第1話 幼馴染を勇者に寝取られ、パーティーを追放された。
「マルコ、お前今日でパーティークビな」
「えっ!?」
「国護り」の役目を持つ「聖剣の勇者」セレスティンは、勝ち誇った顔で僕にそう言った。その右手は僕の恋人で幼馴染、ユティファの肩を抱いている。
「ごめんねマルコ。みんなで話し合って決めたの」
ユティファは申し訳無さそうに僕を見つめた。それからセレスティンと見つめ合い、微笑む。その目はまるで恋人同士のようだった。僕は悟った。つまり二人は、もう恋仲。僕の恋人は、信頼する仲間によって奪われてしまったのだと。
「そんな......酷いよ」
僕の心は短剣を突き刺されたように、ズキズキと痛んだ。
ここは宿屋の一室。僕の部屋だ。昨晩ユティファの部屋から二人の声が聞こえてきたから、妙だなとは思っていた。
「だけどみんな、僕の未来予知は頼りになるって言ってたじゃないか! マルコがいれば安心だって! どうして急にクビなんて言い出すんだ! それに、それに......」
悔しさで言葉が続かない。僕は涙が溢れるのをこらえる事が出来なかった。クビになるのも納得は行かないが、仲間である筈の勇者セレスティンと恋人ユティファの裏切り。悲しい。悔しい。気が狂いそうだ。
「どうしてって言われてもなぁ。お前、全然戦闘の役に立ってねぇじゃん。仮にもこの勇者様の仲間だってのによ。それに正直、未来予知も本当かどうか確かめようがない。無能のお前が嘘を付いているだけかも知れねぇ。アデルもルカもそう言ってたぜ。お前もそう思うだろ、ユティファ」
「う、うん......。私も、そう思う......」
「そんな......」
なんて事だ......。みんなは、僕をそんな目で見ていたのか。確かに僕は戦闘スキルを持っていないから、戦力外ではある。だけどその分ユニークスキルの「未来予知」を使って危険を察知し、みんなを守って来たつもりだ。それを嘘だと思われていたなんて......。それに僕は探索士。ランクはEだけど、その役割である地図の作成や素材収集、道案内もしっかりこなしていたつもりだった。決して役立たずなんかじゃない筈だ。
それに仲間ってのはそれぞれ、自分の役割を果たせばいいんじゃないの? 違うの? 探索士に戦闘力なんて求めちゃいけないよ。
僕は他の仲間の事を考えた。アデルは渋いおじさんで最高Sランクの鍛冶士。装備品の具合を見てくれるし、怪物からの戦利品を鑑定もしてくれる。斧を用いた戦闘も得意だ。
ルカも同じくSランクの医師。落ち着いた感じの知的な好青年で、みんなの怪我を手当てしてくれるし、短剣での戦いも卓越している。
そしてユティファ。彼女はSランクの冒険者。冒険者の役割は弓や剣を用いた狩りや護衛。そして罠の作成や罠の解除。ほぼ戦闘に特化した職業。その全ての技能において、ユティファの実力は最高だった。
さらにその容姿は、誰もが虜になるであろう美しさ。漆黒に輝く長い黒髪。切れ長で意思の強そうな目。形の良い唇は、アヒルのようにやや突き出していて愛らしい。クールな印象に反比例するかのような、快活な笑顔。その全てが魅力的だった。
客観的に見れば、Sランクの揃う中で僕だけEランク。確かにかなり浮いている気もする。怪物達の襲撃から国を護る大切な役目を持った「国護り」のパーティーメンバーとしては、役不足に見えてしまうのだろうか。
まぁそれは、表向きの話だけれど。実は僕には、秘密があるのだ。だけど理由があって、それを明かす事は出来なかった。そんな事をすれば、追放されるまでもなくパーティーを去らなければならない。
「ま、そう言うこった。納得出来たか? お前はあくまでもユティファのオマケ。ユティファがどうしても一緒にいたいって言うから、お情けでパーティーに置いてやってたんだ。でももう、ユティファはお前を見限った。俺の方が好きなんだそうだ。つまりお前の居場所は存在しないのさ。んじゃな。あばよ無能のクズ!」
セレスティンはそう言って、ユティファの肩を抱いたまま出ていこうとする。
嫌だ! 嫌だ! セレスティンや他の仲間は別にいい! もう顔も見たくない! だけどユティファは別だ! 離れたくない!
「待ってユティファ! 僕の未来予知が無ければ、きっと危険な目に遭う! もしかしたら死ぬ事だってあり得るんだ! だから、パーティーを抜けてくれ! そして僕と一緒にいて欲しい! 必ず君を、幸せにするから!」
僕の叫びにユティファは振り返るも、悲しげに自身の左手薬指を僕に見せた。そこには、僕の知らない指輪が嵌めてあった。きっとセレスティンにプレゼントされたのだろう。
「ごめんねマルコ。私はセレスティンを選んだの。私を幸せに出来るのはあなたじゃない。彼よ」
「そんな......! ユティファ! 結婚の約束までしてたのに......!」
「さよなら。私は彼の子供を産むわ。もう、何度も抱かれたの」
ユティファはそう言って、僕から目を逸らした。僕は絶望のあまり、呼吸が止まりそうになった。
「だそうだ。残念だったな」
ドヤ顔で舌を出し、セレスティンはユティファと共に部屋を出て行った。無情に響く、扉の開閉音。
「ユティファ......! 君だけは、救いたかったのに......!」
僕には彼らの行く末が見えていた。僕をパーティーから外した事により、彼らの運命は劇的に変わる。最悪の方向へ。未来予知を持つ僕にはそれが分かっていた。
もしも僕がそばにいたのなら、彼らを助ける事は出来た。何故なら、運命を操作出来る「時の聖女」に変身出来るからだ。これまでも仲間達に襲いかかる一切の苦難を予見し、遠ざけ、幸運だけをもたらしていた。
だがもう、彼らの心配をしてあげる必要は無くなったようだ。さすがの僕も、これ以上は慈悲をかけられない。今後は自分の生きたいように生きるとしよう。
さよなら。かつての仲間達。
さよなら、ユティファ。そして君を好きだった僕にも......さよならだ。
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