第3話
放課後、俺は国民的アイドルだという天野沙由里の部屋にお邪魔していた。今、七瀬綾香が好きだと言うホラー映画を鑑賞しているのだが、みんな男の俺がいることを忘れているのか、映画に集中しているのか無防備なかっこで過ごしている。びっくりするシーンではたまに俺に抱きついてくるアイドル。早く映画が終わってほしい。そうでないと理性がもたない。少しして映画が終わりなんとか理性を保った。
「あー、面白かったー!最後は衝撃的だったね」
「あんな結末にもっていくシナリオもあるのね。私の小説に参考にさせてもらうわ。沙由里はどっだった?」
「え?全然怖くなかったよ!よ、余裕かなー」
すごい嘘つくじゃないか。ずっと震えてたし、怖いシーンある度、無意識に俺に抱きついてたのに。まぁ、でもこういうところもアイドルとして人気の出る理由でもあるんだろうな。でも、こんなこと、俺はモテる素質じゃないって理解してて勘違いしたりしないけど、他の男にこんなことしてたら勘違いする男もいると思う。心配だから後で注意しておくことにしよう。って俺はもう親しくなったつもりでいるのか?流石アイドルは男の心をキャッチするのが上手いな。沙由里と咲はトイレに向かってしまい部屋では綾香と2人きりになってしまった。
「隼人くんはどうだった?怖くてちびったりしてない?」
「こんなことでちびったりしないです」
「そういや、なんでそんなに丁寧な口調なの?普通に喋ってくれて大丈夫だよ?」
「いや、でも3人は俺と比べ物にならないくらいすごい人だし、ちょっと敬意は払わないといけないかなって思ったから」
そうだ。まず俺が対等に喋れてる時点でおかしいのだ。会話をすることを許されてるってことだけでありがたく思うべきなんだ。しかも何百万払ってでもアイドルの家にお邪魔したいって思う人もいると思うのに俺はタダでお邪魔させてもらっている。ほんとこの状況は異常なのだ。
「そんなことない!隼人くんは私の大切な人で恩人なんだから…」
「あ、ごめん。後の方よく聞き取れなかった。なんて言ったんですか?」
俺の名前を言ったあたりから小声になってて良く聞き取れなかった。『恩人』みたいな言葉が聞こえてきた気がしたけど、分からなかったので、聞き返すことにした。
「ううん。なんでもないよ!とにかく敬語はダメ!普通に喋ってよ?」
「え、でも…」
「でもじゃないよ!沙由里と咲も隼人くんには普通に接してほしいと思ってると思うよ。」
雲の上の存在に同じ空間にいるだけでもすごいのにタメで喋っていいとも言われて本当にいいのかと思いながらも、ここはご好意に甘えてそうさせてもらうことにした。
「じゃあ普通に喋らせてもらうよ。改めて、俺は右京隼人だ。『くん』つけなくていいから隼人って呼んでくれ」
「私は七瀬綾香!私も呼び捨てで構わないからね!あ、なんなら隼人には特別にお姉ちゃんって呼んでもいいよ?」
「俺は勘違いしたりしないからいいけど、そういうことは好きなやつ以外にいっちゃダメだぞ?勘違いしてしまうから。」
「そういうことは隼人にしか言わないから心配しなくても大丈夫だよー」
「はいはい、もうからかうの終わり。」
「本当なんだけどなー」
最後に綾香が発した言葉は俺の耳には届かなかった。何故か顔が赤くなっているのは気になったが夏も近いし、暑いんだろうなと思ったので気にかけなかった。この後お手洗いに行っていた2人は戻ってきて、少し喋ったあと、外はもう暗くなり始めてきていたので、ここあたりで解散することになった。沙由里や執事さんには家まで送ると言っていただいたが、ここから家まではそこまで距離がなかったので、歩いて帰ることにした。あ、咲と沙由里も俺が綾香を名前呼びしていたら、
「え、なんで綾香と隼人くん名前呼びすてで呼び合っているのよ!ずるい!!じゃなくてみんな名前呼びの方がいいから私のことも沙由里って呼んでね?私も隼人って…呼ぶから…」
「私のことも名前で呼んでほしいわ。私も隼人って呼ぶから」
と沙由里と咲に言われたので、2人も名前を呼び捨てで呼び合うことになった。
「今日は色々あったなー。まさかアイドルの家お邪魔する日がやってくるなんて…3人の美女と名前で呼び合うことになったしほんとすごい1日だった。」
今日、まだ高校に入学して1日目だというのにかなりハードだった。帰りながら春風に当たって気持ちよく感じていた俺は無意識に独り言を呟いていた。
「なんであの3人は俺にあんな構ってきてくれるのかな…。妹に忠告されているから勘違いしたりはしないけど…」
そう、俺には妹がいる。妹は俺と似ず、とても容姿がいい。なんでここまで俺と差があるんだと思ったりするが、よく考えれば血が繋がってない義理の妹だから違って当然なんだよな。俺とは一つしか歳が離れておらず、中学生で読モをしていて、俺より遥かに大人だなと悲しく思ったりするのだが、何故か誰とも付き合わない。モテるんだから誰かと付き合ってリア充生活送ればいいのにと思うのだが、その話をすると何故かキレられるので話題にはしない。
25分くらい歩いて家に到着した。そこそこ早歩きで帰っていたから早く着いたって言うのもあるが意外とアイドルとの家は近かった。これはすごい発見だな。そんなことを思いながら玄関で靴を脱いでいたとき
「ねぇ、今日学校昼までだったんじゃないの?遅くない?」
「友達の家に遊びにいってたんだよ」
「ふぅーん友達ね。あんたに友達ね。」
「そうだよ。友達だよ」
「もし女の子といたんならほんと勘違いしちゃダメだよ?隼人はカッコいいとかないんだから」
「もう分かってるって。絵里さー、いつもいつも言わなくていいだろ?俺もちゃんと自覚してるって。何回も言われてると俺も傷つくんだよ」
そう、いつも義妹の右京絵里はいつもいつも俺のことカッコよくないと釘をさしてくる。俺も心はあるんだ。
「私は隼人のことを心配して言ってるんだから!女の子と遊びたいんだったら私と遊んだらいいのに……」
「あー、俺のこと哀れんでくれてるんだなー。はいはい、ありがとありがと」
「もうばか隼人!」
妹はいつも情緒不安定なのである。