第5話 王都へ向かう。
「本当にありがとうございました、聖女様!」
リジーのご両親は目に涙をいっぱい溜めながら、何度も感謝の言葉をくれた。
「何かお礼を......」
「お礼なんて要りませんよ。私はこの国の人々を助けるのが使命ですから。困った時には、また呼んで下さいね。すぐに駆けつけます」
僕はそう言ってリジーの両親を抱きしめた。二人は大粒の涙をこぼしながら頷く。
「リジーも、またね」
「うん! ありがとう、お姉ちゃん!」
太陽みたいな笑顔で笑うリジー。本当にこの子を助けられて良かった。僕はリジーをハグして頭を撫で、頬にキスをした。
「それではまた!」
リジー達の家を後にし、宿に戻る。来た時と違って急いでないけど、恥ずかしい服を着ているので聖術「神速歩」を使用。建物の壁を駆け上がり、屋根から屋根へと跳びながら移動した。ちなみにタラスクは再び姿を隠している。
宿屋に到着。何食わぬ顔で受付前を通り過ぎ、僕達は宿泊している部屋へと戻った。
「よし、じゃあ人助けも済んだ事だし。俺たちのスローライフを始めようぜ」
僕が荷物をまとめていると、タラスクが背後から抱きしめてくる。
「ちょっと待って。一応、聖王様に今回の事をご報告に行かなきゃ。休暇をもらおうと思っていたけど、あの怪物の事が気になる。街の中に怪物が出たって事は、勇者の仕事が不十分って事だからね」
そう答えながら、勇者セレスティンの事を考える。
「国護り」の三人はそれぞれ、何から何を護るか、その担当が違う。そしてそれに伴った「加護」を女神から授かっているのだ。
聖王が担当するのは国。国を病や災害、貧困、戦乱などから護る役目がある。そして加護は国全体を見渡す事が出来、国護り同士で念話する事も出来る「千里眼」。そして国に何が起こるかを予知出来る「王国予知」の二つだ。
勇者が担当するのは怪物。怪物を退治し、人々を護る。そして加護はあらゆるものを切り裂き、不浄なるものを浄化する「聖剣」。そして怪物の動向を察知出来る「怪物予知」の二つだ。
聖女が担当するのは国民そのもの。あらゆる災害、病気、事故などから人々をまもる。そして加護は聖女に変身する聖転換だけ。だけど僕は生まれつき、ユニークスキルの「未来予知」を持つ。これは見たい相手や物質の未来を見れるチートなスキルだ。ただし、僕が干渉していない未来に限られる。
そして聖転換を行った後は、運命を変える「運命操作」と人々の声を聞く「精神感応」を使用出来る。
僕は本来、人々の困りごとを手助けするのが使命。怪物と戦ったりする事は少ない筈なのだ。
思い返せば、セレスティンと一緒のパーティーにいた時から度々こう言う事はあった。つまり街の中で怪物が出現すると言うことが。怪物の動向は勇者であるセレスティンにしかわからないから、僕を含む仲間達は彼の言う事を信じるしかない。
だが、やはり見逃している。理由はわからないけど、セレスティンは敢えて倒していない怪物がいるのだ。
「聖王に報告? まさかまた王都に行くのか?」
「そのつもりだよ」
「マジかぁ。めんどくせぇな。なぁ、聖王は国護りと念話出来るんだろ? それで話せばいいじゃねぇか」
「いや、念話は聖王様の加護である千里眼の力。僕やセレスティンから念話で話しかける事は出来ない。あくまでも聖王様が僕らに話しかけて来た時に会話が出来るんだ。だから面倒でも王都に行くしかないよ」
「チッ、そうか。その服、着替えるのか?」
「当たり前だろ。こんなハレンチな格好で聖王様に面会したら、牢屋に入れられてしまうかも知れない」
「やっぱりかぁ。じゃあさ、着替える前に一回抱かせてくれ」
タラスクはそう言って、僕の体をまさぐり始める。
「だめだよ。今はそんな気分じゃない。それにできれば早く出発したいんだ」
だがタラスクの鼻息は荒い。簡単に諦めてはくれなさそうだ。めげずに僕を口説いてくる。
「わかった、すぐ済ませるから。先っぽだけでいいからさ。それがダメなら口でも胸の谷間でも、太ももでもいい」
「ちょっと何言ってるのかわからないんだけど......ふぅ、仕方ない。じゃあ十分だけだよ」
「よっしゃー! 任せろ! 十分有れば充分だ!」
タラスクは嬉々として僕をベッドに押し倒し、敏感な部分を刺激し始めた。
「や、優しくだからね、優しく、や、ちょ、ふあああッ!」
タラスクの思うがままに、肉体を蹂躙される僕。彼は約束通り十分で僕を解放した。だけど肝心の僕自身が、足腰の立たない状態だ。まるで産まれたての子鹿のように、脚がガクガクする。
「ううッ......く、ふぅ......。はぁ、はぁ、や、優しくって、言ったのに......まったくもう」
「わりい。時間がないと思ったらつい、な。だけど大丈夫だ。俺が龍の姿になって送ってやるからさ。半日も有れば着くだろ。だからもう少し休んで行こうぜ」
「ふぅ、ふぅ、そうだね、仕方ない。なら、そうさせてもらうよ」
ああ......。本当に動けない。僕はぐったりした状態で、ぼんやりとタラスクを見つめたのだった。