15話「TEAM13出撃」
まるで暴風雨が吹き荒れるの如く、やけに運転の荒い車に体を揺らされる事約数十分。終始、酔いに惑わされないか不安になる中ではあったが、車に荒く揺られる中、時折耳に爆撃の音や銃声を耳にする事があったがその銃声が何の為に発されていたのか、誰が誰と戦っているのか余裕で検討が着いていた。
助けに行く気にはならない。今行った所で何にもならない。戦いにおいて犠牲は付き物だ、死にゆく者だけ振り返って延々と見続けていては、戦う事など出来なくなってしまう。それに所詮は赤の他人だ、死んだ所で知った事ではない。
助けられてなくて、引け目を感じてしまう事もありそうになるが、本当に後ろだけを見続ける訳にはいかなかった。見るのは被害拡大を防ぐ事と発生原因を素早く駆逐する事だ、ただ虚しく後ろを振り返る事ではなない。
「到……着ぅ!ほら、玲夜、椿、Sさっさと地下の戦闘準備区まで走れ!そうすれば誰か案内してくれるだろうから!」
車は突然急停車を行う。かなり乱雑な停車であった為、車内は強く揺れ動き、シートベルトを付けていたとは言っても、普通に比べたら軽い身体をしている玲夜の体は僅かながらではあるが宙を舞うかの様にして動く。
急停車に玲夜はギリギリ反応出来たものの、反動は大きく、急に発生した停車に玲夜は思わず顔を顰め、歯を噛み締める。
歯を噛み締めながらも、玲夜達は車が止まった事を確認すると同時に、車から脱出するかの様にして、外に飛び出した。
最後は何処ぞのあのバイクばりに車をカッコよくスライドブレーキさせて、四人は無事に「第二区‐中核区」の中心近くへと辿り着いた。ヴァルヴァラが車を運転している時、玲夜は周りの事なんて一切気にせずに、手元の拳銃や右手にばかり目がいってしまっていた為、周囲の景色なんてろくに見ていなかった。その為、玲夜は今更感があったが、車から出て周囲の景色を確認した時に自分が住んでいる場所と、今立っている場所に対して大きな違いを覚える。
一瞬だけ、幻覚でも見ているのか?と目を疑いたくなる程であった。
自らが住んでいる区域とは全くもって違う、まるで別世界に来てしまったかの様な気分になる。思わず、同じ地区なのかと目を疑ってしまう程であった。
建物の質やその物の出来の違い、暗く、暗黒に包まれていた殺風景な景色が突然として光り輝き、延々と夜を照らすかの様で、ネオン色に染まっている世界の様であった。
建物の出来も、技術進歩しているのが一目で分かる程であった。普通の住宅街や市街地とは全くもって違う。空には飛行するリジェネレイトを炙り出す為なのか、サーチライトが大きな高層ビルの様な高い建物から、絶え間なく照らされ続けている。そして今も尚、武器と兵器が使用される音がこだましていた。撃墜する為に容赦なくミサイルが飛んでいく音、機関銃、マシンガン、ガトリング砲等の銃火器が激しく音を発し、まるで演奏するかの如く鉛の弾を撃つ音。
更に空にはサーチライトが照らされるだけではなく、戦闘用ヘリや戦闘機が縦横無尽と空を駆ける。対象はリジェネレイトである事は確定している。今の状況を見て、分からない訳がなかった。
そして中核には光学迷彩を装備した特殊防御壁によって覆われた第二区の最後の砦の様な場所、名称は不明であるが少なからずとも、あの中にこの第二区最高責任者である女性、東雲冴霧が鎮座している事は間違いないだろう。
何をしているかは知らないが、彼女が殺されてしまえば、本当の意味で第二区は終局を迎える事になる。
しかし彼女が居るのは特殊防御壁や対空迎撃砲、更には多大な軍事力を地下に備えている中核の六角形状の高いビルの様な建物だ。
まるで、そう簡単に落とされはしない、と物語るかの様であった。目の前に建つまるで要塞の様な建物は、この場所に建設されてそれなりに時間が経過しているはずなのだが、今も昔もまるで新品の様な状態を保っている。
流石は中核区、と玲夜は思わず心の中で呟いてしまう。技術の差、住む人間の価値の差、それがこの様な差を生んでいるのか、と玲夜は感じた。
「ヴァルヴァラ、お前はどうするんだ?」
刹那、落雷が落ちたのかと錯覚させる程の轟音が玲夜を含めた場にいる四人の鼓膜を引き裂く勢いの大き過ぎる音が突如として、周囲に響き渡った。
