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8話「癒えぬ傷」

 

「じゃ、またな。何かあったら連絡しろよ?」


「うん、分かった!じゃあ!」


 そう言い、玲夜に対して背を向けながら首を後ろに捻りながら振り振り、彼と目を合わせながら元気良く手を振った光玘は玄関の扉を開けて、部屋を後にした。

 最初は適当に皆でゲーム(ほぼPS2)をしてほのぼのとした日常を楽しんでいたのだが、気が付けば晩御飯を作って四人で仲良く食べていた結果となってしまった。本当なら晩御飯までご馳走する予定はなかったのだが、もう成り行きの様な形で晩御飯を玲夜は作ってしまい、食べる予定もなかったと言うのに、四人は楽しく食事をしてしまっていた。因みにだがメニューは焼きうどん、最近作れる様になったので試験的に使ってみたのだが、評価はかなり良い結果となった。作れるメニューが増えたので個人的には料理の腕が一歩前進した様な気がした。

 そして光玘や他の面々も四人での食事には何も異議を唱える事はなかったし、光玘自身も親には連絡はしてしたので問題はない様に感じられた。結果的に彼自身も食べていって良い事になっていたみたいなので、何も問題はない、この件は終了だ。


 そして光玘を暗い夜に玲夜は素直に手を振りながら送り出してしまったが、可能ならまだ居ていて欲しい気持ちでいた。玲夜は彼に依存している様な形で手元に居てほしいかの様な気でいた。光玘は玲夜にとっては心の拠り所の一つだ。心に不安がある時やモヤモヤが治まらない時だって彼の事を想う節があった。何故だろうか、同性である彼に依存するかの様な素振りを時折取ってしまう。

 おかしいとは思わないのだろうか、自分には椿、S、ヴァルヴァラが拠り所となっていると言うのに、更に心に穴が空いているかの様であった自分の心はまだ拠り所を求めていたのだった。

 出来るのなら彼の事を永遠に愛でたいとまるで変人の様な事を願う時もあったが、そんな馬鹿げているかの様で人として屑としか言い様のない様な劣情はすぐさま切り捨てたい感じになってしまう。玲夜は目を瞑りながら、歯を噛み締めて首を横に何度も振り、何やってんだ僕、と自分に言い聞かせながら、馬鹿げている自分の無意味に等しい思想をゴミ箱にゴミを捨てるかの様にして、馬鹿な考えを投げ捨てた。


(何考えてんだか、僕は…)


 玲夜は脳内で光玘の顕になった華奢で綺麗で綺麗で仕方のない肉体を妄想してしまっていた。その妄想は何とも醜く、醜悪で阿呆の考えの様な事だった。

 今自分には、愛するべき人なら既にいると言うのに、それでもまだ誰かに依存し、縋り、拠り所を求め、独占してしまうかの様な程に欲が出てしまう。自分とは何とも惨めで非常で屑としか言い様のない人物なのだろうか、と心の中で玲夜は思う。光玘を見送り、自分の目の前には誰も存在していないと言うのに、玲夜はその場に立ち尽くし、玄関の前でそんな葛藤に悩んでいた。

 まるで絶望に強く悔やむ様にして首を僅かに下に俯かせながら両手の拳を強く握り締め、唇を苦くも噛み締める。僅かに長く、薄い黒色の前髪が目にかかってしまった事で表情は伺えなかったがその表情は間違いなく澱んでおり、汚れていた。

 そして時間が流れる中、玲夜はまだ玄関の前で突っ立っていた事を気にしたのだろうか、気が付けば自分の後ろには椿が僅かながらも心配気な表情を見せながら、玲夜の後ろに立っていた。椿と共に過ごした時間は長く、決して短い訳ではない。彼女も玲夜の事を想い続けている。

 彼の少し大きめの背中からは大き過ぎる悲壮感と愛を求めたいと言う強い気持ちが漂っていた。あの時と同じ様に憎く、絶望と恐怖に縛られているかの様な彼の姿と似ているかの様であった。

