光のこれから②
「ひかりん。」
「どうしたの、唯志君。」
光はケーキを幸せそうに食べながら答えた。
「これからどうすんの?」
「え、あの、泊まっていけってこと?」
光は顔を真っ赤にして照れていた。
「いやそうじゃなくて、今後の話。また未来に帰る方法探すの?」
照れて浮ついていた光に対して、唯志はいたって真面目なトーンだった。
「あ、そっちか。」
光は少ししょんぼりして見せたが、気を取り直して返事をした。
「うーん。唯志君、正直に答えて欲しいんだけど、未来に帰れると思う?」
「わかんね。少なくとも俺らには無理じゃねーかな。」
「だよねー。」
そう言うと光はうんうん唸りながら頭を悩ませていた。
光は「ふぅ」と息を漏らし、少しきりっとすると改めて口を開いた。
「あのね、唯志君。私も帰るのは無理だと思うの。だからこの時代で生きて行こうって思ってる。」
光はそう言うと、少し寂しそうに笑った。
「良いのか?」
「うん。それにこの時代には唯志君とか莉緒ちゃん、他のみんなもいるからね。寂しくないよ。」
「そっか。納得してるなら、いい。」
「うん!ただね、未来の家族とかも心配してると思うんだよね。それだけが気がかりかな。」
光は「あはは」と困ったように笑って見せた。
多分本当は気が気じゃないほど気がかりなんだろう。
ただ、諦めるしかないと自分に言い聞かせている。
そんなところだろうと唯志は思った。
――
ケーキを食べ終わって、光が後片付けをした。
唯志は自分でやろうとしたが、光が自分がやると譲らなかった。
そして今は部屋の片付けもしていた。
同じく唯志は断ったのだが、簡単なところだけと言ってきかない光に押し切られた。
なお、唯志は座って休んでるように言われ、ソファーに腰かけていた。
「吉田とか御子は元気か?」
「うん、いつも通りだよ。あの二人仲良いよね。」
光はくすくすと笑った。
「性格真逆だけどな。」
唯志もニヤニヤ笑っている。
笑顔で掃除を続けていると、PCデスクの上のあるものに目がいった。
「あ!これ!」
光がじっと睨みつけていたのは、光が作戦前に唯志に送った手紙だった。
光はそれを見ながら、みるみる顔が真っ赤になり、ぷるぷる震えていた。
「ああ、それな。ひかりんからのラブレター。」
平然と言ってのける唯志に、光は余計に恥ずかしくなり、顔を覆った。
「わーわー!言わないで!」
慌てふためく光に対して、唯志はその様子をニヤニヤしながら見ていた。
――
光が落ち着くまで少しの時間がかかった。
まだ恥ずかしいようだが、とりあえず落ち着きはしたようだ。
「ううー。それ、読んだんだよね?」
光は上目遣いで唯志の様子を窺った。
「うん。」
「うー。違うの。それ、言うつもりは無くて。昨日が最後だと思ってたから、その・・・。」
「へぇ。」
唯志は手紙を手に取って、手元で遊ばせていた。
「うー。だから、あの、忘れて欲しいなぁ。」
光は弱弱しく言った。
「わかった。忘れる。」
光の申し出に対して、唯志はあっさりと即答した。
「え?」
光は自分で言っておいて、口を開けてポカーンとした。
「ん?どした?」
「え、いやその・・・。忘れられるのも悲しいって言うか。」
今度は目を潤ませている。
「まぁとりあえず落ち着きなって。落ち着いてからまた考えたらいい。」
唯志は光に手紙を手渡した。
「えっと・・・。」
光は意味がよくわからなった。
「ひかりんはさ、急に過去にきて、頼れる人がいなくて、色んなことがあって。」
「うん。」
「最後には自分が死ぬかもって状況だったわけで。」
「うん、そうだよ。」
「一種の吊り橋効果状態だったんだよ。そんな中、一番頼れたのが俺だった。そんなのフェアじゃないだろ。」
「そうなの・・・かな?」
「弱みに付け込んだようなもんだよ。これからは普通の生活に戻るんだ。そんな中でもう一度じっくり考えた方が良い。」
「うーん。」
光は半信半疑といった表情だった。
「今後さ、普通の生活していく中で、俺なんて必要ない。そう思うかもよ。」
「そんなことない!・・・ないもん。」
光は俯いてしまった。
「別にそれは悪いことじゃない。たいていの人はそうだから。」
唯志も複雑な表情をしていた。
唯志の過去の経験から言っているのだろうか。
光は黙って聞いていたが、今にも泣きだしそうだ。
「ひかりん。今後さ、普通に生活して、それでも同じ気持ちでいてくれたら。その時はまたその手紙を受け取らせてくれないかな。」
唯志は光の頭をぽんぽんと撫でながら言った。
「私は変わらないよ。」
光は唯志をじっと見つめてはっきりとそう言った。
「だと嬉しいけどな。あ、このストラップは貰っておくけどね。」
唯志は手紙と一緒に貰ったストラップを、自分の机に置きながら言った。
「それなら、これからは普通に遊びに来たりしても良いってことだよね?」
光は急に表情が明るくなった。
「え、まぁ、うん。」
光の急な変化に、またも唯志はたじろいだ。
「えへへ、じゃあ明日から毎日ご飯作りに来よーっと。」
光は嬉しそうにしていた。
「いや、待て。それは断った――」
「唯志君が良いって言ったもん。遊びに来たりして良いって。」
「言ったけども・・・。」
「じゃあ良いよね。」
満面の笑みで見つめる光に、唯志は言い返せなかった。
「えへへー。明日は何作ってあげようかな~。」
無邪気に喜んでいる光を見て、唯志はそれ以上口を出すことが出来なかった。
光が過去にきて五か月ほど。
光は初めて唯志から主導権を奪い、御満悦だった。