轟音が響き渡ったのは玲夜がヴァルヴァラにどうするか尋ねようとした時だった。急過ぎる轟音に思わず、玲夜は頭で考える前に、本能的に足を動かしていた。
そのまま彼は距離的に助けられるだろうと、隣に立っていた椿に向かって走り出す。
「危ない!」
気が付いたら、玲夜は椿の肉体を自らの両手で抱いていた。轟音が直接的に聞こえてきた方向に自らの背中を向けて、彼女の盾となる。椿は彼に抱かれたまま何もする事が出来なかった。ただ彼の肉盾を構えるだけであり、自分は素直に玲夜と言う名の盾に隠れる事しか出来なかったのだった。
何が起こったのかはさっぱりだが、後ろから轟音が響くと同時に大きな爆発音が聞こえてきた。まるで真後ろで巨大な爆弾が爆発したのかと思ってしまう程だった。
背中が少しだけ熱く感じられる。それと同時に熱風の様な熱を持った風がこちらに向けて、台風の際の風の様にして吹き荒れている事が見なくとも分かってしまった。
「ぐっ、何だ!?」
後ろでまるで引火して爆発した際に起こった様な音、先程耳を引き裂く様にして鳴り響いた轟音、背中を焼き尽くす勢いで迫る熱源、何かが後ろで爆発した事だけは容易に推測が出来た事であった。
「おい、マジかよ……!」
何が爆発したか分かったかの様な表情を見せるヴァルヴァラは正体に気が付くと、先程までしていた腕組みを解き、思わず引き攣ったかの様な驚きの表情を浮かべ、驚きと同時に冷や汗を流している。
玲夜も事の重大さに気が付くと、熱で徐々に燃やされるかの様にして熱くなっていく背中を向けていた方向を見る為に、首を後ろに捻り、体を少しだけ後ろに向けて背後を見る。
「え……?戦闘ヘリが…」
一瞬だけ、まるで幻覚や虚像でも見ているのかと感じてしまう。だが、幻覚や虚像だと思っていた存在は偽物ではなく、間違いない現実の存在であり、一切の間違いなんてなかったのだった。
よく良く考えてみれば、先程から空には戦闘機や戦闘ヘリが縦横無尽に駆けていた姿を見た。
目の前に落ちてきた戦闘ヘリだってその一機なのだろう。突然の出来事、玲夜達の目の前には突如として炎に包まれた戦闘ヘリが落下していたのだった。
耳を引き裂く様な轟音は落下音、爆発音は燃料に引火して地面に叩き付けられた際に起こったのだろう、落下の瞬間こそ見えなかったものの、予測は簡単に出来た事であった。
「人的被害も出てるなこりゃ……」
「戦局は……こちらが…不利。玲夜、早く、行こう」
Sの言葉が絶対的に今の状況的には正しいと玲夜は感じた。こちら側の被害は目の前に落ちている業火に包まれた戦闘ヘリだけではないだろう。中に乗っていたひとだって、きっと今頃はこの炎に無惨に焼かれてしまっているだろう。それだけではない、被害はこれ以外にも無惨に広がっているだろう。戦闘員や非戦闘員、更には民間人や重役にも被害は出ている、家屋や兵器の損害だって出ている事が容易に考えられる。玲夜達傭兵はこれを阻止し、襲い来る敵を殲滅しなければならない。
それに目的地中核のビルを前にして、目の前に広がる炎を見つめて、ずっとただ突っ立っているのもただの時間の浪費と同意義であると感じられた。玲夜はSの言葉に促され、声を上げる。
今は立ち止まる時ではなかった。今自分がすべき事が何なのか、それは傭兵として戦いに身を投じる事であるだろうと感じられた。
玲夜は僅かに険しい表情を浮かべる。
「行くぞ!これ以上被害を拡大させるな!」
先行するかの様にして、三人を差し置く様な形で玲夜は先に目の前に立っている中核区のビルへと一人で走り出す。それを見ていた椿達三人は、素直に玲夜の後を追った。
◇◇
「「TEAM13」ただいま到着致しました、東雲様!」
「あら、玲夜さん。お待ちしておりましたよ!」
玲夜はビル内部に設置された作戦司令室へと敬礼をしながら、入る。玲夜が先行して入ると同時に、椿やS、ヴァルヴァラも同じ様に敬礼をして部屋の中に侵入する。
場所は中核区の巨大ビルの中の真ん中辺りの階、玲夜達が入った階の内部には軍の大隊すらもコントロールする事が可能なシステムや区全体の戦局や映像を見る事が可能な巨大なモニターや通信機器を介しての通信機等が設置されていた。
そして、これらの機器は全て東雲冴霧を含むこの場にいる役人達が操作を行っていた。皆、通信機器を耳に取り付け、街の様子が映し出されている画面や何を示しているのかは分からないが、レーダーや数字が示された画面を皆瞬きすらもしない勢いで見つめている。戦局は荒れ模様であるのだろうか。今は全体を把握出来ていない為、仕方の無い事ではあるが。
