて無意味、儚い理想、低能な思想だと自分で言ってしまう。

 結局は平和など捨てて、自分達の様な非正規の傭兵は死力を尽くして延々と非力な者を守りながら戦い続けるしかない、玲夜は結局どう考えてもこの結論にしか至る事が出来なかった。戦い、殺し、そして何れ死ぬ。まるで永遠に抜け出せない螺旋を巡っている様な気もしてきた。戦いの渦に呑まれれば最後抜け出す事なんて出来ない、彼は悲壮感が漂うままシャワーの水を止めようとしたのだが。


「今…入って、いい?」


 後ろの方から聞き慣れた声が聞こえてきた。少しやる気がなく、所々が途切れてしまっており感情が籠らない様な話し方。玲夜は声の主が誰なのか分かりながも、シャワーの湯水を全身に被ったまま後ろを振り返った。

 シャワーの湯水は彼の全身を包み込む様にして濡らし、特に顔に降り掛かった湯水はまるで悲しみに暮れながら涙を流す様子を再現する様に顔を濡らしていた。玲夜が声の主の方向を振り返った時彼の表情からは、まだ悲壮感漂う様子は消しきれていなかった。その為まるで玲夜は本当に泣いているかの様な風貌を作り出していた。


「……?玲夜、泣いて…るの?」


「……んな訳ないだろ、少し水浴びてただけだ。てか、何でしれっと裸で風呂場来てんだよ、僕まだ入ってんだけど?」


 後ろで首を横に傾げながら、キョトンとした様子で玲夜を見つめるのは身に付けていた衣服を全て脱ぎ、生まれたままの姿で玲夜の後ろに立つSの姿であった。


「一緒……がいい」


「相手なら風呂上がった後でしてやるってのに……」


「気持ちい事は、後でいい……お風呂、一緒がいい」


「へいへい、逢瀬のままに…」


「むぅ……嫌…なの?」


「嫌がったりなんてするもんかよ、そこまで腐ってない」


 そう上手く言い切った玲夜を好意的に思ったのか、Sは玲夜の発言に対してほんの少しだけ嬉しそうな表情を見せた。基本的に感情の起伏がなく、表情も基本は無表情に近い形のままであるSではあるが、玲夜や椿を前にしているとごく稀に感情に小さな起伏を見せる事があった。

 そしてSはすぐさま玲夜の前に立つ。裸のまま、スベスベで、うぶ毛も生えていない。更には色も透き通る様に美しい肌と乱れがなく美しく綺麗に整えられた肉体と髪を晒す。玲夜に背を向けて立っている為正面の身体こそ見えないものの背を晒す彼女の姿はいつも見ているとは言っても美しい事この上なかった。傷や汚れが何一つなく整えられた背中やスラリと細く伸びる腕と脚、そして肉感に溢れ、揉み心地の良さげで丸みを帯びた尻。今はSは自分に対して背を向けて立っているので後ろの部分は丸見えであった。

 しかも彼女は恥ずかしがる様な素振りを見せる事もなく表情が全く存在しないまま余す事なく肉体を晒していた。玲夜もSと同じく感情の起伏は薄く、手馴れた様な手つきで近くに置かれた体を洗う為のボディソープを手に取ると、すぐさま中身を出して泡にしてしまうと手始めに背中を洗い始めた。タオル等が無い為、手で擦る様にして玲夜はSの背中を磨く様にして、泡を背中全体に広げていく。

 玲夜の行為をSは素直に受け入れる。言葉も口にせず、何も抵抗する様子を見せる事もなくただ立ったまま彼の行為を受け入れていた。玲夜はいつもこんな事をしているのに、何故か毎度毎度こう言った行為を彼女達にする度に自分が変な気持ちになってしまう事が多々あった。


「痛くないか?」


「うん……痛くは、ない」


 Sは元からあまり口を開かず、人とのコミュニケーションは好まない性格だった。特に一部の人を除いた人とは全く話す素振りを見せないなどかなり冷たい性格をしている人間だった。その為現在Sとの付き合いが長い玲夜であっても会話が途切れてしまう事も稀にあった。

 しかし二人だけで密室に篭っている以上、会話が続かないと気まずい事この上ない為、玲夜は会話を無理に続けようとした。だが、そう簡単に話す事を好まないSと長時間話し続ける事は玲夜であっても難しく、結局玲夜は黙り続けたまま彼女の背中を磨く様にして撫でる事しか出来なかった。


「はい、終わり。前と頭は自分でやれ。先に上がって待ってるからな…」


「分かった……先行ってて…」


 Sの言葉に玲夜はコクリ、と何も言わずに頷くと先に玲夜は風呂場から立ち去った。何事においても無関心になる様にして、風呂場から立ち去るなり、あまり考え事はせず深い考えを持たぬ様にして素早く着替えと歯磨きを一通り済ませ、髪を乾かすと、先走る様にして寝室へと向かった。


