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11話「KILLERV」

 

「ご、ご大層な歓迎どうも、で…お呼び出ししておいて何の用かな?」


 玲夜は額から冷や汗を流しながら、首は動かさずに目をキョロキョロする様にして動かしながら周囲を見つめた。息を飲み、体を強ばらせる。本能的に周囲に立つ者達は只者ではない事は分かる。

 そして左手で握っていたホルスターに収納されたグロッグ17からは手を離す。今抵抗するのは無意味に等しい。踏ん張る様にして立っていた姿勢も、グロッグ17から手を離すと同時に内股になる様にして、楽な姿勢でその場に立つ。稽古している武器はグロッグ17と近接戦闘用装備であるレーザーソード「雷斬」のみ。そして彼はどちらの武器にも手を伸ばす事はだけは今は絶対になかった。

 間違いなく今戦闘を開始し、自ら攻勢に出てしまえば、骸に化してしまうのは間違いなく自分であろうと感じた。Assassinは黒衣の合間から時折垣間見えている、双眸からは強い殺気を放っている。その殺気を放つ目は見た者を強ばらせてしまいそうな程だった。


 そして玲夜自らが武器を手に取って攻勢に出ない理由、何故なら相手の数は五人、こちらは一人。多勢に無勢と言う言葉が強く似合うかの様な戦局であった。

 更に自らと相対する相手は不幸にもそこら辺の噛ませ犬感を拭えていないただの半グレや不良等ではなく、現在、地区のトップやその幹部からも恐れられ、多くの私設組織の傭兵達がその足取りを追っている特別指定されたかの様なチームである「TEAM5」の面々であったのだった。

 それもTEAM5の面々が一人や二人目の前に立つのではなく、不幸な事に精鋭五人組全員が自らを取り囲む様にして立っていたのであった。玲夜の身は僅かにだけ震える、足もガタガタと震えるかの様にして無意識に動いてしまっている。玲夜はこの状況を打破する為に、藻掻くかの様にして必死になって思考を加速させる。

 まずは時間を稼がなくてはならない。何でも良いから話を続けてなければならない。先延ばし、逃げだと分かってはいるが、如何せん相手が悪過ぎる。今はどうにかして自らよ命を繋がなくてはならない。携行している装備も今は言ってしまえば護身用の為の様な装備だ。真正面から戦って勝てる様な装備ではない。


「で、何が望みなんだ?金は悪いが持ってないぞ?」


 玲夜の質問にAssassinが答える。その回答に玲夜は耳を疑う。


「そうだな、まだ説明してなかったな……桐ヶ谷玲夜、いいや「TEAM13」の者達……我々の側に付かないか?いや…桐ヶ谷玲夜ではなく…半機械化へい…」


 玲夜の表情に修羅が宿る。普段は基本的にクールであり、起伏を見せない玲夜ではあるがその言葉を聞いた瞬間、彼の体がアドレナリンで駆け巡るかの様にして瞬時的に動いた。

 表情と心には強過ぎる怒りとトラウマが蘇り、その感情は意図も簡単に行動に移された。右手は神速とも捉えかねないスピードで腰のホルスターに伸ばされ、そのままグロッグ17を引き抜くとグリップを強く握り締め、引き金に指をかける。

 銃は片手のみで握られていたにも関わらず、玲夜は澱んだ目を用いて精確に相手の心臓部を撃ち抜く為に照準を刹那の間で計算し、精確にその銃口の先に敵がいる事を確認すると引き金を容赦なく引こうとする。


「その名で俺を、呼ぶなぁァァァァ!」


 怒りに任せる様にして、玲夜は烈火の如く怒声を上げる。まるでいつもの玲夜からは想像出来ないかの様な口調であった。

 それと同時に、右手で潰れてしまう程に強く握り締めたグロッグ17の引き金を引こうとする。しかし怒りで我を忘れようとしている玲夜は、この時ある事に気が付いていなかった。

 玲夜の目には目の前に立つAssassinとWitchの姿しか見えていなかった。他の三人の事なんて知ったこっちゃない、と言わんばかりに気にしていなかったのだった。だが、これが仇となってしまった。

