第6話 聖王からの任務。
「なるほど。勇者セレスティンがそのような行いをな......」
聖王カインド・ファルタス様の前に、僕とタラスクはひざまずいていた。僕は白い聖女服、タラスクは黒いスーツを着ている。
「本来、国護りは個々に行動するべき者。だがマルファ、そなたのたっての願いを聞き入れ、勇者パーティーへの参入を許可した。決して正体を明かさない事を条件にな。しかしセレスティンは肉欲に目が眩み、そなたの大切な恋人を奪ったと。しかも怪物を見逃している可能性がある。そう言う事だな?」
静かに問うカインド様。
「はい。おっしゃる通りでございます。このままではいずれ、聖王国リーファスにも災いが訪れる。そう言った予知が陛下の脳裏に訪れる筈です。一刻も早く、手を打たなくてはなりません」
「うむ。わかった。ではそなたに任務を与える。勇者セレスティンに同行し、彼を見張るのだ。聖女マルファとしてな。もしも国護りとして逸脱した行為があった場合は、すぐに知らせよ。即刻セレスティンを除名処分とし、新たな勇者を選定する」
「かしこまりました。ですが連絡手段はどう致しますか?」
「その点ならば心配はない。おい、あれを持って来てくれ」
「はっ!」
カインド様は側近に指示し、手のひらサイズの金属板を持って来させた。
側近から受け取り、手に取ってみる。金属板と言うより、これは何かの道具だ。少し厚みがあり、四隅は尖らず丸くなっている。
そして小さな地図や、写真機等を示す絵がいくつか表面に描かれている。
「カインド様、これは?」
「うむ。それは携帯型魔術通信機。略して魔通信だ。これでそなたと連絡を取る。本体上部と下部に穴が空いているだろう? そこで私と話が出来るのだ」
「へぇ......こんなものがあるんですね! すごいです!」
僕は素直に感激した。
「うむ。私も最初は驚いたが、慣れると手放せなくなるくらい便利だ。写真機や地図の絵もついてるだろう? 通話だけではなく、そう言った機能も使えるのだ。使い方はその魔通信本体に記録されている。役立ててくれたまえ」
「はい! ありがとうございます!」
僕は元気に返事をした。今のところ使い方にピンと来ていないが、まぁ調べればわかるだろう。ここで使用法についてあれこれ質問するのは良くない。
「うむ。では行け。気をつけてな。ああ、言い忘れていたが、セレスティンの現在地も、その魔通信で表示出来るぞ。それを頼りに彼を追え。良いな」
「かしこまりました」
僕は深く頭を下げ、立ち上がってその場を後にする。タラスクも無言で頭を下げ、僕について来る。
王城を出て宿を取る。町から王都まで来るのに半日かかったので、辺りはもう暗い。
チェックインするとマルコに戻って風呂屋に行き、汗を流す。さすがにマルファとして女風呂に入るのは罪悪感があるからだ。
「ふぅ、いいお湯だった」
僕はさっぱりとした気持ちで、宿屋のベッドに倒れ込んだ。
「なんでマルコなんだよ。早くマルファになれって」
タラスクがいじけた口調で呟きながら、ベッドに腰掛ける。
「マルファでいると、すぐに君は抱きたがる。それじゃあこっちも身が持たないんだよ。君の頭の中はそればっかりだ。たまには僕をゆっくり休ませてくれ」
「あー、なるほどな。あれって結構体力使うもんなぁ。お前結構、動いてくれるし。嫌がっているようで実はノリノリだったりするんだよな」
「おいやめろ! 今の僕は男だぞ! 思い出させるなよ、恥ずかしいだろ!」
「悪かったって。じゃあ今日は男の友情を深めようぜ、マルコ」
「顔を近付けるな! 距離が近い!」
「なんだよ、冷たいなぁ。昼間はあんなにくっついてたのに」
「だからその話はもうやめろって! 友情ってのは、なんていうかこう、イチャイチャするもんじゃないだろ? 熱く語り合ったりさ、酒を飲み交わしたりとか、肩を叩き合ったり、拳で語りあったり、そんな感じだろ? 多分。友達いないからわかんないけどさ」
「マルコ友達いないのか?」
「ああ、そうだよ! 悪い!?」
「いや、悪くない。嬉しいんだ。だってそしたら、俺が最初の友達って事だろ? 友達になろうぜ、マルコ」
ニカッと笑うタラスク。僕は何故か、顔が熱くなった。
「え!? あ、いや、うん。いいよ」
僕はなんだか照れてしまい、タラスクから目をそらした。
「はははッ! やったぜ、俺はマルコの初めての友達だ! 結構長く一緒にいたのに、今まで友達じゃなかったってのもおかしな話だけどな」
「そりゃそうだよ。だって君はすぐにマルファを抱きたがるんだもの」
「そっか。そうだよな。悪かったよマルコ。よし、んじゃこれからいっちょ、酒場でサシ飲みしようぜ! あ、ナンパするのもいいかもな! 俺もお前もフリーな訳だし、彼女作ってもオッケーだろ?」
「サシ飲みはいいけどナンパは嫌だよ。恥ずかしいし。それにタラスク、散々マルファを俺の女って言っておいて、フリーって事はないんじゃないの?」
じと目でタラスクを睨むと、彼はニヤリと笑った。
「なんだよ、やきもちか?」
「ち、ち、違うよ! 僕は男だぞ! そんな訳ないだろ!」
「じゃあいいじゃねぇか。やろうぜ、ナンパ」
「うう......やだ。絶対やだ!」
「じゃあわかった。マルコは声かけなくていいからさ。俺が女の子二人ゲットして来るから、四人で飲もうぜ。いいだろ?」
「もう。一度言い出したら絶対に曲げないよね君は。わかったよ。仕方ない、じゃあそれで行こう」
「おっし! じゃあ今日は楽しく飲もうぜ! 親友!」
タラスクが僕の肩に腕を回して来る。だけど嫌じゃなかった。親友って感じがして、凄く嬉しかった。