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エピローグ「奪われた世界」

 

 五年前今まで何事もなく平穏で過去を忘れた世界には突如として混沌と破壊、そして大きな恐怖と悲しみの螺旋が広がった。姿無き壁を破り、留まる事を知らない脅威は一度覚えた甘露の味を忘れる事はない。支配が簡単と分かったのなら、慢心し、その支配域を瞬く間に広げて、徐々に終わりが近付いていく。

 そして邪魔をする愚者は捩じ伏せ、破壊し、犯し尽くし、ものの簡単に世界を闇で覆い隠した。無論人間の力など支配して行く者にとっては蚊に止まられた程度であり、幾度とない抵抗はその多くが人類側の大きな敗北となっていた。


「こちら10班、救援を寄越してくれ!敵の数が!」


 戦場の中で班を介した無線通信の連絡であった。本来なら幾つかの班同士は無線を介して繋がっている為、普通に連絡が取れるのだが、連絡等取れる訳もなかった。連絡をする為の通信機にはまだ新鮮で新しい赤い血が飛び散り、周囲には無惨にも破壊され、ボロボロになりながら散乱する武器や身体中を引き裂かれて地面へと転がり生気を感じさせない目を見開きながら倒れる私兵や軍の人間達。

 何処かから救援を呼ぶ声は誰も受け取る事はなく、虚しくも救援を求める超えは儚く消え去り、先程までノイズがかかりながらも助けを乞いていた声は恐怖により発せられた叫びにより完全に消え去り、砂嵐のテレビが発するよかの様なザザッー、としたノイズへと切り替わり、恐怖を煽り立てる様な音は虚空の戦場に小さいながらも響き渡った。


「はぁ……はぁ……」


「死ぬなよ、絶対に死ぬんじゃねぇぞ!」


 左腕が痛くて仕方がなかった。左腕を苦しめるかの様なズキズキとした感触が左腕を延々と襲い続けた。左腕はあっていてほしかったのだが、残念な事に引き千切られたかの様にして左腕は完全に消え去り、見たくもない接続面が顕となっていた。液がポタポタと滴り、中の構造が組まなく丸見えとなっていた。多少見たくなってしまう好奇心なんか意図も簡単に消え去ってしまう。

 そして絶え間なくやって来る死への恐怖で股間がキュッと締め付けられる様な感覚に陥り、身体中には鳥肌が立っていた。

 左眼は真っ赤な血が零れ、彼の視界を完全に奪い、死角すらも隠していた。更には額から流れ落ちる血は顔を覆う様にして止めどなく流れ、視界の全てを奪ってしまう様であった。何も見えない、何も聞こえない、痛くて仕方がない、倦怠感と疲労感が身体中を駆け巡り、自力で走る事はおろか、誰かに肩を貸してもらって歩く事も嫌になる程であった。

 今は同じ仲間に何とか肩を貸してもらいながら何とかギリギリの体力で戦場からの脱出を図ろうとしていた。しかし肩を貸されても尚歩く気にはならなかった、歩きたくない、死んでしまいたい、そして敵前逃亡なんて出来れば彼にとってはしたくはなかったが、死んでしまったらもうどうにもならないので彼は殲滅出来なかったと言う現実を歯噛みし、苦い表情と右目から少量の無色透明の液体を流しながらも受け入れ、先にあるまだ奇跡的にも損傷していない軍用車両へと向かって一歩一歩ずつ歩いて行ったのだった。


「た、い………ぃ長……」


「………言うな!」


 自らに肩を貸し、車の方向へと進む赤い髪の女性は涙混じりな声で掠れる声を放つ男、そして肩を貸す者へと言葉を投げる。女性も怪我を負い、これ以上の怪我をしてしまえば致命傷だって免れない怪我であった。体には傷が目立ち、コメカミからは赤い血が垂れ流されていた。しかし女性は彼を守りたいと言う意思から、彼女は自分よりも傷付いた少年に肩を貸しながら共に歩いた。

 そして後ろを振り向いては駄目であった。絶対に後ろは振り向かずに二人は前だけを見て只管になって重い足取りで歩く。後ろからは耳を引き裂く様な大きな爆音や敵達の荒れ狂う咆哮や聞きたくもない声が両耳を潰す勢いで聞こえ、更には弾丸が飛び交う様な銃声やミサイルが飛ぶ音にビームが発射される音すらも聞こえてきた。

 今はもう満身創痍で動く事すらままならないし戦う事なんて以ての外であった。もし今の自分に力があり、まだ戦う事が出来たと言うのなら彼は意地でも今後ろで戦う仲間の元へと戻る事が出来ただろう。しかし今の彼にはそんな事は出来なかった。肉体的にも限界を迎え、精神的にも追い詰められた今の彼には戦う事など無意味に等しい行為であった。戦いたい、あの人と一緒に戦いたいその一心で体を動かそうとするも、彼の肉体は動いてはくれなかった。全身全霊で力を込めても、歯を食いしばって対抗しようとするも、動く事はなく気合いだけで解決出来る様な問題ではなかった。


 朦朧としていて消え行く意識、言う事を利かず徐々に動かなくなる体、失われていく自らの血液。そして気が付けば朦朧とする意識はまるで眠りに落ちる時の感覚の様にして、闇へと沈んで行こうとした。必死になって、まだやれる!と自らに呼びかけようとしたがもう時すでに遅しだった。

 事切れる様にして、彼の肉体は僅かに冷たくなったの後に動かなくなり意識は完全に闇へと沈んだ。赤髪の女性は彼の名前を連続して叫ぶも意識が闇へと落ちた彼に、その叫びが届く事はなかった。


「おい!おい!お……」


 誰の声も聞こえなくなり、意識も途絶えた。この時彼は静かに意識を落とした。揺らめく力は静かに失われ、抗う力は一寸の全て刈り取られてしまったのであった。


 ◇◇


 西暦20XX年、突如として世界各国に現れ驚異的な速度で世界を火の海とし、世界の全ての全てを破壊し尽く勢いで轟く様な侵略を進めて行った融合ウイルス型寄生動機動体群「リジェネレイト」はその容赦なき物量と攻めの姿勢により世界の国土と人口の約八割を消滅させた。

 この「第一次国家攻防戦争」結果は見ての通りであった。一時的な撤退により人類は絶滅になる事は済んだもののその被害はおぞましいものとなり、結果的にこの戦争は人類の大きな敗北となったのだった。






読んでくださって有難うございます。これからもそこそこのペースで投稿していきます、何卒宜しくお願い致します。

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