 後ろにはSaberとLancer上にはArcherが待機しているにも関わらずに攻勢に出ようとしてしまった玲夜は案の定、その晒してしまった背後の隙を突かれる。


「おっと、あんまり派手な事はせんといてくれんかな?」


「それ以上は駄目だよ、脳に穴空けられたい?」


 後ろからはSaberの刀の鈍い銀色の刃が鋭く光り、玲夜の首筋を斬り裂くかの様にして、刀の刃が首筋の目と鼻の先にあった。もう少し横にその刃が横に進み、動かされでもすれば玲夜の首は切り裂かれる事となるだろう。その時の痛みは恐ろしいものであるだろう。血が滝から流れる水の如く吹き出し、肌色の皮膚が裂け、耐え難い痛みが首を襲うだろう。


 痛みは人間である以上、誰であっても感じるモノである事は痛い程良く知っている。今まで痛い経験なんて、可笑しくなってしまう程感じてきたが、刀で斬られる痛みとはなんなのだろうか。痛いだろうか、それとも苦しみに悶えるのだろうか。知りたくもないが、少なくとも首筋なんて、あんな鋭い刀で容赦なく斬られてしまったら、大量出血で失血死するか、感じたくもない痛みに悶えるかのどちらかだろう。

 悪いが絶対にそんな事にはなりたくないし、そもそも斬られるのも嫌なので玲夜は忘れかけていた我を取り戻そうとする。

 一度深呼吸を行うと右手で硬く握り締めていたグロッグ17を手から、そっと離した。銃から手を離した事でずっしりとした重さのある銃は地面へと落下し、ガタッと音を立てながら地面に直撃し、捨てられたかの様にして地面に転がった。これで玲夜が携行している射撃武器は全て消し飛んだ。これで必然的に遠距離からの戦闘は行えなくなってしまった。射撃兵装を全て廃棄してしまったのは惜しい事だが、背に腹は変えられないので、玲夜は何も言わなかった。

 そして携行し、所持していた武器を捨てた事を確認したのか、後ろから刀を押し付けようとしていたSaberは刀を押し付けるのをやめて、抜刀していた刀を鞘の中に静かに納刀する。


「久方ぶりやわ、剣を抜いたのは…」


 しかし速すぎて気が付かなかった。いつの間に抜刀したのか玲夜には分からなかった。刀を押し付けられかけていると言う所は分かったものの、いつ抜刀したのか、どれ程の速度で抜刀したのかは一切分からなかった。

 まるで速すぎて、音速すら超える程の勢いの速度だったせいで何も捉えられなかった、何も見えなかった。背後に立たれていたので直接抜刀した姿を見た訳ではないのだが、抜刀した際に発生する音や刃が迫る事ぐらいは自身の力で察知出来たはずなのだが、分が悪いのか相手が悪いのか知らないが検知出来なかった。少なくともただの騎士ではない事は余裕で理解出来た。


「良い子、抵抗はただの自殺行為」


 Saberの真似をするかの様にして、上から矢を番えながら、弓を引いていたArcherも弓を引くのをやめると同時に、両手で強く握っていたコンパウンドボウを背中にマウントすると、掴まっていたハシゴから手を離し、地面へと落下する。

 しかし言う程高い位置に設置されていなかったハシゴ、彼女は軽快に飛び降りると、楽な着地で地面へと足を付ける。着地後に彼女が見せるのはどこか余裕のある表情であった。まるで勝利を確信しているかの様な表情だ。


「話をしよう…」


「何の?締まりの良い女でも紹介してくれんのか?」


「ブッ!……いやいや、そんな事ではないさ。さっきの事だよ、我々の傘の中に入らないか…と言う事だよ」


 一瞬だが絶対に感情の起伏が少ないであろうAssassinに鼻で笑われた様な気がした。しかし仕方ないだろう、人によっては笑えない様なジョークを飛ばしたのだ。腹が立つ様な思いはしない。


「Noって回答したら?」


「敵対する者と見なす。少しでもすれば我々はこの地区へと襲撃を行う身だ、邪魔立てする者と見なして排除するのみだ」


「何故だ、何でこの地区を狙う?何故東雲冴霧を座から引きずり下ろそうとするんだ?」


 玲夜は自らの疑問を声を上げて、彼らに問う。玲夜の心に残る澱んだ疑問は彼の脳内を麻痺させるかの様にして混乱させていた。彼らの狙いが未だに分からない玲夜は声を上げて疑問を解決しようと画策した。怒りの表情が僅かに混ざる顔をしながら、表情の読めないAssassinの顔の方向を見つめる。


「無知さ故か……分からぬのなら知る必要性はない…何れ知る事となる。そして交渉は決裂だ、期待はしていなかったが、やはり的外れだったか…お前ら、撤退するぞ……」


「待ってもらおうか」


 どうやら争いは起こらずに帰る事が出来ると玲夜は感じた。協定を結ばずに敵対者として、TEAM5の面々からは認識される代わりに今だけは生き延びる事が出来る様であった。

