その1 突然の解雇と、幻想郷。
なんか、唐突に昔の血が騒ぎだした件について。
それと同時に、ニコ〇コ動画でこれの動画まで投稿し始めました。
「今日はなんとか、日付が変わる前に帰れたな……」
築五十年のボロアパート。
その一室に帰宅して、俺は大きく息をついた。
社会人になって今年で六年目。身体はすっかり残業に慣れてしまい、上司の嫌味に対しても疑問を持たなくなってしまった。これはもう、ある意味で奴隷精神が養われていると、そう考えても良いだろう。
「もっとも、なにか取柄があるわけじゃないから。今の会社にしがみつくしか、生きていく方法はないんだけど……」
残業が当たり前で、金払いが悪い会社でも。
俺にとっては間違いなく、居場所であることに違いなかった。もしこれを奪われたら、それこそ世の中からの爪弾き者になってしまう。
それだけは、絶対に避けなければならなかった。
だから――。
「今日は、珍しく時間があるからな。なにをしよう……」
暗い思考になる前に、俺は意識的にそう口にした。
せっかく早く帰ってこられたのだ。今日は、普段できないことをやろう。そう思ってしばらく考え込んでいたが、何も案が浮かんでこなかった。
それも、そのはずなのかもしれない。
俺には本当に、趣味というものがない。
毎日、夜中まで働いて。朝になったらまた会社に出勤して――そんな繰り返しの日々で、趣味に時間を費やすなんて、できるわけがなかった。
「困ったな」
自然と、そんな言葉が口をついて出た。
思ってもないものだが、言われてみれば困ったものだ。
こういった時間を潰すものがないと、ただ部屋で一人ボンヤリしているしかなくなる。もしかしたら、それでもいいのかもしれない。でも、さすがに退屈だった。
だから俺は、仕方なしに学生時代の記憶を手繰る。
「といっても、部活ばっかりで面白いことなんて……ん?」
そして、あるものを見つけた。
「東方project――か」
それは中学時代、友人に誘われて遊んだゲームの記事。
高校に入ってからは触れていなかったけれど、どうやらまだ続いている様子だった。あの頃はそれなりに遊んでいたが、今がどのような話になっているかは分からない。たしか、幻想入りシリーズ、というものがあったような……?
「懐かしいな。久々に、調べてみるか……」
そんな独り言を口にしながら、俺は某動画サイトにログインする。
その夜は、いつ以来だろうか。
楽しいと思える、そんな日になったような気がした。
◆
――でも、楽しい時間には必ず終わりがある。
そして幸せの次には、決まって不幸がやってくるものだ。
「……え、あの。それって――」
「なんだ、もう一回言わなきゃダメなのか? クビだよ、クビ」
「………………」
翌日、出社すると。
なぜか分からないが、俺の席には何もなかった。
理解が追いつかずに上司に訊ねると、返ってきたのはそんな言葉。
「……そん、な!? 仮にそうだとしても、急すぎます!!」
「ん、なんだ? 文句でもあるって言うのか」
「そんなの当然でしょう!!」
俺が声を荒らげると、上司はなぜか不気味に笑みを浮かべた。
そして、こう言うのだ。
「あぁ、でも。労基に言っても無駄だと思うよ?」
「それは、どういう意味ですか」
「あそこには、社長の親類がいてね。いくらでも揉み消せるんだ」
「な……っ!?」
たとえ陳情しても、意味はないのだ――と。
つまり俺は、戦う前から負けが確定していた。
そして、この瞬間に俺は――。
「じゃあな、負け犬」
上司がそう言って、俺の肩に手を置いて笑った。
目の前が真っ暗になる。
こうして俺は、本当の意味で世間から取り残されたのだった。
◆
「…………」
これから、どうすればいいんだろう。
そんなことを考えているうちに、気付けば夜になっていた。そして、どうやってここまで来たのか分からないが、人気のない公園が目の前にある。
それなりに大きな湖に面した公園だ。
俺はそのほとりまで歩いて、無意識のうちにそこを覗き込む。
「あぁ、今まではなんだったんだろう」
口をついて出たのは、そんな言葉だった。
それと同時に、なにかがプツンと切れたような感覚。
「本当に、どうして……?」
すると、何年振りか分からない。
大粒の涙が、とめどなく頬を伝い落ちていった。
「なんで、どうしてだよ……!」
感情を言葉にできない。
もう、なにも冷静に行動なんてできなかった。
そうしていると、いつの間にか俺の足は湖の方へと向かっていて……。
「終わりだよ、もう。もう終わりなんだ……」
――あぁ、冬の水は本当に刺さるようだ。
そう思いながら、俺は目を閉じる。
呆気ない、人生の終わりだった。
◆
――幻想郷。
そこにある博麗神社、その近くの森の中。
博麗霊夢は、大きな欠伸をしながら目を擦って歩いていた。
「まったく、紫ったら。ここに何があるってのよ……」
そして、親交のある妖怪への文句を口にする。
昨夜の出来事だ。
就寝しようと思っていた頃合い、彼女は唐突に姿を見せた。怪訝な顔を隠そうともしない霊夢に対して、紫は不敵な笑みを浮かべる。そして、こう告げた。
「こんな場所に『落とし物』って何なのよ……」
それを拾ってきてほしい――と。
「人にものを頼むなら、それが何なのかくらい教えなさい、っての」
霊夢は呪詛のように、不満を続けた。
あの大妖怪は神出鬼没で、このような案件を持ち込むことがある。しかしながら理由や仔細については後回し、ということが稀にあった。
巫女はそれに腹が立って仕方ないのだが、ぐっとその感情を抑え込む。
何故なら――。
「まぁ、ね……?」
その『落とし物』が、金目の物だった場合があるからだ。
紫曰く、拾った後は好きにしていい、とのこと。
つまりタダで貰えるもの、という話であった。
「せっかくだし、貰える物は貰っておきましょう」
決して損にはならない。
博麗霊夢の守銭奴な心が、そう囁いたのだった。
そんなわけで、森の中を進むことしばらく。雑草を掻き分けた時だ。
「はぁ、そろそろ問題の場所だけど――ん?」
小ぶりな木の下に、人間の姿を認めたのは。
「この格好、外来人……? ずいぶんと、久しぶりね」
出で立ちからして、間違いないだろう。
そう考えた時に、霊夢は紫の言っていたことを理解した。
「あぁ、はいはい。そういうことね……ったく」
そして、大きなため息一つ。
頭を掻いて、木にもたれかかっている彼を見るのだった。
「分かったわよ。まったく……」
博麗神社の巫女――博麗霊夢。
ぶっきら棒にも思えるが、彼女は存外に世話焼きなのかもしれなかった。
はよ続き書けや
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