それぞれのまにまに
十月二十五日。
時刻は十九時ごろ。
唯志が〇▽人工知能研究所付近をうろうろとしている頃。
御子宅では光の作った夕食を三人で食べているところだった。
「ええ!?唯志君から電話があったの!?」
光は御子の何気ない世間話に大袈裟なほどに驚いているところだった。
「うん、さっき。めんどくさい頼み事してきおったで。」
御子は光の作ったポトフを口に運びながら話していた。
「うー、私には忙しいって言ってたのにー。」
光は露骨にしょんぼりしていた。
「忙しいのは忙しいんちゃうか?周囲の雑音すごかったし、外やったと思うで。」
御子は一応のフォローを入れた。
「そうなんだ・・・。でも、唯志君御子ちゃんには頼み事するんだね。私、されたことないや・・・。」
そう言うと光は更に落ち込んだ表情を浮かべた。
この間、拓哉は黙々と光の作った夕食を食べている。
ちなみに本日は、ポトフとナポリタンと簡単なサラダだった。
「まぁ内容的にな。うちにしか出来へんことやし。」
これはフォローなんだろうか。
意外と気を遣う御子のことだから多分フォローなんだろう。
「どんなこと頼まれたの?」
光はジトっと御子を見つめた。
「なんか山田の現れた日付が知りたいとか。それとその付近で×□科学研究所ってとこが、うちの顧客にあらへんかとか・・・。言っとくけど、意味は分からんで?」
御子は唯志に頼まれた内容をそのまま話した。
「うーん、それじゃあ確かに私じゃ無理だ。」
光は「はぁ」とため息をついて、食事の続きに戻った。
食事を摂りながら、光は話を続けた。
「唯志君、この前あった時いつもより元気なかった気がするんだよね・・・。ちょっとやつれてた気もするし。」
光は悲しそうに言った。
拓哉は聞きたくないのか、黙って黙々と食事を続けている。
「心配なん?」
御子が光に聞く。
「うん・・・。多分莉緒ちゃんと別れたのも原因だと思うんだけど・・・。」
光がそう答えると、御子は拓哉の方をちらっと見た。
(はぁ。露骨に不機嫌な色出とんな。)
御子は拓哉の色を確認していた。
当然ながら、この会話の内容は拓哉にとって面白いものではない。
御子の予想通り、拓哉は不機嫌な感じだったようだ。
「ごちそうさま。」
拓哉は食事を早々と食べ終わってそう言うと、自分の食器類を流し場に運んで行った。
「あ、置いておいて良いよー。あとで私が全部やっちゃうから。」
光がそう言うと、拓哉は「ありがとう。」とだけ告げて自室に帰って行った。
(めんどくさいやっちゃな。しかし、光も全く気付いてないのも凄いけど。)
「はぁ・・・。唯志君、大丈夫かな。無理してないかな。ご飯食べてるかな。」
光は光で恋する乙女のような悩みを口にしていた。
いや、実際そうなんだろう。
「そんなに気になるなら、明日でも押しかけてみたらええやん。」
御子は何気なく思ったことを口にした。
「だ、ダメだよ!迷惑かもしれないし・・・。」
光は即否定した。
「でも気になるんやろ?」
「でも・・・。迷惑かけて嫌がられたらやだし。」
光は何やらもじもじとしている。
(こっちはこっちで重症やな。多分唯志のことで頭がいっぱいなんやろ。)
御子は小さくため息をついた。
「まぁ明後日は唯志も来るんやろ?どっちにしても明後日会えるやん。」
そう言う御子に、光は小さく頷いた。
「唯志君・・・」
光はそう呟くと、こちらも小さなため息を漏らした。
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自分がどうしたいのかわからない。
自室に戻った拓哉は一人ベッドに横たわって考え込んでいた。
光が現代に現れてから四ヶ月半ほど経った。
それからの拓哉は、良し悪しはともかく光のことばかりを考えていた。
自分の人生に突然ヒロインが現れた。
そう思って頑張ってきたつもりだった。
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だけど、ヒロインは俺のヒロインじゃなくて。
結局俺はモブでしかなくて・・・。
じゃあここで止めるのか?
正直なところ、かなり序盤から俺はついていけてない。
俺がここで止めたところで、何の影響もないだろう。
光ちゃんならきっと、笑顔で許してくれる。
・・・それじゃダメだ。
今回は違う。
今までの負けを認めてた、何かあると逃げてた俺とは違う。
絶対に光ちゃんの為に役立つんだ。
そう思っていた。
今回は全力で頑張ろうと思った。
だけど・・・
未来を変えたら、光ちゃんの存在はどうなる?
俺がどんなに頑張ったところで、結局この道は袋小路じゃないのか?
それでも俺は・・・光ちゃんの為に・・・。
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拓哉は拓哉なりに考え、光の望みである未来を変えることに全力で協力することを誓った。
だが、頭の中から消えない。
未来が変わったら光がどうなるのか。
そういう疑問が。
光が喜ぶから協力はする。
光に好かれたいから協力はする。
だけどその結果、光の存在が無くなるんじゃないのか?
なら協力するより邪魔してでも光を消さない方を選ぶべきじゃないのか。
たとえ、嫌われたとしても。
わからない。
拓哉は拓哉なりにひたすら考えていた。
光の望みを叶え、光が消えてしまう世界。
光の望みを阻み、ただの引き立て役のモブになる世界。
どちらかしか選べない。
どちらも自分の望んでいる世界ではない。
結局今日も答えは出せないまま、深い眠りに落ちていった。