 向こうもこちら側も話は済んだ様であったので、もう逃げ帰る事が可能だと玲夜は思った。少なからずとも今は逃げられる、尻尾を巻いて、愚直に素直に逃げる事は好きではないが、如何せん今は相手が悪い為、戦う事はせずに逃げる事しか出来ない。

 だが、一つの声が聞こえてきた。突如として自分の鼓膜を刺激して響いたその音は玲夜に反応を示させる。気が付けば、無意識に声が聞こえてきた方向に、自らの双眸を向けていた。

「待ってもらおうか」その言葉が誰が発した言葉なのかは分からない。少なくとも女性ではない、女性にしては低過ぎる。それと同時にTEAM5の面々でもない事も理解出来た。


 その声は何処か濁っているかの様で、本当の声ではないかの様に聞こえてくる。まるで何かを介して話しているかの様な声であった。言ってしまえば、お面の下から話しているかの様な声であった。


「だ、誰だ!?」


 玲夜は声に反応して、首を捻って後ろを振り向くと同時に素早く声を上げる。後ろに立つのは三人程の人の影であった。場所は暗がりな所であり、まだ太陽の光が空から照っているにも関わらずその場所はまるで夜であるかの様な程に、薄暗い空間であった。

 しかし突如として現れた影が、一体誰の影であったのかはすぐに理解出来た。ゆっくりとした足取りで自らの背後から歩き、TEAM5の元へと歩み寄る。


「ほぉ……誰かと思えば、「KILLERV」サブリーダーの「Flauros」ではないか……」


「ふ、Flauros…だって?」


 玲夜はAssassinの呟いた言葉に耳を疑い、疑念の渦巻く表情を浮かべる。瞬時に思考を加速させる玲夜であったが、一瞬理解が追い付かなくなってしまう。しかし今、Assassinは間違いなく「Flauros」と言う名前を口にした。玲夜にとっては大きな助け舟の様に思えてくる。

 何故なら目の前にいる一人の傭兵。不気味なデザインであり、まるで見た者を怯えさせるかの様なフルフェイスの仮面を顔に被り、全ての全てが黒色によって染め上げられた黒色のロングコートに両腰のホルスターにマウントされたビームサーベル、それが誰なのかは一目で分かった。


「あれ?良く見たら「Andras」に「Volac」もいるじゃない。理想しか語れない奴の飼い犬が、私達に何か用かしら?」


 見かけに反して、Witchはかなり彼らに対して辛辣な言葉を投げる。まぁこの地区に対して大きな不満を抱えているので仕方ないのかもしれないが。

 しかし玲夜は不満を述べるTEAM5の面々の言葉よりも目の前にFlauros、Volac、Andrasが立っている事自体に大きな驚きを見せる、理由は追々説明するとするが、彼にとっては大きな驚きとなった。


「お前らTEAM5には射殺許可が出ている。悪いが死んでくれ、これも命令だ恨むなよ?」


 ロボットの様にして無骨な口調でFlaurosが目の前に立つAssassinに対してそう言うとFlaurosはいきなりノーモーションで改造が施された専用のマグナムを取り出した。正に射撃の腕は最早神の領域と呼べる程だと感じられる。玲夜だって今の射撃では目が追い付かなくなる程だった。恐らく敵として早撃ち勝負なんてしていたら、間違いなく急所を撃ち抜かれていただろう。今は敵ではなかった事に強い安心を玲夜は覚えた。


「おっと、危ない危ない」


 しかし向こうだって一流の暗殺者だった。Flaurosのノーモーションで急に放たれた銃の弾丸は惜しくもAssassinの体を仕留める事もなく、頬やコメカミを掠る事もなく、空を斬った。

 Assassinの異様とも呼べる程高い身体能力は、瞬時に放たれた超高速の弾丸すらも避けられる程であった。玲夜だってギリギリ避けられる事なら出来るかもしれないが、Assassinの様にしてあんな軽やかで精確に避ける事は今の自分には難しい事だと感じられた。

 それと同時に弾丸を素早く交わしたAssassinは一度後ろに下がると、突然として黒衣の中を弄り始める。あ、これはこの前と同じ様な展開が……


「視界を無くそう、ではサヨナラだ……革命の果てでまた会おう」


 次の瞬間だった。目の前が煙幕で包まれる。正に刹那、投げるモーションすら見えなかった。すぐさま目の前が白い煙基煙幕に包まれる。反射的に玲夜は口と鼻を覆い、左目を閉じる。吸ってはならないと本能的に感じ、玲夜は口を塞ぐ。


(スモークグレネードか、厄介な物を……)


(熱源センサーにも反応が無い!?一瞬で離脱したのか!?)


