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14話「先陣出撃」

 

 突如として、寝転がっていた場所の近くに置いていたスマホが振動する。バイブが震える様にして、ガタガタと振動し、僅かに床に音を響かせてた。

 それと共に、スマホ本体からギターやベース、ドラムが混ざるかの様な音が耳に響く程の勢いで止めどなく流れてくる。

 シンセサイザ調のBGMが部屋の中に響くと同時に、居間で上半身の服は着たままで、下半身の服を脱いだままで気付かぬ内に眠りに付いていた玲夜は部屋の中に響く電話か目覚ましかは分からないが、近くに置いていた携帯から流れてくる音楽によって目を覚ました。


「あ、しまった…寝てたのか…」


 目の辺りがボヤけている様にして強く霞んでしまい、寝惚けているのか寝起きで体が不調を起こしてしまっているのか、周りがよく見えない。視界がまるで朝霧に囲まれてしまい、埋まってしまっているかの様で目を擦り、凝らさなければ何も見えないと言っても過言ではなかった。

 頭も何処か痛むし、喉も突き刺された様にして僅かながら痛んでいる。喉が乾いているのだろう、喉が痛んでいる事は何となく今までの経験で分かる事であった。

 しかし電話かボイスメッセージかは分からないが、取り敢えず誰かから連絡が来ている事だけは間違いなさそうであった為、玲夜は近くに置いていたスマホを手に取ると同時に電源を入れる。


 案の定、電話が自分に対して掛かってきていた。電話の相手は誰かと確認すると、電話を掛けてきた主はどうやらヴァルヴァラであるらしい。

 ホテルに行くお誘いは出来るだけ勘弁してほしいものだが、掛けてきた以上出ない訳にはいかなかった。

 別に出ない理由もないし、出たくない理由がある訳でもなかったので素直に玲夜は液晶画面に映し出されている応答のマークを押すと同時にスマホを耳の近くに当てる。


「ヴァルヴァラか、どうした?」


 玲夜は喉が僅かに痛みながらも声を発する。発する度に喉が何故に痛むが痛みはその身を持ってしても、耐えられると玲夜自身は良く分かっていた為、あまり気にする様な事ではなかった。


「どうしたのこうもないわよ!あんた今何してんの!?」


 やけに焦るかの様な、どこか慌てているかの様に怒りや慌てが混ざるかの様な口調が玲夜の耳を刺激する。いや、最早玲夜には怒っている時の口調にしか聞こえてこなかった。

 あまりに急過ぎた展開に、玲夜は口をポッカリと開きながら、驚きの表情を浮かべてしまい、耳に押し当てる勢いで近付けていたスマホを思わず耳から少しだけ離してしまう。驚いた事で言葉にならない様な言葉を口から漏らしてしまう。

 しかしクールな性格をしている玲夜は、すぐに落ち着きを取り戻し、再び電話越しでヴァルヴァラと会話を続ける。


「さっきまで椿とSの事抱いてたんだけど、寝落ちしてた」


「呑気な事言ってんじゃねぇよ!いいか、今すぐお前の家に車出すから、五分で準備しろ!厄介な事になっちまったんだよ!」


「は?それってどうい……」


 まだヴァルヴァラと玲夜は会話を続けようとしたが、それよりも先にヴァルヴァラは一方的に通話を切ってしまっていた。基本的に冷静かつ特別焦りを見せる事がない様なヴァルヴァラではあったが、今回は何故かは分からないが異様な程に強い焦りを見せている。

 相当な事があったのか、玲夜にはまだ分からないがヴァルヴァラのあの焦りようはそうそうお目にかかる事は出来ない姿だ。取り敢えず準備を始める必要性がある。

 まずは椿とSを起こす所からだった。


「おや、聞き耳立ててたのか?」


「見た所、結構ヤバいって感じだね。準備はすぐ済ませるから」


「大混戦……予想…出来る。私も…準備…する」


 どうやらこの話を聞いていたのは自分だけではない様であった。聞き耳を立てていたのか、それとも寝たフリをしていたのかは知らないが椿とSは玲夜同様に目を覚まし、互いに準備は出来ている、と言いたげな表情を浮かべていた。

