第2話 相棒タラスクからの誘い。
「タラスク、いるかい」
僕は相棒の龍人の名前を呼んだ。彼は普段、姿を隠している。
「ああ、いるぜマルコ。そしてさっきの会話も聞いていた。全く酷い話だよな」
スゥーッと姿を現すタラスク。彼は出入り口の側に立っていた。長身で黒髪の美青年。その頭には、枝分かれした二本の角が左右対称で生えている。
「俺の可愛いマルコを、散々侮辱しやがって」
タラスクはそう言って歩み寄ると、僕を抱きしめて顎をクイッと持ち上げた。
「何度でも言うけど、僕は男に抱かれる趣味はないよ」
真顔でそう言うと、タラスクはニヤリと笑う。
「ああ、知ってるさ。俺だってマルコを抱きたい訳じゃない。何度でも言うが、早くマルファに変身して俺に抱かれろ」
「嫌だ」
僕はタラスクを押しのけ、距離を取る。
「おいおい、そう言う約束だろ? こっちは今にも爆発しそうなんだぞ。マルファじゃなけりゃ、俺は満足出来ない。一度味わっちまったら、他の女じゃ無理なんだよ。それとも何か? 俺がこの街の女達を全員抱いちまってもいいってのか?」
笑いながら肩をすくめるタラスク。もちろん本気で言っている訳じゃないだろうけど、彼にはそれが出来る「力」がある。彼を暴れさせない為の「約束」。それは女になった僕、「マルファ」の体を好きにさせるという事。
「そんなつもりで君の名を呼んだ訳じゃないのになぁ。まさか丁度発情してたなんてね......仕方ない。お願いだから、優しくしてよ?」
僕は生まれつき持っている特殊な力「聖転換」を使って聖女マルファへと変身する。この能力は光の女神ルクス様から授かった「加護」の力。稀にこう言った加護を受けて生まれる者がいるのだ。僕のように。
部屋にある鏡を見る。僕の姿はグングン変わっていく。黒髪のショートヘアは金髪ロングヘアと変わり、童顔な青年の顔は、少し幼さの残る美少女の顔に。大きな目とぷっくりとした桃色の唇が可憐だ。そして細身であまり凹凸のない体が、肉感的な曲線美を持つ体へと変化する。
「へへっ、そうこなくっちゃな! いやしかし、いつ見てもいい女だなぁマルファは! 最高だぜ!」
タラスクは興奮した様子で僕をベッドへと押し倒し、服を脱がして行く。マルファになった僕の豊かな胸が、タプンと揺れる。
「くあああ! たまらねぇぜ! 俺が今何考えてるかわかるか、マルファ!」
僕に馬乗りになったタラスクが、そう言って腕でヨダレを拭う。
「ああ、見えてるよ君の思考。全く、君が考える服装はどうしていつも布地が少ないんだろうね」
聖女になった僕には二つの特殊な力が発現する。一つは運命を操る力。もう一つは、思考を読み取る力だ。
タラスクが考えているのは、かなりセクシーなメイド服。小さなエプロンがついたマイクロミニスカートに、際どい細さのパンティ。そしてトップスは胸の谷間を強調したフリル付きノースリーブで、丈が短く下乳も出ている。もちろんおへそも丸出しだ。
「男の性って奴だ。お前も普段は男なんだから分かるだろ?」
ニヤリと笑うタラスク。
「まぁわからなくも無いけど、君のは少し度が過ぎるよ。わかった、着るよ、着るから!」
イジけた表情を見せるタラスクを慰め、僕は服装を変化させる術を使う。
「ロストレス・アルフォ! 聖換装!」
僕の体が輝き、脱げかけの衣服も輝きを放つ。そして光が消えると同時に、僕の体には「マイクロ・セクシーメイド服」とでもいうべき衣装が纏われていた。
「うわぁー! いいなやっぱ! うんうん! すっげー似合うよマルファ! それじゃ、いただきます!」
「こ、こら! 鼻息荒いぞ! 優しくだぞ! やさしく......っ!」
言いかけた僕の唇を、キスで塞ぐタラスク。それから数時間、彼はたっぷりと僕の体を味わった。
◆◆◆
「ふー。堪能したぜ」
「......バカ。優しくしてって言ったのに」
僕はベッドに腰掛け、すっかり乱れた衣服や髪を直しつつ悪態をついた。部屋に設置されたゼンマイ機構の時計を見る。もう昼過ぎだ。
「なぁ、マルファ。これからどうするんだ?」
僕を後ろから抱きしめながら、耳元に囁くタラスク。
「ん? うーん、どうしようかな。聖女である僕にも国護りの役目があるし」
このリーファス王国を護る「国護り」の役目を持つのは「聖王」「聖女」「勇者」の三人。僕は十五歳で聖女の役目を拝命してからというもの、数えきれない人々を救って来た。その中には、勇者セレスティンとその仲間も含まれる。
「あんな風に侮辱を受けたんだ。少し休んでもいいんじゃねぇか? お前はもう、十分役目は果たしてる。この街の近くの森に、湖がある。そのほとりに家を建てるんだ。そして俺と一緒に暮らそう。畑で作物を作って、釣りや狩りをしながらのんびり暮らすんだ。きっと楽しいぞ」
少年のように目を輝かせながら語るタラスク。
「いいね。うん。そんな生活も、確かにいいかも知れない」
ユティファを失った事で、僕の心は深く傷ついていた。一度休養を取るのもいいだろう。きっと聖王様も許してくれる。
「よし、そうと決まれば早速......!」
タラスクは僕をお姫様抱っこして立ち上がる。
『助けて!』
!? この声は......!
「待って、タラスク!」
「どうした、マルファ」
『助けて、聖女様......!』
「僕に助けを求める声だ! 早く行かなきゃ!」
「またかよ! 全く、休もうって話したばかりだぜ?」
「やっぱ無理! 困っている人を放って置けないよ!」
「やれやれ」
呆れたように頭を掻くタラスクの腕を振り解き、部屋の扉を開け放つ。そして扉の並ぶ通路を走り、階段を駆け降りる。すれ違う宿泊客や、宿屋の主人の驚く顔を尻目に、僕は声の主の元へとひたすら走った。
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