そしてここに来るのは初めてではあるが、戦術を繰り広げる為の機器等は見た事があったり、実際の所使った事があるので問題はない様に思えてくる。しかし、触ったり使うかと聞かれればそうではない、自分達は指示を出したりするのではなく、襲い来る敵を殲滅する事だ。
「ヴァルヴァラさんはここに残って戦局に合わせて指示を行ってください。私も同じ様に指示を出します」
「お姫様もサポートするって事か?そいつぁ、心強い事だな。任せてくれ」
東雲冴霧、彼女は既に総指揮を任されている身であった。自らは最高責任者と言う身でありながらも、自らの優れた知能と技量を用いて、最高責任者と言う身分でありながらも、一兵士と同じ様な立ち振る舞いで戦場の総指揮を取る。純白のドレス風の衣装と、白水色の少し短めの髪を揺らしながら、彼女は玲夜達よりも先に戦局を見つめていた。
そして、その言葉に最高責任者である東雲冴霧はヴァルヴァラの言葉に素直に首を縦に振った。
首を振ると同時にすぐさま、東雲冴霧は四人に指示を出した。
「ヴァルヴァラさんはこの司令室で私達と一緒に指示をお願いします!玲夜さん、椿さん、Sさんはすぐに戦闘準備を行って、完了次第出撃をお願いします!KILLERVの皆さんは既に出撃されているので、合流を!」
「了解致しました!」
玲夜は周囲に響く程の声を上げ、再び東雲冴霧に対して敬礼を行う。そして、彼の行動を真似る様にして椿とSも同様の行為を行う。出撃はもう遅い事ではない。玲夜はすぐさま出撃準備に取り掛かる事にした。
「玲夜さん、戦闘準備室までご案内します」
横から黒服を纏った体格の良い男が現れた。男はどうやら、戦闘準備室まで案内してくれる様であった。
しかし気にしている余裕はない。素早く済ませる必要があった。
◇◇
「どうぞ、着替えたら、奥にある扉から出撃用のカタパルトがある場所に繋がっているので」
「助かる、ありがとう」
そう無機質な声で言うと、男は先に扉を閉めて戦闘準備室の中に三人を置いたまま何処かへと去って行ってしまった。
戦闘準備室、内部は正に戦闘を行う為の準備室と言った所であった。武器や戦闘服等が予め用意され、早く着替えて出撃してください、と言わんばかりに配置されていたのだった。
「あまり時間は食ってられない、すぐに着替えて出撃を……」
「うん、そうだな!」
「着替える……この服、動けない」
玲夜が椿とSにそう言った頃、二人は既に先程まで着ていた服を脱ぎ捨てていた。椿とSは上と下の服を脱ぎ捨てており、上半身も下半身も下着が丸見えになってしまっていた。まるで玲夜の事なんて居ないかの様な振る舞いであり、仮にも異性が目の前で見ていると言うにも関わらず、二人は恥ずかしがる様子など見せる様子はなかった。
椿は上は黒色のブラジャー、下は黒色のボクサーパンツであった。Sも同様、下は白色だった。見る価値は十二分にあると感じられられた。
「お前ら仮にも男が目の前にいるってのに、よくそんな躊躇なく脱げるよな……」
玲夜は目を少し逸らしながらも、皮肉を呟く様にして二人に言葉を投げる。玲夜の頬は僅かにではあるが、赤く染まっていた。
「だって、今まで何回私達とHしたと思ってんのよ?」
「今更……下着ぐらい、見られても……別に……」
「慣れって怖いな……」
そう言いながらも、玲夜自身も服を脱ぐと同時に戦闘用の服へと手を伸ばし、そのまま着込む事にした。
戦闘の際に着用するのは、戦闘の為に作られたTEAM13専用の特殊戦闘服だ。通気性、動きやすさ、俊敏性等を高めたスピードに長けた戦闘と隙を極力見せない様な動きが出来る服装だ。色は暗闇を象徴するかの様な暗色であり、他にも武器を保有するのを他人に悟られない様に服の上にはパージが可能なコート風のマントを羽織っている。これだけ詰め込んでいるので、少なからずとも生存率は上がる。
「さて、武器の確認を怠るなよ?」
「了解!私は爪と素手、後は小銃とかだけど、問題はない!スラスターのバッチリだ!」
「腕部ガトリング……脚部ミサイルポッド……肩部ミサイルランチャー……多目的装備換装型バックパック……陸地ホバーユニット………背部スラスター………以上、なし」