 そしてそんな強い葛藤と悲壮を背負う玲夜を見ていた椿は後ろから、彼に気付かれない様にしてゆっくりと彼の背中に近付く。

 そして椿は彼の何処か悲しさを物語る背中の目の前に立つ。己の劣情と醜く醜悪な自分に葛藤と情けなさを覚える玲夜の背中に椿は近付くと同時に、彼の事を背中から優しく抱き締める。抱き締められた事で玲夜は、ハッとする。先程までは周りの事が一切見えず、自分の世界の中で一人彷徨う様にして、混乱の渦に飲まれかけていたが、椿の腕と肉体の熱が彼を我に返らせた。


「理由は聞かないから……準備してあるし…お布団、行く?」


 椿の言葉に、玲夜は静かにコクリと頷いた。そして玲夜も彼女自身も頬を僅かに赤く染める。身体も僅かに熱を帯び、体は一瞬だけ震えた。そして自らの背中を抱き締める椿の右手を玲夜は左手で握る。そして玲夜は首を捻って後ろを振り返る。しかし、すぐに玲夜は首を捻って後ろを振り返るだけではなく身体も椿の方向を振り返る。


「行こう…」


 そう言うと玲夜は彼女の尾てい骨の下、柔らかい尻肉がある辺りを数回優しく撫でた。感触は柔らかく、手全体が抱擁されるかの様にして包まれるかの様であった。そのまま彼女をエスコートする様にして、手を離さぬまま玲夜と椿は寝室へと向かう。

 そして、寝室兼玲夜の自室である部屋に辿り着くと、扉を閉めて、更には鍵を掛けて誰も部屋の中に入ってこられない様にする。そして椿はもう我慢する事は出来ない様であった。まだ布団に寝転がってもいないと言うのに、半場玲夜の肉体から手を離さなかった椿は、玲夜の受け答えを待たずして、強引に彼の唇を奪い取る。唇を奪われた事により、玲夜の唇に生暖かい感触に包まれる。椿に口付けをされるのは最早日常的行為と捉えてもおかしくはない話なのだが、椿も玲夜もまだ互いに口付けを行う度に、身体は火照り、照れてしまっているかの様な表情を見せてしまった。肉体の熱は深い程に熱く、互いに心臓の鼓動は速くなりっていた。

 無論、それがただのキスだけで終わる訳もなく、二人はすぐさま互いのねちっこくて柔らかく熱い舌を何度も絡み合わせる。唾液と舌が絡み合い、その様子は非常に扇情的であり、興奮を煽るかの様な形だった。


「れ、れいやぁ…♡…んちゅ、れろ、ちゅぱ♡」


「んむっ、れろっ、つばき♡」


 気が付けば玲夜は尾てい骨辺りを撫でていた手を更に下に降ろし、気が付けば柔らかく、揉み心地の良さげな尻肉の部分に手を置き、指を巧みに動かして感触を楽しんでいた。


「んぷはぁ♡お尻、そんな強く揉まないで♡」


「そんな物欲しい顔してたらよ、説得力ないぞ…」


 彼女の物欲しげな表情では説得力はなかった。甘い吐息を吐き、欲しがる様にして玲夜を見つめる。そして玲夜がその言葉を呟くと同時に、玲夜は椿の肉体を布団の上に押し倒した。押し倒すと同時に、玲夜は上半身の服を脱ぎ、上半身は裸になった。虚しくも過去の戦いで傷付いた肉体が顕になる。傷は痛々しく、過去の凄惨さを物語っている。椿の物欲しい表情が、玲夜の古傷を見る度に僅かに澱んでしまう。しかし古傷の事よりも快楽を貪っている方が、今の椿にとっては嬉しい事であった。口を開き、八重歯や舌を露出したまま彼女自身も服を脱ぎ捨てる。