 玲夜からすれば信用出来る気がしていた。二人の据えた双眸と自信に満ち溢れる表情には迷いが無い様に見えてくる。

 焦りようを見て、今回も大喝采になる事が玲夜には容易に予測出来た。しかし自分達も傭兵業や戦いと言う場に参上すると言う職に就いてかなり長い為、ここで素直に逃げ返って、蹲っていると言う事も出来ない。引くと言う選択が出来ない彼らは進む事を決意する。


「五分で支度するぞ」


「任せとけ!」


「了解…」


 ◇◇


 玲夜の言葉通り、三人は僅か五分足らずで準備を整えた。服を着替え、喉を潤し、身支度を済ませ、乱れた髪を整え、最低限戦闘が出来る様の護身用装備を確認すると、三人共急いで家から出た。移動する時はもう小走りではなく、普通に走る勢いであり三人共荒い息を吐きながら、指定された場所へと向かう。

 そして階段を降りて一番下の階まで着くと、外には既に一台の車が止まっていた。無論、誰が運転していてこの場に来てくれていたのかは言わなくとも分かる事であった。車を運転していた者も玲夜達の存在に気が付いたのか、車の窓を下にスライドさせる。


「ヴァルヴァラ!」


「早く乗れ!中核区まで急ぐぞ!」


 ヴァルヴァラの言葉に、玲夜は一度首を縦に振って頷くと、すぐに玲夜達三人は車の元へと駆け寄ると、玲夜は前のドアを開け、椿は後部座席のドアを開き、三人は車に乗り込んだ。


「よし、全員乗ったな!?」


 ヴァルヴァラは横を向き、玲夜がいる事を確認し、車のハンドルを右手で握り締めたまま後ろを振り返る。全員乗っている事を確認し、シートベルトを締めた事を確認したヴァルヴァラは三人に忠告する。


「よし、飛ばすぞ!」


 そのままヴァルヴァラはアクセルのペダルを強く踏み付けた。勢いに任せるかの如くにして、まるで疾風の様にして車は舗装された道を突き進んで行く…


 ◇◇


 そしてある程度進んだ頃、玲夜は衝撃的な光景と、あまりに急過ぎる話を聞いてしまう。それはあまりに突然過ぎた展開であり、予想出来ていながらも突然過ぎて、焦りを見せてしまう様な話であった。

 ヴァルヴァラは両手でハンドルを握りながら、車を運転する中で横に座る玲夜と後部座席に座る椿とSに話を始める。


「で、何があったんだ?」


「TEAM5が全周囲隔壁式防御壁‐天の御柱の発生装置の一部をぶっ壊しやがったんだよ。お陰でTEAM5が現在、第二区‐東区に侵入して一部私設組織の奴らと交戦、傭兵とかでも負傷者が既に三十人以上、非戦闘員の負傷者も今増えてきてる。タイミング悪いのか、発生装置が破壊されちまったから、リジェネレイト共も侵入してきてるんだよ!」


 腸が煮えくり返る様な思いになった。TEAM5がこのタイミングで襲撃をかけてくるとは予想出来ていたかもしれない。確かに近い内に襲撃を仕掛けると、本人達が公言していたが、思っていたよりも早すぎる襲撃であった。

 予想出来ておきながらも、悠長に構えていたせいなのか、まだ来ないだろうと言う根拠もない考えを持ってしまっていたのか仇になってしまったのかもしれない。

 思わず玲夜は、自分の不甲斐なさと情けなさ、それに混ざる怒りにより親指を口に近付けると、思わず爪を

 噛んでしまう。


「クソッ!分かってたのに気が付けないなんて……!」


「お前が分かってても、止められるかは分からんだろ?取り敢えず、今から作戦を説明する、耳澄ませよ!」


「言われなくとも!」


「作戦……大切、話聞くよ」


「まずこのまま第二区‐中核区のまで直行するよ。その後すぐにお前ら三人は戦闘準備して、即刻出撃だ。着いたらすぐに中核区地下の戦闘準備区域に行け!私は司令室から指示を出す」