「俺はビームランチャー「TESTAMENT」後はレーザーソード「雷斬」グロッグ17も問題はない。後、カートリッジも全弾仕込んであるな……出撃の準備は出来たか?」
玲夜の言葉に、椿は自信のある表情で首を縦に振った。Sも表情は相変わらずの無表情であり、表情一つ動かさないポーカーフェイスではあったが、出撃の準備は整っていた。
全員、三人だけではあったが全員の出撃準備が整えられた事を確認した玲夜は、先程男が言っていた襲撃用のカタパルトが設置された部屋に向かう為奥の扉を開けて、更に奥へと進む。
◇◇
「これが、出撃用のカタパルトか……」
本来なら、カタパルトはリニアモーターによって航空母艦から固定翼機を発射するシステムであり、ロボット等をよく射出するシステムではあるがこの地区の技術者の皆様方は努力に努力を重ねて、人間をも射出が可能になったカタパルトを見事開発していたのであった。
目の前に設置されたカタパルトもまたそれの技術の賜物だ。人を射出する為に設計された専用の装置。一気に戦闘が行われている場所へと急行が可能であり、移動時間の短縮を行なう事が可能な装置だ。
射出時は多大なGが肉体を強く刺激するが、ある程度なら耐える事が出来る為、問題はなかった。椿だって肉体的には余裕で耐えられると思うし、Sに至っては元が兵器の為問題は一切感じられなかった。
カタパルトはご丁寧に人数分以上用意されており、一人ずつではなく、全員同時に射出する事も可能ではあった。
その時、玲夜の耳に付けていた通信機器に僅かにノイズが混じる。そして数秒も数えない内に東雲冴霧の声が玲夜の耳を刺激した。
「カタパルトに両足を搭乗させてください。搭乗次第、発進アナウンスを流します!」
「お前ら、死戦になるかもしれんが…」
「大丈夫!玲夜の赤ちゃん産むまでは死なないって決めてるからな!」
「まだ……死なない……私、まだ世界……気になる」
玲夜、椿、Sは決意を固める。三人ともいつもより険しい表情を浮かべ、今は戦いの時だと割り切り、いつもの柔らかい感じは一時的にではあるが消し去る事にした。
そして玲夜は三人の中で一番早くカタパルトに両足を置き、発進のアナウンスが流れるまで待機する。右腕にはビームランチャー「TESTAMENT」を抱え、まだ敵は出て来ていないがレーザーソード「雷斬」を左手で硬く握り締める。背部に姿勢制御や高速での移動を目的として取り付けられた背部スラスターにも以上は一切なかった。神経を限界まで研ぎ澄ませる。
しかし待機する時間なんてそんな長くはなかった。十も数えない内に、アナウンスが玲夜の耳の中に流れてきた。
――――発進シークエンス!三番シークレットハッチ解放、桐ヶ谷玲夜、発進スタンバイ。準備を開始して下さい………ウェポン、スラスターシステムオールグリーン、カタパルト推力正常、進路クリア、起動値クリア、発進タイミングを桐ヶ谷玲夜に譲渡します!
「実戦か、待ち侘びた……か?………I have control桐ヶ谷玲夜、戦闘介入を開始する!」
カタパルトが動き出し、玲夜の体は外へと射出される。二人に先駆けて、玲夜は射出されていくと同時に背部のスラスター出力を全開に引き上げると同時にけたたましく音を奏でながら、空へと一人駆けて行った。
―――――続いて、霧矢椿どうぞ!
「それじゃ、死神の行進と行きますか!霧矢椿、行くぜぇ!」
続いての出撃は椿だった。携行している武装は特に何も無かったが、カタパルトから射出されると同時に、彼女も玲夜と同じ様にしてスラスター出力を最初から全開にして引き上げると同時に玲夜と同じ様にして空に駆けて行った。
―――――続いて、CodenameSどうぞ!
「やっぱり私には……戦場と言う舞台が似合っている様ね……S、出撃します」
最後はSが出撃を開始する。彼女は両腕に二連装のガトリング砲を装備し脚部にはミサイルポッド、背中には装備換装用、継戦能力を上昇させる為のバックパックにスラスター、肩部にはミサイルランチャーまで取り付けると言う重装備での出撃だった。彼女の表情は涼しいものではあったが、まず普通の人間ならあそこまで兵器を携行するのは無理なはずだ。普通の人間ならね。ガトリング砲やミサイルポッドを腕や脚に、それも華奢な体格をした女性が。