「ゴムは付けたから、大丈夫だよ」


「玲夜♡来てぇ♡」


 そして彼らの空間の中には甘く、愛が深く求め合い絡み合う熱の声が響いていた。因みにだが、Sは部屋の外で二人の声だけを聴きながら自分を磨いていたらしい。


 ◇◇


 結局何度が彼女の柔肉をその身で体感した後、玲夜は一人眠れずに真っ暗な天井を無表情に近い様な表情と澱んだ左目と感情等持たない右目と言う双眸で見つめていた。右腕は彼の額に当たり、左手は隣で裸体のままで寝息を立てながら無防備に眠る椿の肩に置いていた。

 今回も彼の心は満たされなかった。椿との一時を楽しみ、Sとの一時を楽しみ、他の女性との一時だって今まで何度も楽しんでいた。どれだけ求めても、どれだけ求められても何度抱いても、何度抱かれて犯されても心の傷が癒える事は決してなかった。今もまだ心に負った傷は癒えずに、絶え間なく心を蝕み続けていた。

 そして今も過去の記憶が脳内にフラッシュバックする度に心臓の鼓動は速くなり、心は締め付けられるかの様にして痛くなる。気が付けば、玲夜は上半身のみを布団から起こし、憂鬱な表情を見せる。隣で裸体のまま綺麗に目を瞑りながら寝顔を晒す椿とは全く違うと言って良い程であった。

 虚しく、怠惰でいつまでも過去を引き摺り続けている自分の事が醜く、悪魔の様で仕方がなかった。

 玲夜は今だに傷が癒えずにいた。どれだけ求め、柔肉を貪っても、過去の不幸な因縁は途切れる事がなく今だに心を苦しめ続けていた。仲間の死、恋したものの死、唯一の家族の死、心の病はまだ癒えぬままでいた。

 しかしそれは自分の私情に過ぎない事であり、周りにそれを知らせ、癒す為に尽力してもらうのはただの迷惑だと玲夜は思っていた。心が傷付いているとは言っても、死んでいる訳ではない。それに椿やSとの行為を楽しんだり、光玘と仲良く話していたり、ヴァルヴァラと昔話をしていれば、僅かな時だけではあるがその痛みを忘れる事が出来ていた。

 だが、それは一時しのぎに過ぎないし永遠に傷が治ると言う訳ではない。所詮は前借り、下駄を履いているのと同様の行為であった。少しだけ忘れられたとは言っても、後になればまた悪夢に悩まされる。

 精神は揺さぶられる様にして揺れ動き、落ち着く様にして止まる事はない。安定する事はなく、まるでその光景は不安定な足場の上に乗る自分の様だった。まるでぐしゃぐしゃになる。馬鹿みたいに悪い考えばかりを脳内に思い浮かべてしまう。


(何だよ、これ…バカバカしい)


 上半身を起こして、周りの事なんて気にせずに考え事をしていた玲夜であったが、バカバカしく思えてきたので再び布団に体を寝かし、仰向けになった。そのまま疲れ切った様にして目を閉じ眠りの姿勢に入った。


(僅かにだが、許してくれ)


 椿の頭を数回撫でると、玲夜はそのまま眠る事に尽力する。今はもう眠る事しか出来ないと感じていた。何も考えなくて良い。何か思い出す必要性もない。今はただ隣に眠る愛する者と共に静かに夜が明けるまで共に眠り続けていれば良いと玲夜は思った。そうでもしなければ気が持ちそうになかった。そのまま深い眠りに落ちようとする。しかし熱が篭ってなくて眠れそうになかった。

 気が付けば、無意識のままに彼は椿の胸に顔を埋め、まるで甘える子供の様にして彼女の胸元の中で眠りに着く。彼女の暖かく温もりを感じさせるその体に入っていれば悪夢は見ないだろうと、感じたからだった。


(どうか、悪い夢を見ません様に…)

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