クリスマスイヴ -光と唯志-
十二月二十四日。
今年は金曜日がクリスマスイヴとなり、世間には例年よりもほんの少し浮ついた空気が漂っている。
周りを見れば、サンタの格好をしたコンビニ店員や、手を繋いで歩くカップルが目に付く。
そんな中、光は梅田駅で唯志を待っていた。
――
「せっかくデートなんだし、どっかで待ち合わせしようか。」
――
直接家に向かうという選択肢もあったが、そう言う唯志の意見で待ち合わせをすることになった。
光は、確かにこの方が雰囲気が出るなと感心していた。
(うー、でも余計緊張もする―。)
道行く幸せそうな人たちを眺めながら、光ははらはらどきどきしながら唯志を待った。
唯志は仕事が終わってから来るらしい。
だから今日は光の方が先に着いている。
光はと言うと、店長が気を遣ってくれたのか、今日は少し早くあがらせてくれた。
おかげで、デートで男の人を待つという初めての体験をしている。
(唯志君、まだかな。)
待ってる時間もデートのうちということだろうか。
光はかなり早く来てもうずいぶん待っているが、とても楽しかった。
「悪い、待たせたね。」
今か今かとはらはらしていたら、いつの間にか真横に唯志が立っていた。
「あ、唯志君、お疲れ様!」
光は嬉しそうに唯志の方を見た。
見るとスーツ姿で、仕事あがりでそのまま来たんだろうことが窺えた。
(唯志君のスーツ、カッコいい。)
普段と違う雰囲気と恰好故だろうか。
それに、多分恋する乙女補正が入っているんだろう。
だが、唯志のスーツ姿を見るのは初めてではない。
以前に佐藤の事務所に集合した際もそうだったはずだ。
しかしあの時は必死過ぎて、周りを見る余裕が無かった。
「ひかりんその服新しいやつ?」
見ると光も真新しい服を着ていた。
「うん。お給料もらったから冬服買ったの。」
「へえ。似合ってるね。」
「ほんと!?うれしい。」
光は唯志に褒められて、手放しで喜んだ。
「ほんとほんと。じゃ、行こっか。」
そう言うと、唯志は光を連れて歩き始めた。
「どこまで行くの?」
横を並んで歩く光が唯志に質問する。
「ちょっとなんばまで。」
――
「うわー、すごいー。」
なんばの大型商業施設。
その上。
光の目の前には煌びやかに装飾された空間が広がっていた。
右も左も光り輝く景色に、光も目を輝かせて喜んだ。
「どう?御要望にお応えできましたか、お姫様。」
今日、わざわざここまで出向いたのは、光の要望だった。
光が唯一希望した内容。
それは『イルミネーションを見に行きたい』だったから。
「うん。ねぇ唯志君、あっちも見に行こうよ!」
そう言うと光は唯志の手を掴んで引っ張った。
――
あちこちはしゃぐように回る光と、それについていく唯志。
気が付けば三十分以上も見て回っていた。
気が付くとひときわ大きい、例えるなら光の草原とでもいえる場所の前にいた。
「奇麗だねー。」
光はうっとりとして、その草原を見つめていた。
「写真撮ってやろうか?」
と唯志が言う。
「あ、良いね。唯志君も一緒に写ろうよ!」
光はぱぁっと表情が明るくなった。
「いや、俺はいい――」
「いいからいいから!」
満面の笑みを浮かべる光に、それ以上断ることが出来ない唯志だった。
光は手際よくそのあたりの人に声をかけ、写真の撮影を御願いした。
そして唯志の手を引いて強引に連れて行った。
「はい、ちーず。」
別世界の様な輝きの前で、それに優るとも劣らない笑顔の光と、少しむすっとしている唯志。
光にとって、唯志との初めての写真が残った。
――
「えへへー。」
唯志のスマホから先ほどの写真が送られ、光は上機嫌だった。
「・・・」
一方の唯志は、未だにムスッとしている。
唯志は写真を撮られるのが好きではないからだ。
「唯志君、機嫌直してよー。」
そう言いながらも光はニコニコしていた。
余程嬉しかったんだろう。
「はぁ。まぁひかりんが喜んでるなら良いか。」
とは言っているものの、顔色は冴えない。
「うん。今日はとっても楽しいよ。連れてきてくれてありがとう。」
「そろそろ最後かな。」
並んで歩く二人は、ひと通りの場所は見て回った。
今着いた場所で最後のエリアだった。
そこにはハートの装飾をされたイルミネーションと、鐘のようなものが建てられていた。
「ここで最後?あれって何―?」
現代人ならこの建造物の意味がなんとなく分かる。
でも光にはその意味が分からなかった。
「ああ、あれ恋人同士でくぐって、鐘を鳴らすと幸せになれる的なやつだよ。所謂願掛け。」
唯志は淡々と答えた。
「あーなるほどー。」
光は淡白なセリフとは裏腹に、そわそわしていた。
「ひかりん、あの手紙まだ持ってる?」
「・・・うん。まだ持ってるよ。今も。」
寒いからか、照れているからか、イルミネーションのせいか。
電飾に照らされた光の顔は、紅潮している様に見えた。
「その手紙、もう一度俺に貰えるか?」
「え、それって――」
光が言い終わる前に、唯志は何かを差し出した。
「これ、俺からのクリスマスプレゼント。」
唯志が差し出した小さな箱には、シルバーのリングが収められていた。
「この時代で、右手薬指のペアリングは恋人の証。受け取ってくれる?」
そう言って唯志は光の右手に手を当てた。
「えっと、あの、はい。・・・私で良いの?」
「良いも何も、これが答え。」
唯志は、光の指にそっとリングを通した。
光は黙って右手の薬指を眺めていた。
その目はイルミネーションのせいか、輝いて見えた。
「光。」
「え、はい!」
光はびっくりしすぎて、声が上ずってしまった。
「ここ、くぐって、鐘ならそうか。」
「・・・うん!」
唯志は光の手を引いて、光り輝くハートの装飾をくぐった。
そして、二人で一緒に鐘を打ち鳴らした。