 大体の事は分かっている。この先戦いの世界に身を置いている自分達が何をするかなんて、聞かなくとも分かりきった事であった。

 悟った玲夜は先程の様に爪を噛み、拭えない様な悔しがる様な表情を見せるのではなく、座りながら腕を組み、落ち着いた表情を再び取り戻す。

 ヴァルヴァラも焦る表情を見せていた玲夜から、落ち着いており、冷静さを取り戻した表情を見せた玲夜に対して、口元のみで嬉しげに笑いを見せる。


「ほんじゃ、飛ばすぞ!掴まれ!」


 その言葉と共に、ヴァルヴァラは更にアクセルを踏み込み、エンジンを加速させていく。玲夜と椿とSはあまりに急過ぎた加速に思わず仰け反りそうになるが、背部スラスターで迅速に加速する際に発生するGよりはまだマシと思えてきたので、玲夜と椿とSは車の起こす殺人的な加速に耐えながら座席に座りながら、その時を待った。


 ◇◇


 玲夜達が中核区に急ぐ中、とある一つの私設組織は既に出撃の準備を整えつつあった。準備を整える速度は何故かいつもよりも早く、まるで戦いの場へと足を運ぶ事を鼓舞し、喜ぶかの様な様子であった。

 全員それぞれの戦闘服を自らに纏い、それぞれ使っている愛用の武器を手に取り、夕日が差し掛かりそろそろ世界は暗黒の夜へと誘われそうとなっている。後少しだけ時間が流れてしまえば、世界は一時的に暗闇に包まれ、光が無くては何も見る事は出来ない、漆黒と静寂に包まれる世界となるだろう。正に闇の世界で戦いを行う者達には最高のステージであるかもしれない。闇は更に世界を侵食してゆき、街には闇を察知したのか徐々に明かりが増えていく。


 そして彼らは中核区に立つ大きなビルの様にして建てられた、縦に長い長方形状の建物の一角も同じ事であった。まるで舞台の主役を目立たせるかの様な明かりが彼らが立つ建物を照らす。

 場所は地上からかなり離れた上の一角。もしここから落ちてしまったら間違いなく、骨がぐしゃぐしゃに折れて致命傷は免れない様な高さであった。

 風が嵐の如く吹き荒れている。立っている場所が上空に位置している為なのか、いつもより吹く風の力は強く感じられる。

 しかしそんな事はどうでも良い事。上空の一角から、血の様に赤く束ねた髪を風で靡かせながら、右手に長い長刀を握り締めた一人の女性と両手に改造されたマグナムを握り締め、腰には格納されたビームサーベルを装備し、背中には高出力スラスターを装備し、肩のサブアームに大型のビーム砲を装備し、顔をフルフェイスで覆う仮面を取り付けた男性は何処か微笑むかの様な表情で下を見下すかの様にして見下ろした。


「それじゃお前ら、作戦は分かってるな?」


 その場に立つのは八人。全員は赤髪の女性の言葉に耳を貸すと同時に首を縦に振る。作戦内容は全員完璧に理解していた。

 そして、全員のその姿は正に異形の戦士と言うに相応しい。それぞれが個性の塊の様な姿をしており、まるで戦う事を望む様にして己が持つ武器を力強く握り締める。


「相手の数は多いな、油断は禁物だぞ…」


 八人の中で唯一の男はマグナムを両手に持っているかと思えば、先程とは打って変わって、両手に握っていたマグナムは両腰のホルスターに格納し、止む事なく風が吹き、闇夜の静寂に包まれる中、まるで天守閣の上の様な場所で腕を組みながら、今か今かと出撃の時を待ち侘びているかの様であった。


「やっぱり、戦場はノイズが酷いですね。こんなの早く鎮静化しないと…」


 あの時とは違い、ライフル一つしか持っていなかった紫髪でポニーテールの女性は今回は前とは全くと言って良い程違う姿をしていた。両手には大型で軽量の実体剣、背部には大出力スラスターに大型のビームランチャー、腰には何かが格納されているフロントスカートの様な装備、正に重装備が似合う姿であった。