 ◇◇


 そして暫くして、煙の中に呆然と立ち尽くしていた玲夜であったが、その場に目一杯に広がった煙幕がようやく収まって来た頃、玲夜は焦る様な形で周囲を確認する。

 案の定、TEAM5の面々は誰一人として残らずその場から消え去っていた。

 場は先程の様に銃声が響く事もなく、人が何人も集まる事はなく、静寂に包まれ、昼なのに薄暗い空間が広がる世界がそこにあった。暗い虚空の下で玲夜は一人狼狽する。

 その場にはまだFlauros、Volac、Andrasは残っていたが、Flaurosは耳に取り付けてある通信機器の様な物を使って誰かと会話をしている様であった。VolacとAndrasは周囲をキョロキョロと警戒していたが、こちらに話しかけてくる気配はなかった。


「あ、あの……」


「見事に逃げられた、としか言い様がないな…不幸と呼ぶべきか……」


 玲夜に対してFlaurosはそう独り言の様な口調で呟く。先程まで右手に握られていたマグナムは既にホルスターに収納され、Flaurosはポケットに両手を突っ込んで、虚空を見上げていた。無論フルフェイスの仮面を顔に付けたままであった為、表情を伺う事は一切出来なかった。

 玲夜はFlaurosの言葉に何て言えば良いのか分からなかった。次の言葉が出てこず、玲夜は黙りになってしまい、会話が弾まない。


「君もどうやら不幸な宿縁からは逃げられない様だな…」


「え、Flauros……さん?それはどう言う…」


「さん付けされるのは嫌いだ。Flaurosで良いよ」


「そうよ!主様はさん付けされるの嫌いなんだから!」


「さん付けは私の特権ですからね!」


 VolacとAndrasが次に口を開く。

 玲夜はまず二人の美貌に目を奪われそうになる。今まで何度が見た事はあるが、相も変わらずいつ見ても変わらず美しい姿をしている。


「Volac」

 彼女はいつもFlaurosの傍を片時も離れない様な程に、他を見る事なく、一途にFlaurosを想い続ける女性であり「KILLERV」に所属する一人の傭兵だ。

 少しばかり小柄で、眩しい程に綺麗に見えてくる紫髪のポニーテールと身体のラインがハッキリと見える戦闘用スーツを着用していた。異性の視線は鼻の下を伸ばして釘付けになってしまいそうな程だ。

 凛としており見た者を惹き付けるかの様な表情に整えられた顔、美少女と言う言葉が切に似合うと言って良いだろう。言ってしまえば椿やSにも劣らない程だった。

 戦闘スタイルは中距離からの射撃攻撃。見た事はないが、ビーム砲を多用しているらしい。

「Andras」

 彼女もまたVolacと同じ様な心を持つ女性であり同じく「KILLERV」に所属する傭兵だ。理由は不明だがこの戦場とも呼べる様な世界に何故かは分からないが巫女服で参上しており、それと非常に対照的に思えるデジタルスコープ付きの狙撃銃を所有している。

 彼女のVolacと同じ事が言える程に美しい姿であった。整えられた顔に綺麗に靡くロングヘアに少し薄めの黄色い髪、巫女服越しでもある程度分かる身体の肉付き、彼女もまた椿やSと同様に美しい存在だと言えるだろう。

 戦闘スタイルは遠距離からの狙撃銃による射撃。寧ろそれ以外は考えられない。また椿と彼女は非常に似ている。頭頂部には椿と同じ様にして獣を彷彿とさせる耳、尾てい骨辺りからは同じ様に狐を思わせる髪の色と同じ色の尻尾が生えていたのだった。

 これも実験の産物か、玲夜は心の中で一言呟いた。


「その、助けてくださってありがとうございます」


「礼は結構、当たり前の事をしただけ」


 そう無機質にFlaurosが言うと、彼は玲夜に対して躊躇なく背を向ける。先に歩き出した彼に続く様にしてVolacとAndrasもその後を追った。


「じゃ、僕達これからホテル行くから…」


「え?」


 玲夜の脳内が一瞬だけ真っ白になったが、すぐに我に返る。彼らもそう言った関係なのだろうか…


「はぁ…帰りにゴム買って帰るか……」

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