 ◇◇


 先に風呂から上がり、Sを待つ玲夜は薄い表情をしながらスマホの画面を触っていた。因みにではあるがスマホに何かゲームのアプリを入れてプレイしたり、動画が見れる様な事をしている訳でもない。入れていると言っても連絡用のアプリと音楽を聞く事が出来るアプリ程度しか入れていない。

 今、玲夜は同じ私設組織の所属である女性と連絡を取っていた。どうやら明日に第二区に在籍している私設組織の面々は国からの招集要請があったらしい。何があったかはまだ聞かされてはいないが、どうやら安い事態ではないらしいと、同じ所属の女性は言っていた。詳しい事は明日に判明するらしいので今は深く気にし過ぎない方が良い選択である事は確かであった。

 玲夜はスマホを自分の横に放り投げる様にしながら置き捨て、予め寝室に敷いておいた敷布団の上に両手を頭の後ろに回し、仰向けで寝転がりながらSがこちらに来るのを静かに待っていた。


(もしかしたら、これが最後になるのかもしれないな……)


 心に余裕なんてない。いつの日に世界が壊れてしまい、奪われてしまうか分からなかった。今からSと身体を重ねる事になるだろうが、それも玲夜にとっては一時的な心の傷の保養に過ぎなかった。心に負った傷は治るかどうか分からない。

 一度だけ深く息を吸って、息を吐く。心は虚無の様で空になる様であった。日々の生活を過ごせているとは言っても、心を支配している恐怖は消えない。泣きたくなる時だって何度もあった。しかし今立ち止まってしまう訳にもいかなかった。立ち止まれない理由があった、まだ止まれなかった。


「入る…よ?」


 引き戸が横に引かれると同時に風呂から既に上がり終えたSの姿がそこにはあった。風呂に入ったとは言っても、多分後でもう一回入るのだが。

 Sの手には彼女が基本的にいつも行為の際は愛用している口枷(ギャグボール)と縛られても体に影響が少ない縄が握られていたのだった。

 Sは手に愛用の物を握った状態で敷布団の上に座る玲夜の元へと寄るとすぐに玲夜の隣に楽な体勢で座り込むと玲夜にまた背を向け、彼に手持ちだった縄を渡した。


「…縛って…」


「言われなくとも…」


 Sは見た目こそクールではあるが、実際の所実は…Mです。ドSではなくドMなのですよ。日常生活ではあまりと言うか全く表に出す事はしないが、夜の時間にでもなれば玲夜の前では完全にMと化してしまうのだ。

 しかしそれでも尚表情の起伏は少ない。言わば表には出なくとも、本心では感じている、と言う事らしいのだが実際の所は玲夜ですら良く分かっていない。だが、彼女が痛みや拘束により快感を感じている事だけは確かだった。特に縛られる様な拘束を好む様な傾向にある。

 そしてSは腕を第一関節の所で曲げると、後ろで交差させる。玲夜は亀甲縛りを行う様な感覚で彼女の腕を動けなくする為に縛り上げていく。凹凸がハッキリしている所は触れる様にするが。


「よし、縛れたぞ」


「次は…口に、付けて」


 簡単に抵抗もせずに縄によって身を拘束されたSではあったが彼女は嫌がる様な素振りは見せなかった。むしろ縛られ、拘束される事を喜ぶ様な様子を見せる。表情に喜びが出る事はなかったが、玲夜は付き合いの中で所謂、内なる気持ち的なモノを感じ取れる?様な感じで感じ取っていた。

 そして縄で彼女を縛り付けた次は口を塞ぎ、喋れない様にする為に口に口枷、猿轡の様な物であるギャグボールを口に取り付けた。ギャグボールのベルトを締め、口を塞ぎSを喋れない様にする。

 Sはギャルボールにより、口を塞がれた事でくぐもった声しか出す事が出来ず真面に喋る事は一切出来なくなり、口は開けっ放しとなってしまい、口から出るヨダレは垂れ流しになってしまう。

 パッと見れば非常に不恰好な姿であった。体は縄で拘束され、口はギャグボールによって塞がれヨダレは流れたまま。

 ドS寄りの思考を持つ玲夜とドMな肉体を持つSは早速夜の時間を始める事にした。因みにではあるが、椿は放置している。恐らく玲夜とSの声でも聞きながら自分で慰めているとは思うが……。


「S、今日もキツくヤラせてもらうぞ?」


「ふぅ―――、フゥぅ――!……んっ...///」


 コクリと頷いたSに対して、玲夜は口元のみで軽く笑いを見せる。Sは膝を敷布団に立てる。腕は使えないので肩や頬を敷布団の置く事になってしまったが。そして尻を突き上げ、強請る様に腰を軽く振る。

 そして玲夜は下半身の服に手を伸ばすとそのまま脱ぎ捨てた…。


 ◇◇


 四回戦続けた後………。


(ふぅ~明日は早ぇんだった……もう寝るか)


 明日に備えて玲夜は隣で全裸のままで眠るSの肩を抱きながら、玲夜は眠りに着いた。



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