「遠距離からの狙撃は任せてくださいね、ばっちり狙い撃ちますから!」


 モッフモフの獣耳に、尾てい骨辺りから生える薄い黄色の尻尾、戦場には似合わない様に思えてくる巫女の服、身の丈すら上回る勢いで、重厚であり、背中に背負われた大型のスナイパーライフルに、右手には移動用として握られたフックショット、その姿は「狙撃手」の一言が似合うだけであった。獣の本能と言うべきなのか、その瞳には殺気の様なものが宿っていた。


「少しは楽しませくれよな?最近はシュミレーションばかりで、飽き飽きしていたからな?」


 腰まで届く勢いの美し過ぎて眩しく見えてしまうかよ様な銀色のロングヘアに整えられ過ぎて美しいすら凌駕してしまう程の美貌と肉体、大人びた表情に右腰に右手を当て、余裕の表情にまるで負けを知らぬかの様な表情。両腰のベルトにはやけに近未来風を予想させる剣の持ち手部分のみが取り付けられていた。

 彼女もまた、戦いの場に進む事を好むかの様な姿であり、狂戦士とも見えなくない様な素振りであった。


「正に兵戈槍攘……と言うべきですね。どう戦局を覆しましょうか?」


 結ばれた黒色が中心の髪に前髪のみ赤色がかった色、右手に握られた身の丈すら軽く上回る、独特な粒子を纏った大剣、彼女もまた他の女性同様の美しさに加えて、異性は見た瞬間、確実に鼻の下を伸ばして目がいってしまいそうになる程に大きく包容感がありそうな胸、その大きさは巨乳と言うレベルではない様に感じられる。

 一歩歩く度に胸は揺れ動く。しかし彼女自身はまるで気にする素振りを見せない。気にする事はデカすぎる胸の事よりも目の前に広がる兵戈槍攘の如く展開される戦いである。


「他者に痛みを与える事こそが至高。邪魔する奴は全員殺す…!」


 口には防毒の為の専用呼吸器を取り付け、サイドテールに僅かに引き締まっている肉体。背部の特殊ユニットからは害がない程度に、微量ながらも毒ガスと高圧電流が漏れ出ていた。他者に壮絶させるかの様な痛みを与え、苦しみと絶望を与える事が彼女にとっては幸福の一つであった。苦しむ中で彼女は拳を強く握り締める。

 力を得た代償に肉体は腐りゆく事など知った事ではなかった。ただあの人に追い付く為に彼女は自らに殺気を宿した。


「よしよし、光学迷彩の準備完了!こっちはいつでも出撃可能よ!」


 そう言うと突如としてショートカットで焼けた様な肌を持った女性がその場に姿を表す。武器は何も携行していないにしろ、その姿はまるで神隠しに遭うかの様にして景色に溶け込む様にして消え去ってしまう。

 何をするのかは分からない、だが何をするか分からない程恐ろしい事はない。姿を消しながらも、その姿には何処か邪悪の様な気があった。


「さて、今回の神は誰を選ぶか……お前ら、準備は良いか!?」


「「「「「「「勿論!」」」」」」」


 その言葉を待っていた、と言いたい様な表情を赤い髪を束ねた女性は見せる。一度後ろを振り返り、後ろに立つ仲間達の事を確認すると、女性は右手に握る長刀を一度空を斬らせると同時に先には道も足の踏み場も一切ない、言ってしまえば空の世界に向かって駆けていく。


「行くぞ、Flauros、Volac、Barbatos、Astaroth、Buer!アタシ達で一気に戦局を蹴散らすぞぉ!」


「ハッ!見せてやるか、お楽しみってヤツを!」


「さぁ、楽しい狩りの始まりよ!」


「私ら、KILLERVの事、なめんじゃねぇぞ!」


「推して参ります!」


「さぁ、苦痛で満たしてやる!」


 その言葉を聞くと同時に赤髪の女性は前方へと走り出し、空の世界へと駆けていく。そして落ちる事を恐れぬ勢いで下へと落ちていった。

 普通なら自殺行為にしか見えないが、彼女に着いていく様にして、Flauros、Volac、Barbatos、Astaroth、Buerの五人は彼女「Marchosias」の後に続き、空の下へと、吹き荒れる風に包まれながら、下の方へと降下して行くのであった……


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